「髪」     油彩  32×41p 2002


      ふと気がつくと女の後ろ姿を見ていた

      黒髪の豊かな女だった

      逆光の光りは髪の毛一本一本まで鮮明に映しだす

      頭の先から滝のように流れ落ちる水流のように

      割と乾燥しているのか豊かに盛り上がる

      右の耳の襞から左の耳の襞へかけて視線を移す

      栗毛の茶色の半透明の静かな流れはやがて

      上からの濁流のような強い落下の中に飲み込まれる

      しだいに深部に染み入るマチエールは深い水中への誘い

      青緑と焦げ茶の渦

      少し下にある小さな肩への波

      しかしその直後に大きく下る奈落の滝

      最後にあるのはジャングルに生い茂る樹の枝と蔦の茂み

      大きなマッスの中に甘い匂いが漂う

      私は髪の一本にそっと触れる

      それは太いロープと変わり指の腹を締め付ける      

      女の髪は生きている 人格とは別の何か

      猫の背のカーブの感触に近い