GUNROOM
士官次室


海上自衛隊に思う

 平成18年2月21日
Serviceとは、奉仕 貢献 勤務 兵役と辞書にあります。昔、米国で初めてサー ビに行くとは軍隊に入ることだと知ったとき、あまりピンと来ませんでした。日本で は、この店はサービスが良いとか悪いとかいう時によく使う言葉なので、兵役と はかけ離れていました。しかし、耳に慣れいくると、違和感はなくなり、うまく表現 したものだ感心するようになりました。そしてサービスしている人に、サービスして もいいなぁとと思うようになりました。

 我が国においては海上自衛隊が三軍の中でもっとも悩ましいと思います。
 飛行機を操るのは、個人技です。空軍パイロットには飛行機マニアが以外と多 いのではと思います。ちょっと偏見かもしれませんが、それほど個人が大空を駆 けめぐることは魅力的でしょう。空軍がクーデターを起こした事例が世界で少ない のは天下国家を論じるより大空を自由自在に飛ぶことに、より多くの満足を感じ るからではないでしょうか。宇宙船から地球を見ると地球は一つという意識を強く 感じるといいます。
 陸と海は団体戦です。団体だからそこには固有の行動規範としての文化が付 着します。日本の場合は、鎌倉以降、武士は仏教特に「禅」の影響を強く受け、 武士道として武人の文化・道徳・美学、またその総合たる生死観を形成してきま した。(鎌倉に禅寺が多い)そして、昔から武士団というと陸戦隊のことであり、水 軍とは非常に縁が薄く、船方は武士に入っていなかった。従って、武士団はもと もと帝国陸軍と相性がよいのです。三島由紀夫は武士道に造詣が深く、昔、そ の彼の割腹が、市ヶ谷の陸上自衛隊での事であり、海上自衛隊でなかったとい うのは、偶然ではなく、当然なのでしょう。

 帝国海軍も、当然海の武人として創設されることとなり、当然として、桜花と刀 を象徴に武士道を精神的基礎付けとして新たな海軍魂を形成する事になるので すが、日本刀は早くから放棄して錨に変え、日本刀の残滓として短剣(短刀では ないことに注意)しかも実用にはまったく使えそうもない装飾短剣にしている点が 興味深いです。刃物で軍艦を沈めることも守ることもできませんので無理もなし です。。亡き母がその昔、女学校に来た海軍中尉に、腰の短剣は何に使うのか と尋ねたら、りんごの皮を剥くためと答えたのでびっくりしたと子供の私に思いで 話をしたことがありました。
明治初期の海軍将官の写真を見てみれば、サーベルを吊しているのが多いの ですが、太平洋戦争の前中終期には、日本刀を手に写真に収まっている海軍軍 人が多くなるのに気が付きます。別に気にもとめなければそれまでなのですが、 どうも精神的に、西洋文化から日本文化に回帰している人に多いと思われます。 美意識が日本的になっているのです。西欧に追いついた、日本はすでに大した 国になったのだとの自負心でしょうか。
大西中将(海軍特攻隊の創始者として通説となっているが、最近では、異説あ り)などは、海軍記章は、錨を捨ててプロペラにしなければ海軍の行く末はないと 嘆いていた一人であります。桜花は固持しつつ、日本刀から錨に、さらにプロペ ラへ発展すべしとの見解です。しかし、大西中将自身は、サーベルではなく、日 本刀を帯刀しているのです。
短剣、サーベルは、西洋文化の象徴であり、軍刀(日本刀)は日本文化の象徴で す。日本国が自信を持ち出す頃に、軍刀を帯刀したいとする精神が、意識的に 台頭していたように思えます。

海軍は昔も今も科学の先端の固まりであり、その性質上、陸軍よりずいぶんと科 学的・分析的・計量的世界を生きることを宿命としており、武士道の精神基盤と なった禅的で幽玄的な非科学的な世界とは対局の所に身を置かざるを得ませ ん。西洋文化と古来からの日本文化の衝突がもっとも現れやすいのが海軍と思 うのです。そして最後の結論局面になると西洋文化から生み出される科学的・分 析的・計量的なクールな結論に徹し切れず、総合判断といって禅的な幽玄的な 非科学的情緒の中に急転直下戻っていくことが多く起こるのが今までの歴史で はないかと思うのです。で、当然せっかく積み上げてきたクールな結論を放棄す るため、桜花のごとく潔く散りゆくことになります。そしてこの散りゆく様が仏教的 にも収まりが良い、とまで行かずとも悪くないのです。 海軍の食事でカレーライ スが有名ですが、普段の食事にカレーライスはいろんな点から合理的で文句無 しなのですが、最後の晩餐までカレーライスにすることに情緒と美学が許ませ ん。

 このキリスト教を背骨とした西欧分析文化と仏教をそれとした日本幽玄文化の 悩ましい両世界にあってそのバランスに苦慮せざるを得ないのが、旧海軍であり 現在の海上自衛隊であり、それ故に海上自衛隊を応援したいのです。



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