私の生まれた街には、「老婆の庭」と呼ばれる場所がある。

 入り組んだ路地の中には所どころに小さな庭があり、

 さまざまな植物が植えられている。

 その主である老婆は時々現れ、細くしわがれた手でその植物を摘む。

 摘まれた植物は一升びんに詰められ油を注がれると1年ほどして万能薬になる。

 老婆は自分の孫が怪我をした時にその薬を塗る。

 私の亡くなった祖母も「老婆の庭」を持っており、

 私が幼い時その薬をだまって塗った。

 私はその臭いにおいのする薬が嫌いだったが、傷はまもなく消えた。
「老婆の庭」    混合技法 73×60p 1980