26話・その後の神矢少年と明良の明暗



「食事が途中になってしまいましたね。椅子も占領してしまって・・・申し訳ございません、どうぞ」

「どうぞ」と促されて、神矢少年は無表情で着席したが、頬はあきらかに紅潮していた。

座面の自分のではない温もりがまだ痛む尻に伝わって、何度も湯木に念押しされているようだった。

「こちらの料理を取り替えて参ります」

湯木がナフキンの掛かった料理を交換すべく席を空けると、神矢少年は見計らったように立ち上がって尻を擦った。


少しして湯木が戻り、その後ろにウェイターが続いていた。

スープ系などの温め直せるものは手際よく差し替えられた。

交換の料理は、シェフ自らが運んで来た。

改めて神矢少年の前に置かれた料理は、湯気と共に極上の香りがした。

シェフも余計な動作も言動も、何ひとつない。料理を出すと、頭を下げてその場を退出する。

それが仕事なのだ。

「・・・シェフ!」

神矢少年の呼ぶ声に、シェフは足を止めた。

「はい?三都史様」

再び、少年の前まで戻る。

「今日は・・・湯木のために特別に腕を振るってくれて、ありがとう。僕は何もシェフに言っていなかったのに・・・助かった。礼を言う」

「シェフ、私もお礼を言わせて下さい。本当にいままで、ありがとうございました」

「とんでもございません、身に余るお言葉です。それが私の仕事でございます」

それが仕事なら、これこそが仕事の喜び。

シェフは感激の面持ちで今一度頭を下げた後、退出した。



「湯木・・・このブイヤベースの魚は何かな?とても美味しい」

「金目鯛ですね。白身で淡泊なのですが上物はしっとり脂が乗っていて、三都史様の仰る通りとても美味しいですね」

湯木と二人だけの最後の晩餐、神矢少年の左頬に小さな笑窪が出来た。


神矢少年、改めて食することのマナーを再確認出来たようです。

この部分は本編の余談としてお読みいただければと思います^^



そして次に、明良と執務室、桃クッキーのその後。


取り敢えず桃クッキーの色くらい尻を叩くと、和也から宣告された明良。

執務室に連れ戻されて、デスクの桃クッキーの前に押し付けられた。

2枚残っていた。

目の前に尻の形をした(実際は桃の形なのだが、明良には尻に見える)桃色のクッキーが・・・。

「ちょうど見本があって良かったね」

勝ち誇ったような言い方しやがって・・・絶体絶命の明良は起死回生の手段に打って出た。

手は自由なので残りのクッキーを掴んで、2枚重ねで口に放り込んだ。


「もご、もぐ・・・ベベベッ(へへへっ)、びぼんびんべつ(見本隠滅)・・もぐ・・ごっくん!・・だぜ!!」

「・・っ、汚ぃ・・・」

明良がべべべッと笑った時に、クッキーのカスが口から飛び散って和也に掛かった。

和也は、思わず明良を押さえていた手を離してしまった。

いまだ!当然逃げる!

明良は脱兎のごとく、正面扉に飛びついた。

扉の向こうは天国だ。そして今度こそ社長室に逃げ込む。

よっしゃあー!

