高齢者と事故

 下表は平成11年度の年齢別死因順位である。高齢者では、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患、肺炎による死亡が多い。心疾患、脳血管障害を予防するには、日常から規則正しい生活、適度な運動を心がけ、高血圧、糖尿病、高脂血症等があれば、早めに治療を行うことが大切です。
 車は古くなると新車を購入できますが、我々の車(体)は何十年も前の車であること、忘れることなく、大切に使っていきましょう。無理をすると、エンストしてしまいます。日常点検は忘れず、修理は早めに!

60〜64歳 悪性新生物 心疾患 脳血管疾患 自殺 不慮の事故
65〜69歳 悪性新生物 心疾患 脳血管疾患 肺炎 不慮の事故
70〜74歳 悪性新生物 心疾患 脳血管疾患 肺炎 不慮の事故
75〜79歳 悪性新生物 心疾患 脳血管疾患 肺炎 不慮の事故
80〜84歳 悪性新生物 心疾患 脳血管疾患 肺炎 不慮の事故
85〜89歳 心疾患 脳血管疾患 悪性新生物 肺炎 老衰
90歳〜 心疾患 肺炎 脳血管疾患 老衰 悪性新生物

 下表は45歳以上の年齢別不慮の事故の内訳を見たものです。65歳から79歳では溺死・溺水が多く、ついで窒息です。80歳以上では、窒息,次いで溺死・溺水です。
 溺死・溺水は大半が入浴中の事故で、窒息は食事中の事故です。つまり、高齢者の不慮の事故は食事中、入浴中に起こりやすいことを家族みんなで認識し起こさないように努力することが大切です。

45〜64歳 65〜79歳 80歳〜
転倒・転落 23.2% 17.8% 18.4%
溺水・溺死 18.4% 34.6% 30.9%
窒息 22.2% 30.6% 38.4%
火・火災 19.3% 10.0 % 7.5%
中毒・有毒物質 6.6% 1.9% 0.8%

入浴
 高齢者の入浴中の突然死の数は交通事故による死亡数よりも多いです。特に、冬期間に多く発生します。
 入浴中の突然死が多いという認識を家族みんなで共有し、注意してもらいたい事があります。

注意事項
1)入浴中は時々声をかけ、返事があるか確認してください。
2)脱衣場、浴室等にも暖房を入れたりして、屋内の温度変化を小さくしま  す。
3)入浴時間は家族みんなが寝静まってからではなく、みんなが起きてい  る時間に入るようにしましょう。
4)入る順番は、一番風呂よりも二番目、三番目です。その方が浴室内が  あったまっています。
5)熱いお湯で、長風呂ではなく、温めのお湯(42度以下)に半身浴


窒息
 高齢者の不慮の事故では、上表にも示していますが、窒息が多いですので、食事中の突然の意識障害、呼吸の異常に気づいたら、まず窒息ではないか疑ってみてください。早く、気づくことが大切です。
 窒息したら、苦しがるから、直ぐわかるはずだと考えている方が多いと思います。でも、実際は家族と食事中に卒倒という119番通報で行って見ると、窒息であった例が意外と多いです。食事中の意識障害を見たら、正常に呼吸しているか確認してください。
 空気を肺に送る気道と胃に食べ物を送る食道があります。物を食べる時には、気管に物が入らないような仕組みになっています。そのため、水を飲んでも気管に入ってむせたりすることは普通はありません。しかし、高齢になれば、このような機能が減弱し、むせ易いです。咽た時に大きく息を吸ったりしますと、更に食物等が気管に入り、窒息状態になります。また、飲み込む力も衰えてきますので、大きなものを飲み込もうとすると、喉に引っかかり、息ができなくなることもあります。よくあるのがお餅、団子による窒息です。高齢者の食事では、ゆっくり時間をかけて少しずつ(細かくして)食べるようにすることが大切です。

 窒息したら
 慌てず、咳をさせたり、背中を叩いたり(背部叩打法)、ハイムリック法を行います。意識が無くなったら、心肺蘇生法を行います。窒息と判断したら、119番通報を忘れないで下さい。高齢者が胸骨圧迫等をやり続けるのは体力的に限界があります。体力に自信がないでのあれば、何かあったら119番通報!これだけは忘れないて下さい。

上写真は背部叩打法です。横に寝かせて(側臥位)、背中を叩いても構いません。忘れないで下さい。意識が無くなったら、心肺蘇生法です(少なくとも胸骨圧迫法だけは行います)。










 上図はハイムリック法腹部突き上げ法です)。握りこぶしを作り、親指側をお腹に当て(上左図)、他方の手で握りこぶしを握り、上方へ思い切り突き上げます。
 注意点:握りこぶしを腹部に当てる位置は臍とみぞおちの間で、臍側に近い方です(下写真参考)。みぞおちの辺りには、胸骨(胸の真ん中の骨)の下から剣状突起という骨があります。字のごとく、剣のように先は尖っていますので、圧迫する場所がみぞおちに近いと、折れたり、腹部の臓器(肝臓、脾臓等)に刺さったりすることがあります。圧迫する場所は正しい場所で行いましょう。このような理由から、乳児ではこの方法は推奨されていません。



