Round−2



夏休みの間は会社へ行くことが多い。

前は大人ばっかりで、あんまり楽しいと思うことはなかっ
たけど、最近は楽しい。杉野さんがいてるから。

杉野さんは今年新しく入って来た人で、とても気が合う。

他の連中と違って、優しくて何でも話せ
る気がする。

ちょっと直人の兄ちゃんと似ている。

今度、杉野さんのマンションに泊まりに行くことになった。






「カッターシャツが三枚とランニングシャツ、パンツ・・・。何、これ?・・・これはいらない、これも・・・」

「またぁ!勝手にオレん部屋へ入ってくんなよ!!」

明日から三日間、杉野さんのマンションへ泊まりに行く。

服とか下着とかは和也さんが用意してくれるんだけど、やたら勝手にオレの部屋に入ってくる。

「あーっ!何、人のカバン触ってんだよ・・・これいるんだってば!!」

「ゲームばかり3つも4つもいらないでしょう。他のものが入らないよ」

オーバーに言うな!2つだけだ。第一オレの荷物だぜ。

小学生じゃあるまいし、何でいっこいっ
こ点検されるんだよ。


「完璧用意出来てんだから、もういいって。それより腹減った!晩メシまだ!?」

会社から帰って、ずっと荷物の整理だとかなんだとかで晩メシの時間が大幅に遅れている。

まだしつこくオレのカバンの中を見ようとする和也さんの腕を引っ張って、部屋から追い出した。

ホント、しつこいぜ。







「明良君、これ洗い直し。根っこのところまでしっかり洗わないと」

今日の晩メシは、ミネストローネときのこのリゾット。

トマトサラダにデザートはパンナコッタ。

ただでさえ晩メシの時間遅れてんのに、何でこんな手間の掛かるもんするんだよ・・・。


「ほらっ、さっさとして。ただでさえ夕食の時間遅れているんだから」

それはオレの言葉だ!

「じゃ何で、こんな手間の掛かるものするんだよ。もっと簡単に出来るものしたらいいじゃんか」

「見た目ほど手間じゃないよ。ミネストローネは時間のある内に下ごしらえしてあるから、火に掛けておくだけだし」

ふ〜ん・・・そんなものなのかな。でもシンク台とか、まな板の上にいっぱい野菜あるけど・・・。


「手が止まってる」

パシンッ!

「痛てっ」

尻を叩かれる・・・オレ手伝ってんだけど。


コトコトと、火に掛けたミネストローネからいい匂いがして来た。

トマトベースで野菜と豆がいっぱい入っているよ。君の好きなショートパスタもね、和也さんが言う。

シンク台の野菜やまな板の野菜が次々と減って、フライパンの中はたくさんの具で彩られる。

スープ、チーズ、米を加えて、炒めて、煮て、煮立ったら、出来上がり!

思ったより早いじゃん!

「思ったより早いでしょう」

・・・・・それはオレの言葉だ。


「ぼうっとしてないで、食器並べて」

パシンッ!

「痛てっ」

・・・・・尻を叩かれる。


「もうっ!バシバシ人の尻叩くなよ!晩メシ遅れたのは和也さんのせいだろ!」

「えっ?・・・ごめんね、つい・・・」

無意識かよ・・・。







ダイニングテーブルに夕食が並ぶ。

熱々のミネストローネは深皿に、リゾットはスープ皿に取り分けてもらう。

トマトサラダにドレッシングをかける。

「いただきます!!」

具がいっぱい入ったミネストローネはめちゃめちゃ美味い。

和也さんは煮込み系とパスタが得意みたいだ。

ビーフシチューなんかも美味い。

反対に卵料理は今いち。

特にオムライスは3回に1回は包む卵のところを失敗する。

包んでる卵の真ん中をスプーンで割った時、ふわりと半熟の中身が流れてチキンライスに絡まらなきゃいけないのに、これが焼きすぎて半熟になっていない。

味はいいんだけどね。



「なぁ、和也さんは、明日からどこ行くんだよ」

時々二日とか三日とか連休を取ってどっか行ってるみたいだけど、そう言えば聞いたことがない。

その間はオレ、家に帰ってるし・・・。

「旅行だけど。田舎でのんびりしてくるよ。お土産買ってこようか?」

何だそれ、じじいか・・・。

「一人で?」

「いいえ」

「誰と?」

「知り合い」

・・・・・・・微妙にはぐらかされたような気がする。

「彼女?」

「それ以上はプライバシーの問題」

「そんなのずるいだろ、オレには友達の名前とか、彼女?とか聞くじゃん」

「君はまだ未成年でしょう。責任の取れる歳になったら、私は聞かないよ」

・・・・・・何か納得いかねぇ。



「リゾットは?まだ食べる?」

おっ、話題そらし作戦か?

「食べる」

そうはいくか、もっと聞いてやる。



「この前、山岸のおっちゃんに会った」

山岸のおっちゃんは、和也さんの親代わりの人だ。

「そう、元気にしてた?同じ会社にいても、なかなか会えないからね」

「・・・・和也さん、前に家族いるって言ってただろ。何で山岸のおっちゃんが親代わりなんだよ」

ちょっと和也さんの表情が変わった。じっとオレのことを見てる。

聞いちゃいけないことだったのかな・・・・・・。

「事情があって一緒に暮らせなかったから、山岸さんが親代わりをして下さったんだよ」

「事情・・・?」

別にそこまでは聞くつもりはなかったのに、つい口に出てしまった。

あっ・・・と思っていたら、和也さんが微笑んだ。ゆっくり穏やかに。



「家族にもいろいろな形があるんだよ。
君がもう少し大きくなって、いろいろな事を認められるようになったら話せるよ。私の家族のことも・・・」



オレの家族は親父とおふくろだけど・・・それ以外のいろいろな形・・・。

認められるってどういうことかな・・・。



「そろそろデザート食べる?」

・・・・・また話題打ち切り作戦?

まぁいいか。結局何の話しだったのか、わかんね。

「食べる!」

デザートはパンナコッタ。生クリームをゼラチンで固めて、黄色のキウイと赤色のラズベリー、紺色のブルーベリーにミントの葉を載せてある。

カツカツカツと三口で平らげると、和也さんがげっそりした顔をしていた。

実はデザート系が少量の割に、一番手間が掛かって面倒らしい。

そんなの知らねぇよ!

今日も完食!!

「ごちそうさま!!」

腹が膨れてご機嫌になったところで、悪魔の声。

「さっ、食べ終わったらもう一度明日からの泊まりの荷物、確認しようか」

オレのはもういいんだってば!!自分のをしろよ!!







※ コメント

こちらの教育係りでは、食事風景は必須みたいな、基本的に好きです。
ただ話のイメージとして、どうしても和食が/汗。
リゾットで米→飯を使ってみましたが、スープ系(ミネストローネ)にお粥(リゾット)はどうよ・・・
という気がしないでもありません。

ひたすら、食事に力が入る教育係りでした(笑)



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