勢いよく開けた拍子に、地獄へ押し戻された。


「・・!!痛ってぇな!!何突っ立ってんだよ!!」

入り口のところで、長尾にぶつかって跳ね飛ばされてしまった。

明良からすれば185cmの巨体、反対に長尾はいたって平気だ。


「危ないですよ、そんなに勢い勇んで。まあでも、そんな時はだいたい悪い子のときが多いようですが、どうされましたか?」

「うるせぇよ!!勝手に決めつけんな!!ばか力のガリバー男!!」

ちなみに女ガリバーは、松本女史が公認されている。但し本人の耳には入っていないが。

「開けて悔しい玉手箱だね。意味は、期待していたのに予想が外れて失望することだよ。由来は・・・」

「吉川君、そこまで。それより、秋月さんに報告があるだろ」

「あ、はい」

吉川もいた。

営業部から帰って来た二人は、和也に報告があるらしく席に着く前に執務室に立ち寄った。

そしてちょうどそこで、明良と長尾がぶつかってしまった。

長尾がいる限り、明良が逃げるのはもう不可能だった。


「資材部の方がこれを秋月さんにお渡しするようにと、預かって参りました」

「これは・・・」

吉川が和也に預かり物の袋を手渡した。

「僕たちが帰るのと入れ違いに資材部の部門長が営業部に打ち合わせに来られて
、秘書課に戻るならと幾つか袋に入れて下さいました」

吉川の説明に長尾が続けて補足した。

「何でも明良君が資材部の試食会で選んだものだそうです。
次の'lumiere(リュミエール)'の新メニューに使う予定のものだと言っておられました」

「そう」

和也は一個手に取ると、床に座り込んだままの明良に見せた。

「君が選んだんだって?見本はこの色でも良いね。本当に真っ赤な色つやで、良品です。
マンションに帰ったら、さっそく夕食でいただこうね」

「いまだっ!!いま食おうぜっ!!」

「見本ですから、いまは食べられません」

起死回生どころか、レベルアップしてしまった。

それも超ハイレベル、桃色から真っ赤な赤色に。

「何のだぁーーー!!部門長のバカヤロー!!余計なことすんなーーーっ!!!」




「・・・へっくちっ!」

「部門長、風邪っすか!?」

「いや・・・風邪なんか引いていられるか!それより営業部、お前たちどうだ!
明良坊ちゃんが選んだんだぞ!味といい色といい、最高のトマトだろ!」





※後書き

同じお尻ぺんぺんでも、明暗くっきりな二人(笑)

26話、長い上にさらにまだ引き摺るか・・・みたいな^^;
ええ、もう徹底的に楽しんで書かせてもらいます^^
1票下さった方、A&Kにお付き合い下さっている方々に、是非ともお届けしたいです!






GW前の明良と秘書課秘書室


enqueteより

・ポチポチありがとうございます!去年後半から、急に票を頂くようになって^^
お尻叩かれてる感じ!?(笑)




世間じゃもうすぐGW(ゴールデンウィーク)週間。

レストラン経営のオレんとこは、この時期超忙しい。会社はGW前の準備が忙しくて、GW中は休み。

だから杉野さん家でGWを過ごそうと楽しみにしてたんだけど。



「残念ですが、GW中はレストランの方に出向です」

「え〜っ、そんなの働きすぎじゃねぇの!?」

「大丈夫です。ちゃんと時間調整して頂きますし、振替休日も頂いています」

毎年いろんな課・部署から数名の選抜応援出向があるらしい。.

「何も杉野さんが行かなくても、長尾さんたちがいるじゃん」

「それが、声が掛かって・・・」

「ふ〜ん、どこの店から?」

「‘soleil’(ソレイユ)です。緊張するから俺は裏方の方が良かったんですけど、給仕でということで」

「へぇ〜、そういや杉野さんも、最近は長尾さんたちを差し置いて抜擢されてるもんなぁ」

「あ、あ、明良君!そうじゃなくて!その・・研修で配属されていたので、それでだと思います」

「ちぇっ、つまんねぇの」


「明良君、そろそろ執務室に戻りなさい。いつまで油を売っているつもり?」

うるさい橋本さんがいないと思ったら、長尾さんがいるし。

そう言えば前はしょっちゅう営業部に遊びに行っていたのに、急に行かなくなったんだよな。何でだったっけかな?(A&K16参照)


「全く、注意すべき杉野君が一緒になって相手するから、困ったものだね」

進藤さんは会議中の親父放ったらかしにしてるし。

前もそれで会議の終了時間鵜呑みにして、親父から怒られてなかったっけ?(同16参照)


