※注意※
・オリジナル設定の現代パロディ
・くっついてるのはVカイですが、カイト総受け傾向です
・場合によってはカイトがビッチ※あくまでもVカイ
・カイトがお菓子作りします
・カイトがあらゆる意味でオトメンでもおkな猛者推奨
・全体的にキャラ崩壊
大丈夫な方はスクロールしてくださいませ。
【HALLOWEEN2012】
ピンポーン。
一人暮らしのマンションの一室。
予定にない呼び鈴の主は宅配便業者か、ご近所さんか、そうでもないとすれば執拗な新聞の勧誘くらいなものだろう。
最近何かと物騒な世の中だ。
女の一人暮らしではないとは言え、何かあってからでは遅い。
予定にない来客に用心し、玄関前のカメラを確認するのは当然のことだろう。
しかし今日だけは別だった。
カイトは目の前の熱を持ったオーブンからゆっくりと黒い天板を取り出す。
今しがた焼きあがったばかりのそれから粗熱を取るためひとまず側へおろすと、きつね色に焼きあがったクッキーはほこほこと香ばしい香りを立ち上らせている。
いつも通り満足な出来に頬を緩めながら、カイトは来客を待たせてはいけないと慌てて玄関へと向かった。
焼きあがったクッキーは一人で食べるには些か多すぎる量である。
だが今日は一人ではない。
滅多に会えない重要な来客があるのだ。
実家を出て暫く経つとは言え、カイトの職場は父親の研究所であるため父親とは毎日のように顔を合わせている。
明確なゴールの見えない研究職では缶詰状態となることも珍しくはないが、一区切りつけば休養のため一人暮らしのこのマンションへ飛んで帰り、また研究所で缶詰という生活である。
自宅と職場の往復の繰り返しでこの数ヶ月間ろくに顔を合わせていない人物こそ今日の来客であり、その来客というのはカイトが何よりも大切に思っている歳の離れた弟ハルトのことなのだ。
実家に居た頃は何度か作っていたクッキーだが、仕事を始めてからはそんな時間的余裕もなく、こうしてキッチンに立つのは実に久しぶりのことであった。
というのも、それが他でもない弟からのたっての頼みなのだから、カイトが断る理由などない。
事の起こりは数日前のハルトとの電話まで遡る。
「ただいま、兄さん。今日もお疲れ様」
「あぁ、おかえり。ハルトも特に変ったことはないか?」
「いつも通り普通だよ」
身内ではあるが部外者であるハルトはカイトの働く研究所に出入りすることは出来ない。
互いの近況を電話で報告しあっている様子を同僚のゴーシュに揶揄されながらも、カイトは素知らぬ顔をしてプライベートブースでハルトと通話を続けた。
「まだ当分休みが取れそうにないんだ。多分月末くらいまでに一段落つきそうなんだけど」
「そうなんだ。父さんも忙しそうだしね」
父さん帰ってきたらすぐ死んだように眠っちゃうからと笑うハルトにつられ、カイトも苦笑を浮かべる。
「兄さんとはこうして毎日話してるけど、そう言えばもう2ヶ月くらい兄さんと会ってないのかな」
ハルトがぽつりと呟いた2ヶ月という期間にカイトは思わず己の耳を疑った。
今までどんなに忙しくても2週間に1度はハルトに会うための時間を作っていたのだが、今回はもう少しで大きな解析が済みそうなのもあり、ついつい先延ばしにしてしまっていたのだった。
このままではいけない、とカイトは咄嗟に口を開いた。
「ハルト、今度の休みはいつだ?」
「え?」
カイトの唐突な質問に受話器の向こうからハルトの驚く気配が伝わってくる。
まだ幼いとは言え、ハルトは父や兄の研究職がスケジュール通りに行われる仕事ではないことを知っている。
先の約束が予定通り果たされる可能性の低さを経験から知っているハルトは暫く返答に困ったように口をつぐんでいたが、だからこそカイトはハルトに約束したいのだ。
「その日までに絶対仕事終わらせて時間作るから!」
