last resort −Side;Jun Sagami もう何度目だろう。 豪が時計を見ては小さく息を吐き出す。 何を考えてるかなんて、手に取るようにわかるけど。 私は豪のように胸に詰まった息を吐き出すこともできず、楽しそうに豪を連れ回した。 結局、豪が大急ぎで烈の辞書を取りに行ったせいで、 豪が烈に辞書を借りに行ったコトは私にバレた、という形になった。 ホントはもう烈から聞いて知ってたけど。 烈は小さく溜め息をついて、私は少し大袈裟に豪に怒鳴った。 豪は「だからジュンには言いたくなかったんだ」とこぼし、 それを聞き逃さなかった私は豪を今日の荷物持ちに認定した。 烈はそんな私たちを見ておかしそうに笑う。 烈と別れてから、豪が小さな声で私に「サンキュー」なんて言うもんだから 私は心底わからないって顔で「何が?」って答えてあげた。 私たちの間には、いつからこんなに嘘が増えてしまったんだろう。 豪はきっと知らない。 私の告白がどれだけ勇気のいるものだったかとか。 余裕のある振りで、本当は震えそうな身体を支えるだけで必死だったこと。 「幼なじみ」が「恋人」になることがどんなに嬉しかったのか。 そして、今、アタシがどんなに苦しい想いをしているのかも。 でも、それでいい。 私が苦しんでいることを、豪が知れば、そこでこの関係は終わるのだから。 きっと、豪は自分を責める。 自分のせいで私が傷ついたと。 そして、私から離れて行くのだ。 くるっと勢いをつけて後ろを振り向くと両手に荷物を持たされて不満顔の豪がいる。 何よ、これくらい軽いでしょ。 私、烈みたいに一気に買い込んだりしないもの。 まぁ、買わないで見て回るだけっていうほうが付き合わされる側としては 疲れるのかもしれないけど。 とりあえず私は豪の表情にはあえて気づかない振りして近くのデパートを指さした。 「ココで最後ね」 「まだまわる気かよ〜」 「もう服は見ないわよ。 ココの地下のケーキ屋さんおいしいの」 足取りも軽く、ちゃんと豪が付いてくるのを確かめながら中に入る。 「烈もココのケーキ好きって言ってたから、 お土産に買ってって3人でお茶しよう?」 なるべく優しい笑顔を作って言ったつもりだったけど。 私の言葉を聞いて一瞬ぽかんとした後、豪が浮かべた笑顔の方が、 何100倍も優しい顔だったに違いない。 所詮、作り物は本物には敵わないんだから。 それでも。 作り物でもなんでもいいから、豪の気持ちが欲しかったの。 いくら傷ついても、どんなに苦しくても"友達"から抜け出したかったのよ。 途中、私の家に寄って荷物を降ろし、お土産を片手に星馬家へと向かった。 久しぶりにおばさんとゆっくりおしゃべりしたいなぁ。 子供が息子だけのせいか、私のことを自分の娘のように可愛がってくれる 優しくて朗らかなおばさんが、私は好きだった。 豪に続いて玄関に入ろうとして、急に立ち止まった豪の背中にあやうくぶつかりそうになる。 「豪っボケっと立ってないで早く靴脱いでよ」 何故か豪は床を睨み付けたままで。 アタシの声には反応無し。 何なのよ、と豪の視線の先を見ると・・・そこにあったのは革のローファー。 豪や烈が履くにはちょっと・・・かなり小さめよね。 アタシのとかわらないくらいだもの。 かといって、おばさんが履くとも思えないわ。 「・・・・・・豪?」 今度は袖をひっぱりながら呼びかける。 やっと私に気づいた豪は「あぁ、悪い」というと靴を脱ぎ、 鞄を置きに部屋へ上がっていった。 おばさんはいるのかしら?とリビングに顔を出したが 買い物にでも出かけたのか見あたらなかった。 少し残念に思いつつ、ケーキには紅茶よね。 と、私は勝手知ったるでお茶の準備を始めた。 さっきのローファーを見て、豪が連想した人は、きっと私が思い浮かべたのと同じだ。 上に人のいる気配もあるし、烈の部屋にいるのかもしれない。 おばさんの分も数に入れて買ってきたからケーキの数は足りるわよね。 なんて。 私の心配はもっと別の場所にあったけれど。 今は、それを考えたくはなかった。 焦げ茶色のローファーを睨み付けていた豪。 豪がミキ先輩にあんな目をむけることを考えたら。 なんだかそれだけで、泣けてしまいそうだったから。 2階から人が降りてくる気配。 3人がリビングに顔を出す前に、私はティーポットの中で少しずつ、少しずつ広がっていく 葉っぱから目線を上へ移し、溜め息をつくかわりに小さく深呼吸した。 「私までごちそうになっていいの?」 「気にしないでくださいv余分に買ってきてヨカッタ」 「烈、チョコよりショートの方が好きじゃなかった?」 「ココのケーキはチョコレートが美味しいんだよ。 さすがジュンちゃん、わかってるよねー」 「でしょ?」 他愛のないおしゃべりと、美味しいケーキと、暖かい紅茶。 流れる空気は和やかなのに。 豪だけがしゃべらない。 さっきみたいな目はしていないけれど。 泣きたいくらい、胸が痛む。 それでも、私は笑わなきゃ。 豪の隣にいるために、涙は武器にならない。 だから、笑うの。 楽しそうに。 アナタのそばにいるだけで、それだけで幸せだって。ねぇ、豪。to be ... ◇ NEXT ◇ aiko's NOVEL TOP◇ 豪・・・アンタ、もはや、思考と言葉と行動が全てバラバラだよ。 ジュンちゃん、よくついていけるなー・・・。 ところでスカートの下にジャージを履くような女子高生でも やっぱ靴はローファーなんでしょーか。 つーか、あの格好はどう考えても可愛くないんですけど。どーなんでしょーか。 ↑本編と何の関係もない。