「それも、声が掛かったとか自慢までしちゃってさ。これは杉野君、由々しき問題だよ。
解決方法は会議室にあり!さっ、行こっか!」

高田さんは目をキラキラさせて、杉野さんを会議室に連れ込もうとするし。


「高田さんたち、声掛からなかったんですか?
僕なんて全店舗から声が掛かって、こっちこそ困ったものですよ」

吉川さんは先輩三人のプライドをぶち壊すし。


三人が吉川さんに向いた隙に、杉野さん逃げる。最近要領いいんだよね。

それにしても童顔どや顔の吉川さん、本人わかってんのかな。

確かに人気は一番だけど、癒し系小動物の部門だぜ、すでに人に(あら)ず。

ペットに欲しいって受付の姉ちゃんたちも言ってたし。

まっ、オレはそんなことどうでもいいんだけど。

とにかくこのままじゃオレのGWは、海外へ行くおふくろの留守番で家にいる親父と二人だ。

ほら、よく外国の人が言ってんじゃん、オレもそれだよ。Oh,My God!!!・・・・・・あっ、直人!!

そういや臨時の勤務医が来てくれることになって、初めて家族で旅行するって言ってたな。

オレも連れて行ってもらおっと。

執務室に戻って、和也さんが用事か何かで出て行った隙に電話をすることにする。

こういうことは早めに連絡しとかなきゃな。


執務室の扉を、これでもかというくらいに大きく開けて入る。


「こんなのはパワハラだー!僕は理不尽には屈しないぞ!法令上明確に定義されていないとしても!
訴訟の準備だー!ますは人権侵害!日本国憲法第13条・・・・・・」

長尾さんに人間リフトされながら、講釈垂れる吉川さん。


「高田君、僕たちがいながら君が杉野君を会議室へ?
へぇ〜、いつからそんなに立派になったのかな。僕たちをないがしろにして」

「な、ないがしろだなんて!僕は進藤さんに加勢して・・・杉野君!杉野君どこー!?助けてぇー!」

毎回毎回性懲りもなく、進藤さんに難癖付けられて詰め寄られる高田さん。

しかも陥れようとした杉野さんに助けを求めるところが、相変わらずどんくさい。


と、この状況、執務室の和也さんに丸見え。


目が合った途端、四人とも即行で着席。ほとんど一瞬の早業。

でも通用しないんだよね。

執務室を出て行く和也さんとオレが入れ替わり。

おっと、扉はちゃんと閉めておかなきゃな。


和也さんを追い払ったところで、携帯、携帯っと。

「もしもしー!もしもしー!直人!」

「おう、明良。何?」

「GWの件だけどさぁ、直人の家族旅行に・・・」

言い掛けたところで、直人が話し始める。

[ そうそう!そのGW!明良ぁ、残念だったなぁ。圭一兄ちゃんが・・・ ]

こいつ、ホント人の話し最後まで聞かねぇな。

「おいっ!なお・・・」

[ 和也さんに一緒に行こうって誘ったのに、断られちゃってさ ]

「えっ?」

[ じゃ、せめて明良だけでもって、誘ったらしいんだけど ]


【 圭一君、初めての家族旅行なんでしょう。家族水入らずで、直人君の為にもね。
ご両親によろしくお伝え下さい。気遣いありがとう 】


[ 俺たちに気ぃ使ってさぁ、やっぱ和也さんだよなぁって、兄ちゃん感心してた。
今度は皆で一緒に行こうぜ!じゃ、な ]



何なんだ、これは・・・。

いつの間にか和也さんと圭一兄ちゃんの間に、ホットラインが引かれている。

直人のやつは、今度は皆で一緒にって言ってたけど・・・その皆の中には明らかに和也さんも入ってるよな。

それもこれも、おかしくね?

和也さんはオレの教育係で、個人的には吉田家とはなーんの関係もねぇんだからさ!

あーもうっ!どっちに腹立ってんのかわかんなくなってきた!


