last resort −Side;Go Seiba





同じ家の中で、隣り合ってて、同じ作りをしているのに
自分のそれとは比べものにならない程キレイに整頓された部屋の扉を
注意深く、なるべく音を立てないように、閉めた。

そのドアにそっと背をあずけ、天井を仰ぐ。


柔らかな感触を残す唇に、そっと指で触れてみると、胸がざわりと音をたてた。



兄弟のスキンシップと明らかに違う接触。

その暖かさに触れた途端、体中になにかが走って。
その、正体不明のなにかが怖くて、慌てて烈の側を離れた。





















いつからか、音が聞こえていた。







それはまるで自分の目の前に立ちはだかる大きな壁が崩れていくような。


最初はパラパラと、欠片が落ちるような耳をすまさなければ聞こえない程度の。






だけどその音は、少しずつ、少しずつ、確実に大きくなっていて。






毎日。





君を見て。

君と話して。

君が笑って。

怒鳴られて。

甘やかされて。




そのたびに、切り崩されていく壁。





毎日。





君が誰かの隣にいて。

誰かと喋って。

自分以外のヤツに笑いかけるのを見るたびに。






その加速度は、増す一方で。

頭に響く音は、全て崩れきってしまうまでのカウントダウンのようにオレを焦らせた。








そして、さっきの接触で、大きく崩れてしまったソレは、すごい轟音をたて崩れていく。



頭のなかに直接響いてくる大音量に、頭痛を覚えて。




もう、自分の力では、どうにもできない所まできているらしいと思い当たって
豪は小さく笑った。












烈の部屋のドアにあずけていた背中をそのまま滑らせ、床にぺたんと腰をおとす。
先程、自分の唇に這わした指をキリと噛んでみると、少し頭痛がおさまった気がした。















崩れきった時、向こうに見えるのは、光か闇か。



広がる闇のビジョンだけが妙にリアルに想像できてほんの少し立ちすくむ。
胸にあるのは、絶望感。

それと同時に、肩から力がぬけて楽になったような妙な開放感。


ここまで来たら、開き直るしかないか、なんて。
そう思うと少しだけ胸が軽くなった。




















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「おはよう」 部活の朝練を終えて、校舎に向かう途中後ろから声をかけられた。 胸の中だけで大きく1回深呼吸して振り返る。 「オハヨウ、ミキちゃん」 大抵の女の子なら見惚れてくれる笑顔のサービス付き。 まぁ、彼女には何の効力もないだろーけど、見栄とゆーか、意地とゆーか。 「あら、もう機嫌はなおったの?」 優しい笑顔で核心を付いてくるトコなんか、 実は烈兄貴によく似てると思う。 駆け寄ってきて昇降口まで一緒に来るつもりらしい彼女に笑ってごまかすと 「・・・・・烈と何かあった?」 なんて聞いてくる。 オレがストレートに驚きを顔に出すと、彼女はクスリと笑った。 「昨日の今日なのに、随分爽やかだから」 ・・・・・・・・・・・・・そうですか。 オレの気持ちなんてバレバレですか。 ジュンといい、ミキちゃんといい、女って。 それとも、オレの態度があからさまで、それに気づかない兄貴が鈍いんだろうか。 「アタシ、烈のコト好きよ」 前触れのない言葉に息を飲む。 それを気にするでもなく、彼女は先を続けた。 「烈にもそれはちゃんと言ってあるし。  ・・・・・そんなコトすっかり忘れられてそーなトコがちょっとムカつくんだけど。  まぁ、だからね、アタシに敵意むき出しにするのはかまわないわ。  だけど」 登校する周りの生徒には聞こえないような抑えた声なのに 妙にハッキリと耳に響く彼女の声。 「ジュンちゃんは豪くんの何なの?」 いつも楽しそうに明るく笑ってる彼女が、真剣な顔でそう問いかける。 この目、やっぱり、ちょっと烈兄貴に似てるかも。 頭の片隅でぼんやりそんなこと思った。 「アタシ一人の存在くらいでゆらぐ決心じゃ、彼女を傷付けるだけだわ」 「・・・・・・・・わかってる」 「ホントに?」 「わかってるよ・・・・・・・もう逃げない」 彼女の目に圧されないように。 きちんと目を見て言葉を返した。 それは彼女に言われるまでもなく、昨夜、自分で決めたことだった。 もう、自分にウソはつけなくて。 彼女の無理に笑った顔を見るのも限界で。 兄貴との勝負に勝った時も負けた時も 文句を言いながらも話につきあってくれた君。 オレの我が儘な行動に、傷つかないはずないのに、いつも笑っている君。 今も音を立てながら崩れていく、あの壁が、 全て崩れきってしまう前に。 やらなきゃいけないことがある。 「うん、それならいいの。  あー、でも本当は2人がラブラブになってくれるのが一番いいんだけど。  強力なライバルはいない方がいいし」 オレも、そうできたらよかったのに、って思ってたけど。 「じゃぁ、またね、ジュンちゃんにも、昨日ごちそうさまって伝えておいて」 自分の靴箱の方へかけていく彼女の後姿を見送って。 肩から少しずれた鞄をかけ直すと、自分も教室へと向かった。
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あー、なんかこの回自分で気に入らない・・・うぅ・・・ もうちょっとこー、なんかあるだろ、豪よ。 うむむむむ。 次はいよいよ・・・。