Round−3



いよいよ今日から三日間、杉野さんのマンションに泊まる。

用意もバッチリしてルンルン気分で目が覚めたのに、朝っぱらから和也さんと橋本さんに行儀のこととか何度も同じことを言われてうんざりした。

しつけぇんだよ、じじい二人!!オレと杉野さんのことなのに。

会社でだってせっかくあのじじいたちが居ないっていうのに、長尾さんに居座られて1日損した。

ホント迷惑な話だぜ!

まあでも、とにかく杉野さんの仕事が終わって、オレたち三人は今キャデラックの中!!






「なぜ三人なんですか・・・どうして真紀が居るんだ!」

杉野さんがおかしなことを言う。

自分の彼女なのに、嬉しくないのかな。

「杉野さんこそ、なんで姉ちゃんに言わなかったんだよ。
照れてんの?それよか仲間外れの方が良くないぜ」

「なっ・・・誰が仲間ですか!」

「遼ちゃん、失礼よ!明良坊ちゃまの言う通りだわ!」

「どっちが失礼だ!真紀!お前、立場をわきまえろ!!」

姉ちゃんが困った顔をオレに向けた。そりゃそうだ、姉ちゃんは悪くない。

すぐ杉野さんは彼女に怒鳴る。良くないクセだ。

「オレが誘ったんだからいいじゃんか。姉ちゃんは悪くないのに、どうして杉野さんが怒鳴るんだよ。
それ良くないクセだぜ」

「明良坊ちゃま!ありがとうございます!!」

えへへへっ・・・姉ちゃんがオレに抱きついて来た。いい匂いがする。

「真紀・・・・・・」

助手席の杉野さんがオレたちの方(後ろ)を向いたまま固まってしまった。

やっぱ妬けんのかな。

「あんまり姉ちゃんのこと怒鳴ってばっかりいたら、和也さんみたいに逃げられちゃうぜ」

オレの横でキャッキャッと喜んでいた姉ちゃんが、途端に真剣な顔になって聞いて来た。

「明良坊ちゃま・・・、秋月さんが彼女に逃げられたと言うのは、本当なんですか?」

「自分で言ってんだから本当だよ。杉野さんも前に聞いたよな、ほらショッピングセンターで会った時」

杉野さんの額から汗が流れている。クーラー効いてんのにな。

姉ちゃんが、えっ?と言う顔で杉野さんを見た。あっ・・・杉野さん、前を向いた。

「明良坊ちゃま、杉野は私には何もそう言うことは話してくれないんです。
今回の件にしても、明良坊ちゃまとこぉ〜んなに仲がいいことも・・・」

ウルウルした眼で姉ちゃんがオレを見る。

年上なのに何だか可愛い・・・。

「それは姉ちゃん、杉野さんも仕方ないとこあんだよ。
なんて言うか、オレと気が合うこと秘書課の連中から妬っかまれてるから、あんまりベラベラしゃべれないんだ」

「まさか、そんな秘書課の方たちが・・・」

「どっ!どこからそんな話が!明良君!」

杉野さんが今度は身を乗り出してオレたちの方を向いた。

ちょっと落ち着きが足りないんじゃねぇの?

そんなに体捩(ね)じったらシートベルトが体に食い込むのにと思っていたら、やっぱ苦しいみたいだ。

「ええいっ、くそっ!」とか言いながら外そうとするのを、北山さんから注意されている。

「杉野さん、シートベルトは外さないで下さい。
・・・それから、いくらキャデラックが広いからといって、あまりはしゃぐと危ないですよ」

「はしゃ・・!北山さん!」

「恥ずかしいわね、遼ちゃん。明良坊ちゃまの方がよっぽど大人だわ」

北山さんからも姉ちゃんからも言われて、ちょっと杉野さんが可哀相だ。

オレがちゃんとフォローしてやる。

「大丈夫だって、杉野さん。ここだけの話だから心配すんなよ。長尾さんや進藤さんなんて、特に酷いよな。
いちいちいちゃもんつけてくんだぜ!見かけに騙されちゃダメだぜ、姉ちゃん」

「そんなふうに見えませんけど・・・」

まだ信じられないって顔してる。無理もないけど。

秘書課の奴らって、普段は親父の後ろで黙って突っ立ってるだけだから大人しく見えんだよね。

「和也さんや橋本さんはしつこいぜ」

「和也さん・・・明良坊ちゃまは、どうして秋月さんだけ名前で呼んでらっしゃるのですか?」

これも時々聞かれるんだけど、そんなに変かな。

「和也さんだけ、昔っから親父の後ろで突っ立ってたんだよ。昔は親父もおふくろも名前で呼んでたくせに・・・。
そうだ、北山さんも昔は和也さんのこと名前で呼んでなかった?」

そう言や、いつの間にかみんな名前では呼ばなくなったんだよな。

・・・・・何でだろ?とか思ってたら、北山さんが教えてくれた。

「秋月さんは高校生の時にアルバイトでお入りになって、大学を卒業して社員になられたんですよ。
それからですね、みなさん苗字で呼ばれるようになったのは。もちろん私もです」

「でもオレ、高校生の和也さんは全然覚えてないな」

「それはそうでしょう。明良坊ちゃんはまだ4つか5つですし、社長の最もお忙しい時でしたから」

「大学生の頃の和也さんは覚えてるぜ」

「そうですね、明良坊ちゃんも小学生にお成りでしたし・・・では、これは覚えていますか」


―明良は父さんたちの真似をしなくても、和也のことをお兄ちゃんと呼んでいいんだぞ―

―お兄ちゃんって感じじゃねぇもん!お兄ちゃんって、もっと優しくて会えば一緒に遊んでくれる直人の兄ちゃんみたいな人のことだ!―


思い出した。今もそのまんまじゃん。

いや、今はそれに手荒いのとしつこいのが・・・。



「そうだったんですか・・・。だけど秋月さん高校生の時からアルバイトって・・・」

「真紀!それ以上は・・・」

「しつこい・・・!?オレのカバン――!!」

昨日遅い晩メシ食ってからまた荷物の再確認とか言うから、いい加減拒否したら朝方何かゴソゴソ・・・・・・やっぱり!!