執務室の椅子にドサッと背中を預ける。

こんな座り方は、和也さんが最も嫌うこと。


「背中を上げなさい。そんな座り方で、何が出来るの」


扉が開いたと思ったら、やっぱり和也さんの嫌味付き注意。

わざとやってんだよ、何でも自分が正しいと思うな。


「ゲーム」

和也さんの嫌いな屁理屈で言い返す。

目が完全に本気モード。ツカツカとオレのところへ一直線。

すぐさま立ち上がって・・・逃げるんじゃねぇぞ!仁王立ちだ!仁王立ち!!


「和也さんはオレの教育係だろ!直人の吉田家とは個人的には何の関係もないんだぜ!
せっかく圭一兄ちゃんが誘ってくれてんのに、オレに無断で勝手に断るなって話だ!」


よしっ!1メートル手前で止まった。引っ掴まれるギリギリの線だな。


「それはすみませんでした」


んっ!?えっ!?これって・・これってー!!

和也さんがすんなり謝るなんて!しかも頭まで下げて、90度だぜ!

腰二つ折り!勝った!オレの言い分が、和也さんをねじ伏せたー!


「さて」


ありっ?


和也さんを言葉でねじ伏せたオレが、和也さんの力で執務室の机にねじ伏せられている。

くっそー!!腰二つ折りに油断したー!!

「一寸の虫にも五分の魂、確かに。君への報告が遅れたことは私の落ち度です」

オレは虫かよ・・・虫と哺乳類じゃ、まだ吉川さんの方がマシじゃん。

「自分が悪いって認めるなら、何でオレを押さえ付けてんだよ!」

「反省するためでしょう。私はちゃんと謝りましたから、次は君の番です」

言うが早いが、ベシーンッ!と音を立てて、尻にとんでもない一発が!!

「痛ってえええーっ!!ちょ・・ちょっと待って!絶対手じゃないだろ!」

「これはさっきの椅子の座り方。全社員を代表して私が。次にしたらこれで年の数だけ打つからね」

振り向くと、和也さんの手に握られていたのは長さ30cm厚みのあるプラスチック定規だった。


「あれはわざとやったんだって!オレだって社員の皆がちゃんと働いてるの見て、知ってんだからさ!」

「そのくらいわかってます、私への挑発でしょう。まあこれは私にも落ち度があるので・・・」

と言いつつ、オレの腹回りをゴソゴソ・・・。

片手でオレを押さえつけ、もう片方の手でベルトのバックルを外す。

箸使うのも上手いし、指先が器用なんだな。


・・・それをこんなところで使うなー!!


スルリと学生ズボンが下りて、トランクス一丁の尻が出来上がり。

パァーンッ!!パァーンッ!!と、今度は甲高い音で二発。

「痛ーっ!痛ーっ!和也さんの落ち度だろ!!何でオレが叩かれんだよ!!」

「それでも、わざと挑発をするなんて人として許せません」

どうせオレは虫だよ・・・。

「その代わり、私も痛みを共有したでしょう」

と言って、やっとこさオレを解放してくれた。


片方だけ真っ赤に染まった手のひらをフルフル振る和也さんと、四つん這いで尻をスリスリ摩るオレ・・・。


痛みの共有部位が違う!!



「直人君にとっては、初めてご両親と一緒の旅行なんでしょう。幼馴染で兄弟のように育った君ならわかるはずだよ」


・・・そうなんだよなぁ。

直人の家は産婦人科で、だからおっちゃんおばちゃんはいつでも臨戦態勢(教育係小話+α^^ お兄ちゃん和也とツンデレ明良参照)