「……ほんと?」
「勿論だ」
ハルトの控えめな声の中に僅かな期待の色を見つけ、カイトは決意と共にしっかりと約束した。
カイトも今のハルトと同じようにまだ幼かった頃、父の仕事の都合で約束が白紙となってしまうことも少なくはなかった。
その時は大いに落胆したものだが、今こうして父と同じ仕事に就いて初めて自分の力ではどうにも出来ない急用というものがこの世に存在するのだということも理解した。
それでも、それは大人の都合に過ぎない。
約束は破ってはいけないと教える立場である大人が、自分の仕事を理由に純真無垢な子供と交わした約束を破っていいという免罪符にはならないとも思っている。
何よりも、たった一人の大切な弟のことなのだ。
カイトはハルトに嘘をつくことだけは、ハルトの期待を裏切ることだけはしたくないと心に決めて今まで接してきた。
そのハルトと交わした約束だ。
今この場で指切りをして誓うことは出来ないが、何としても守ってみせる。
そう決意を固めたカイトに、受話器の向こうから控えめなハルトの声が聞こえてきてカイトの意識は受話器へと向けられた。
「ねぇ兄さん。お願いがあるんだ」
遠慮がちに尋ねるハルトの健気さに自身の不甲斐なさを感じてしまうが、今は情けなさを感じている場合ではない。
「どんなことだ?遠慮はいらない、何でも言ってくれ」
ハルトの頼みだ。どんなことだろうと叶えてやりたい。
カイトの声に安心したのか、ハルトは少し躊躇いがちに話し始めた。
「あのね、休みじゃないんだけど……31日に会いたいな」
「31日…?あぁ。わかった。その日は絶対にあけておくからな」
「うん。…それでね、お願いなんだけど…兄さんの家に遊びに行くから、沢山クッキー焼いて待ってて欲しいんだ」
「え、沢山……?」
ハルトの意外な頼みにカイトは思わず聞き返した。
「うん。僕兄さんの焼いてくれたクッキー大好きなんだ」
ハルトが言っているのはカイトがまだ実家暮らしの学生だった頃のことだ。
材料の調合や手順がなんとなく実験のようで、いつの間にかのめり込んでしまったお菓子作りの産物を何度かハルトや父に振舞ったことがある。
それはもう何年も前のことだ。引越しの際カイト以外に使う人がいないからと引き取ったオーブンは久しくその機能を活用していない。
だが、その時の味が忘れられないのだと言うハルトの嬉しそうな声を耳にしたカイトが、その頼みを断るはずもなかった。
「わかった。お前のために腕によりをかけて作るからな」
「ありがとう兄さん!じゃあ僕はオービタルと一緒に、兄さんがクッキー焼いてくれたって言って父さんを引っ張って遊びにいくから、絶対ね!」
「あぁ。待ってるよ」
ハルトの喜びに満ちた声にこっちまで嬉しくなって破顔しながら、カイトは名残惜しさを感じつつ弟との通話を終えたのだった。
そして、今日がその約束の31日。
電話の直後、プライベートブースを出たカイトをニヤニヤと意味深な笑みで待ち受けていたゴーシュにはその後の徹夜続きでたっぷりと後悔させ、連日の徹夜でゴーシュや同じく同僚のドロワが仮眠を取っている間に当初の予定であった工程までをクリアしたカイトは晴れてハルトとの約束の日に間に合わせたのである。
ハルトとの時間を持ちたくて休日を訊いたのだが、あえて休日ではなさそうな31日を指定したのにはハルトなりの理由があるのだろうと深く考えず。
とりあえず学校が終わってからだろうと踏んでお菓子作りに取り組んでいたカイトの読みは、鳴り響いた呼び鈴を聞くにどんぴしゃりということだったのだろう。
クッキーは冷めても美味しいが、どうせならいつもと一味違う焼きたての味も食べさせてやりたい。
一人暮らしには些か広すぎる廊下を慌ただしく走りながら、カイトは久しぶりに弟に会える喜びで軽快にドアを開いた。
>>