左図は成人の口の中の模式図です。
赤いのは舌で、深い眠りになると、舌を保持している筋肉の緊張がとれて、、舌が喉の後ろの落ち込みます。こうなると、気道(空気の通り道)が狭くなったり、塞がったりします。狭くなった状態になりと、いびきをかきます。いびきをかくのは、空気通り道が細くなっていると考えて下さい
 いびきをかく人の中に、時々いびきが聞こえなくなり、時間が経つと又いびきをかく人がいます。いびきがなくなったからといって安心しないで下さい。完全に空気の通り道が塞がりますと、空気が流れませんので、いびきは消失します。つまり、いびきが消失したのは、一時的に気道が閉塞した状態になっています。ほっとするのではなく、おや!と思い、側に行って様子を見てください。普通は、低酸素になってくると、体の方がこのままでは危険と判断して、眠りを浅くして、筋の緊張が増し、気道閉塞がとれますので、また再びいびきをかくようになります。中には、気道閉塞がとれず、朝見に行ったら亡くなっている場合もありえます。
 睡眠時に無呼吸になる人は早めに病院で診て貰いましょう。自分の安全のために!

 参考:、睡眠時無呼吸症候群は、眠りを浅くして、筋の緊張を増すように作用しますので、いつも睡眠不足の状態になっています。そのため、日中眠気を起こしやすく、交通事故等を巻き込まれる可能性が高いと言われています。たかがいびきと思わず、病院で診察を受けてください

 物と食べると、気管の上にある(図では舌の後ろにある肌色の部分)喉頭蓋によって気管が塞がれ、物が食道側に入るようになっています。所が、高齢になると、このような反射運動が低下し、物を食べても気管に蓋ができず、物が一部気管側に流れ、咽たりします。これによって、高齢者では、誤嚥性肺炎を起こしやすいです。又、肺炎になっても中々症状(発熱等)が出てきにくく気づきにくいです。よく咽たりする場合には、特に肺炎に注意しましょう。
 
肺炎
 高齢者は嚥下運動、咳運動、免疫機能の低下していますので、肺炎を起こしやすいです。死因上位に肺炎はあります(上表)ので、誤嚥等を起こさないように予防しましょう。
 誤嚥の予防
  口の中を清潔に保つ(歯磨き励行)。
  食後2時間は体を起こしておく。
  唐辛子等の辛い食べ物を。
  適度な運動。
  魚・野菜中心の食事。
  ゆっくり時間をかけて食事する。

  唐辛子等の辛いものは、体のサブスタンスPという化学物質を増やし、嚥下運動の機能改善効果がありますので、有効と言われています。
 予防接種
  肺炎球菌
  インフルエンザ

  誤嚥性肺炎ではありませんが、肺炎にかかりやすいです。肺炎による死因も多いですので、予防接種は受けるようにしてください。現在、肺炎球菌とインフルエンザに関して予防接種があります。是非、行うようにしてください。
 但し、肺炎を起こす細菌、ウィルスはこれ以外にもたくさんありますので、これらの予防接種を受けたからもう大丈夫とは考えないで下さい。


転倒
 転倒・転落による不慮の事故も高齢者では18%前後見られます。高齢者では転倒しないようにすることは非常に大切です。転倒の原因には、1)バランス感覚の低下、2)筋力の低下、3)睡眠薬等の薬剤によるふらつき等があります。従って、普段から運動の習慣をつけ、バランス感覚、筋力を鍛えることが大切です。また、就眠前に飲んだ睡眠剤で、起床後でもまだふらつき等の症状が残っている場合は、睡眠剤を飲む時間をもっと早くするとか睡眠薬を他剤に変更してもらうのが良いと思います。
 転倒防止策としては、1)絨毯、座布団等を床に置かない、2)浴室には滑り止めマットレスを使用する、3)トイレ・浴槽・階段には手すりを設置する、4)照明は明るくするといった環境の整備が必要です。

高齢者の転倒では
 年齢に伴って大腿骨のつけ根の部分(大腿骨頚部)の骨折が増加します。この骨折は、痛みのため、動けなく、寝たきりになることが多く、寝たきりの原因としては、脳血管障害に次いで、2番目です。また、認知症の悪化や肺炎、床ずれ、肺塞栓、静脈炎等を引き起こしやすいので、早期に手術をして動けるようにすることが大切です。
 ただ、高齢者では心疾患、脳血管障害等の他の疾患でを持っていることが多く、麻酔・手術に対するリスクも高くなります。

参考;高齢者の日常行動と骨折にどんな関係にあるか調べてみました。
                クリックしてください。
 元気に歩く人は骨折しにくく、杖を使う人や介護の必要な人に頚部骨折が多いようです。


 いつもの生活をいつまでも続けていくために、普段から適度な運動、規則正しい生活を心がけ、持っている病気に対してしっかり治療を続けていくことが大切です。


交通事故
 交通事故死亡者数は減少していますが、高齢者の死亡者数は増加しています(下図)。また、高齢者の交通事故の54%は自宅から500m以内で、76%は1km以内で起こっています。
 

日本損害保険協会資料より

事故に会わないために
1. ちょっとそこまでという安易な気持ちは持たないようにしましょう 。
2.無理をして道を横断しないようにしましょう。
3.交通ルールは守りましょう。
4.運動機能、反射運動等は老化とともに低下している事を忘れないで下さい。
5.ヘルメット、シートベルトは必ず装着しましょう。

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