だから直人のGWは、映画とか近場の遊園地ばっかりって言ってたな。

オレの今までのGWは、親父とおふくろの三人で自社レストラン廻り。

要するに親父に付き合わされて、みたいなもんだな。

オレが和也さんのところに行かされてからは、おふくろは陶芸に目覚めて今年のGWは仲間と外国へ陶芸の旅。

現在のおふくろはレセプションとか招待とか、余程の事がない限り親父の仕事にはノータッチ。

親父は留守番。一緒に行く相手がいないから。

オレも現状として、今ここ。


「オレだって、そんな家族水入らずなんてほとんどなかったぜ。
親父はず〜と仕事ばっかりで、あんまり家にも帰って来なかったし」


オレが膨れっ面で話すことを、和也さんは黙って聞いてくれていた。

「まぁ・・・でもさぁ、あんな自社レストラン巡りでも、家族三人揃って食事するのは嬉しかったな。
その時だけは親父を独占出来るから・・・案外GWが待ち遠しかった」

へへっ、と上目遣いに和也さんを見ると、

「良く反省出来ました」

と言って、来客用の椅子に敷いてあるフェイクファーを、オレの座る椅子に折り畳んで置いてくれた。

オレはズボンのバックルを占めながら、今後の対策としてもっと複雑仕様のバックルを親父に買ってもらうことにする。


「そう言えばさぁ、今はともかくその時は三人で食事してても、おふくろは親父には一切しゃべりかけないんだぜ。
仕事で招待された時とかは笑顔でしゃべるんだけどさ」


椅子に座ると、ふっかふか。痛いレベルは5から3くらいに減った。

優しいとこあんじゃんと思って和也さんの方を見たら、手のひらを冷やしていた。

・・・どこが優しいんだー!

まっ、やっぱいつもの和也さんだなと思いつつ、さっきの話の続きをする。

「なぁ、和也さんどう思う?オレがいなくなったら、親父放っぽって好き勝手してるしさ。
やっぱりおふくろ、親父のこと嫌いなのかな?」

「社長夫妻に限らず、夫婦間のことは当事者以外誰にもわからないよ。
それよりも今の夫人を見て、明良君はどう思うの?」

「え〜・・・めっちゃ生き生きしてる。オレがいた時よりも」

「好き勝手出来るのは、ちゃんと守ってくれる人がいるからでしょう。過去は現在の積み重ね、後悔したり、清算したり、許したり・・・。
色々なことがあって当然だと私は思うけど。明良君もご実家にいた頃より、随分成績も生活態度も良くなっているでしょう」

何だ、真剣に聞いてたら、さりげに自慢かよ。


「うん、でもそうだよな。確かにオレもおふくろも現在(いま)の方が確実に充実してるよな」


穏やかに和也さんが微笑む。


ちょっと言ってみようかな・・・拒否られるのはいつものことだし。

「GWは、オレ家に帰りたくない。帰ったって、親父だけだし。勉強道具運ぶのも面倒だしさ」

「いいですよ。私もGWは家にいます」

「えっ!?旅行とか行かねぇの?」

「行きません、今年は自宅待機です」

何だよ、それ早く言えよ。

けど自宅待機ならどこへも行けねぇな。買い出しくらいか・・・。

「自宅待機でも基本休みだからね、連絡は携帯で十分。せっかくだから少し遠出しようか。
帰ったらどこに行くか調べてみようね」


うわっ!初めて和也さんと心が通じた気がする!


「やったー!オレもGWするんだー!杉野さんに言ってこようっと!」



勇んで執務室を出ると、秘書室は通夜のような雰囲気。

人数少ないと思ったら進藤さんがいない。親父迎えに行ったのかな。

長尾さんは一心不乱にパソコンに何か打ち込んでる。

覗いてみると、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏、魔訶般若・・・お経!?

出家でもするのかな?するなら、まず坊主頭からだな。


「明良君、長尾さんはいま精神統一をしているから、邪魔しちゃ駄目だよ。
それから吉川君は人形状態(気絶している)だから、そっとしておいてあげてね」

目をウルウルさせた高田さんが、オレにとっちゃどうでもいいことを説明してくれる。

「杉野さんは?受付?」

「杉野君・・・杉野君は・・うっ・うけつ・うううーっ・・何であんなに悪運強いのー!」

高田さんが錯乱した。

話しになんねぇなと思っていたら、杉野さんが戻って来た!

やっぱ、受付にいたんだな。


「社長のお戻りです!!」

サッ! ササッ! ベシッ!サッ!

おわっ!ビックリした!