「あ・・明良君、どうしたんですか!」

「明良坊ちゃま!カバンがどうかしました?何か、忘れ物でも!」

「入れておいたゲームが漢字ドリルに変ってやがんだ!!」

ちくしょう!!文句言ってやる!!

「そんな、ゲームくらいで。明良君・・・」

杉野さんはゲームくらいって言うけど、せっかく一緒にしようと思ってたのに!

いやそれよりも、勝手に人のカバン触んなってんだ!!

前にもそれで一回えらいめに!・・・まぁ・・・それは関係ないけど。

カバン触られんのは、ちょっとトラウマ!?

「もしもし!もしもーし!!和・・・あれっ?」

「こらっ、真紀。明良君にひっつくな、聞き耳を立てるな」

「しぃ―――っ。うるさいわね、遼二。電話中よ」


『この電話は電波の届かないところにあるか、電源が・・・・・・・』


切りやがった!!



「まぁ、まぁ、明良坊ちゃん。秋月さんも滅多にない休暇なんですから。
それよりももうすぐ杉野さんのマンションに着きますよ」

北山さんはずっと昔から親父の運転手をしている人で、いろんなことを知っているはずなんだけど、普段は何も言わないでいつもニコニコしている。

本当に穏やかな人って、こういう人のことだとオレは思う!

すぐ尻叩くような奴は、間違っても穏やかなんて言わねぇよ!


「北山さん、明日からの明良君の送迎は責任を持って俺がしますから、あの・・・社長には・・・」

「そうですか、承知いたしました。では、そのように社長にお伝えしておきます」

「別に三日間くらい進藤さんに運転させてりゃいいんだって。
まっ、後からイヤミとか言われんだろうけどさ」

杉野さんもあの連中相手に気を使うことが多くて大変だよな。

「明良君!どうしてそういう方向に考えが・・・!」


姉ちゃんはとてもオレの話をよく聞いてくれる。

ひとつひとつ頷いてくれて、ひとつひとつ相槌を打ってくれる。

営業部の人たちって秘書課の奴らと全然違う。

「秘書課の連中って、変にすました奴ばっかでちっとも面白くないんだぜ。姉ちゃん営業部で良かったな」

「秘書課は私たち新人女子の第一希望部署だったんですよ。杉野は営業部が第一希望だったんです。
逆になってしまって・・・でも杉野面白いですか、どこがそんなに気が合うのですか、明良坊ちゃま?」

「面白いぜ!優しいし、すましてないところがいいんじゃん。オレたち最初から気が合うんだ。
あのエレベーターの時からだよなぁ!杉野さん!」

「エレベーター?また・・・そんな話聞いてないわよ、遼ちゃん!」


何でかオレがしゃべると、杉野さんと姉ちゃんがケンカする・・・。

ケンカするほど仲がいいっていう・・・あれかな!

北山さんもくすくす笑ってるし、仲がいいならケンカなんてするなよって思うけど、まっいいか、放っとこう。


「着きました!ここです!北山さん、ありがとうございました!」

そんな大声で言わなくても、北山さんまだ耳遠くないぜ。

てか、杉野さん大人のくせに落ち着き無いよな。楽しみなのはわかるけど!

早く降りろって急かされた姉ちゃんが、そのまま先に部屋の鍵を開けに行った。

杉野さんは何度も北山さんに礼を言って、車が発進するまで見送っていた。



「さあ、行きましょうか。明良君」

12階建てマンション、杉野さんの部屋は5階。

「杉野さん、久々二人であのエレベーターの乗り方する?」

「・・・・・・・・・・・・」

あれっ、階段?エレベーター使わねぇのかな?杉野さんがさっさと階段を上りはじめた。

仕方なくオレも後に続く。

「俺は5階くらいならエレベーターは必要ないです。明良君も階段で充分でしょう」

そうだよな・・・そう思うと、何だか杉野さんの背中がカッコ良く見えた。

これからはオレも、出来るだけエレベーターは使わないことにする。


二人で階段を上りながら、杉野さんが今さらながらのことを聞く。

「ところで、俺の家に泊まることになったのはいつ決まったんです?」

オレんところもオレん家(ち)もイヤだって言ったのは杉野さんだぜ。

そしたら杉野さん家しかないじゃんか。


もう自分で言ったくせに!!







※コメント

「A&K 18」を先行して、遼二のマンションに行くまでの様子です。

明良と遼二、お互いの認識にズレがあるようですが、お互いではなく遼二のみです^^;

真紀ちゃんは持ち前の好奇心で、くまなく秘書課の情報を明良からゲット。

それが正しい情報かどうかは別として(笑)

遼二、明良にまで落ち着きが無いと言われています^^;

この二人相手だといたしかたない気もしますが。

今回は明良のとっても楽しそうな気持ちが伝われば嬉しいです^^

そして真紀ちゃんの可愛さと遼二の優しさ、ちょっぴりのカッコ良さも(笑)



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