常に私の頭の中をよぎる回想は、私の生まれた街。 

 そこは海辺の小さな港町で、

 名古屋の南を流れる庄内川と新川が合流するデルタ地帯である。

 この街はかつて漁業で栄えた形跡があり、川沿いには多くの船小屋が立てられ、

 朽ち果てた木造の船が係留されている。

 街の地面は貝の殻で覆われ、路地裏には蛸壺と思われる子供の頭ぐらいの丸い坪が散乱している。

 路地はまるで迷路のようにつながり、

 小学校に通う私は どこをどのように帰ってきたのか覚えておらず、

 まるで巣に帰る子犬のように迷走しながら帰宅していた。

 芸術大学の在学中より常に私を悩ましていたのはこの街の回想である。
「海辺の町」    混合技法  91×91p 1980