みんな一斉に立ち上がる。吉川人形にも目に生気が戻って、吉川さんお帰りー。


親父が進藤さんを従えて、秘書室に入って来た。

「明良!!来てたのか!!」

オレしか目に入らないからな。先手を打つ。

「GWは帰んないぜ」

「どこか行くのか?直人か?杉野か?」

「和也さんのところに決まってんだろ。てか、オレの部屋そこにしかねぇし」

「部屋くらいいくらでもあるだろう。それに、父さんどこにも行かないから独占し放題だぞ!」

「しょっちゅう会ってんじゃん。もう独占する意味もないしさ」

「何と・・Oh,My God!!!進藤!!明良が洗脳されている!!」

「え〜、社長、ここは秋月さんとご相談されてはいかかでしょう」

進藤さんも大変だな。身内のゴタコタ聞かされて。

「そうだな!明良!か・・秋月はどこにいる!!」

「うっせぇなぁ。執務室にいるぜ」

「ぬおっー!!GWまで明良を独占する気かー!!」

大声で執務室に入って行ったかと思うと、ひょいと顔を出して一言付け足した。

「誰も入って来るなよ!」

何の秘密事項だよ。誰も入んねぇよ・・・みっともなくて。

その間、みんな直立不動。

ぐるりと見渡して、ポツリと言葉が漏れた。

「オレ・・・なんか恥ずかしい」

そしたら傍にいた進藤さんが、オレの頭を撫で撫で。

「成長しましたね」

切れ長の目を細めて、黒髪のサラサラヘアがよく似合ってる。

男前だなぁと見惚れた。

いつもは天敵の仲だけど、素直に嬉しかった。


「ありがとう、カッパ」


あれっ?進藤さんが倒れた。

「きゃーっ!し、進藤さんっ!」

高田さんの悲鳴。

「あ、明良君!カッパじゃありません!進藤さんでしょう!謝りなさい!!」

「杉野君!そこはカッパと復唱するところじゃないだろう!何を考えているんだ!」

「吉川!お前はもう一生黙ってろ!!」

あ〜あ、また吉川さんが長尾さんに締め落とされた。

杉野さんもそんなに怒ることないのにさ、せっかくGWのこと話そうと思ったのにな。


執務室に戻っても、和也さんはバカ親父の相手してるし。

そうだ!受付の姉ちゃんたちに、GWどこ行くのか聞いてこよっと。

ついでに、どんなところがいいかとか。

直人と圭一兄ちゃんにお土産を買って、楽しみだなぁ!!

早く帰って、和也さんとGWの予定立てなきゃな。

もうそろそろ終業時間なんだけどな。


でも、オレいつ帰れるんだろ。

執務室も秘書室も、シッチャカメッチャカなんだけど。





※後書き

GW前の話を、GW中になんとかと思ったのですが・・・。
間の悪さは相変わらず^^;

今回は教育係とA&Kにもポチポチ頂いていたので合わせ技で書きました。
でも全体的にはA&K色が強いので、小話はA&Kの方に載せました。


教育係の方では、執務室で和也と社長(父)が明良独占権を巡る親子対決^^
結果は言わずもがなですが。
明良はお尻を叩かれても和也に対する後腐れがないのは、ちゃんと反省が出来ている証拠^^
そして少し不安に感じていた父と母の関係を、和也に聞いてもらい助言を受けて、ぐぐっと明良の心が和也に傾きます。
拒否られると思いつつも、言ってみるものですね。

明良の笑顔が弾けます^^


秘書課も明良が混じるとさらにパワーアップ。

一番ダメージを受けたのは誰でしょう。


1.長尾  お経で精神統一。

2.進藤  最近はショックを受けるとすぐ倒れて現実逃避。

3.高田  進藤の疲労回復剤。

4.吉川  長尾に締め落とされるも、目覚めはいつもスッキリ。

5.杉野  火に油を注ぎ、とうとう遼二もカッパバトルに参戦。


Luckyは1の長尾さん^^ 和也さんに何を言われたのでしょうね(笑)





2018.5.5