フレンドシップ
―ああ・・・君、知ってるのか。そうだよ、本条志信はおれの兄貴だよ―
見た感じはあまり似てなさそうなのに、ニコッと笑った顔が人懐こそうな・・・。
そんなところが本条先生と似ている。
「やっぱり兄弟だね、似てるよ」
「そうかな。おれの方が男前だろ?」
そんな他愛の無い会話をしているうちに、午前8時30分、一時限開始の鐘が鳴った。
スッとすべるように教室のドアが開き、一瞬にして全ての音が止む。
水を打ったような静けさで教壇に立つ先生を迎える。
「起立!」
二年Aclass、委員長としての僕の第一声だった。
高等部は新学年新学期第一日目から、すでに普通授業となる。
先生の声と当てられて質問に答える生徒の声。黒板に書くチョークの音とノートを書き取る音。
時折差し棒がパンと黒板や机で音を鳴らす。
授業は一切の私語なく二時限、三時限、四時限、昼休みを挟んで五時限、六時限と淡々と進んでいく。
土曜日も平日と変わらず六時限まで授業がある。
そして授業が終わった後も、ほとんどのみんなは夕食までの間学校の施設をふんだんに使って過ごす。
運動はジムがあるし屋内プールもある。
勉強は授業以外に学年ごとに分かれたスタディルームがあり、先生が必ず数名いるので自習しながらわからない事はすぐ質問できる。
午後3時授業終了。10分間待機。また朝と同じざわつきが戻る。
この10分の待機の間に、みんなそれぞれにこの後の行動などお互い確認しあったり誘い合ったりする。
その中で、僕たちはまた朝の続きのように言葉を交わした。
「どう?フルで授業受けたら疲れないか」
「大丈夫だよ、ありがとう。それより授業の雰囲気はちっとも変わってないね」
疲れるどころか懐かしささえも最初のうちだけで、一年間のブランクも忘れてしまうほど自然に授業に溶け込めた。
当たり前に学べることの尊さを、僕はどれほどわかっていただろう。
「この学校だぜ!そうだなコレ・・・差し棒が無くならない限り、雰囲気は百年経っても変わるもんか、なあ!」
ピシッ!本条がおどけながら、プラスチック定規で近くに立っていたクラスメイトのお尻を叩いた。
「痛ってぇな!本条!」
どっとその場に笑い声が起きる。
「ほんと、ほんと。百年昔からソレだもんな。おしっ、待機終了!」
「行こうぜ!本条はどうする?バスケだけど」
「行く!行く!」
丸四年間も一緒の学年で過せば、新しいクラスと言ってもほとんど彼らは顔見知りだった。
「君はこれからどうするの、村上?」
バスケはさすがに誘えないと思ったのか、本条がやや気遣う面持ちで聞いて来た。
「おいっ、本条!村上さん、だろ」
横にいたクラスメイトが肘で本条を突(つつ)いた。こちらもまた違う意味での気遣いだった。
「村上でいいよ、そんな気遣いはなしだよ」
「じゃあ、おれだって本条さんだろ?」
口を尖らせながら不服そうに言う本条に、また周囲がどっと沸いた。
「えっ・・・?」
本気なのか冗談なのか、僕だけがその意味を知らないようだった。
「何でお前をさん付けで呼ぶんだよ」
「お前は本条でいいんじゃん」
周囲にいるクラスメイトたちが、口々に笑顔で囃し立てた。
「おれ、こいつらより1コ年上なんだよ。君と同じさ」
あっけらかんと言う本条に、何の翳りもなかった。
「やっ、村上さんとは違いますよ。本条は、年はひとつ上だけど入学は俺たちと一緒なんです」
「何でも寮生活が嫌だとかで、駄々こねて1年間も引き篭もっていたんだよなぁ」
「今の本条からじゃ、信じらんないね。少しくらいそんな可愛げ残しておけばよかったのにさ」
「うるせっ!ヘッドロック!!」
「わわっ・・・やめろって!本条!」
「ギャハハハッ・・・」
一年間の引き篭もり・・・駄々をこねるにはあまりにも長い月日。
しかし現在(いま)そこにいるのは、そんな翳りを微塵も感じさせない本条和泉と、それを自然に受け入れているクラスメイトたち。
同じ年月を共に過して来たいたわりと優しさ、友情だった。
「僕は寮に帰るよ。まだ部屋の荷物が片付いてないんだ。試合する時は教えて、見に行くから。本条・・・」
僕にとっては呼びにくい名前。つい先生を思い出してしまう。呼び捨てはなお更だった。
「あははっ、呼びにくそうだね。和泉でいいよ」
「それなら僕も名前で呼んでよ。僕は名前で呼ばれる方が多かったから」
不思議な感覚。同じ年とわかった途端、本条和泉に対して湧き上がる親近感。
「それ、いいね!あー、君たちはちゃんと村上さんと呼びなさいね」
和泉は相槌を打つように目を大きく瞬かせると更に煽るような言葉を言い残し、バスケを誘うクラスメイトたちと肩を並べて教室から出て行った。
教室の高い天井、広い廊下。白い地模様の壁に、教室のドアや階段は茶色の木目で統一されている。
窓は外側だけで、内側(廊下側)にはない。
その内側(廊下側)柱のところに、一定の間隔で飾られているハンギングバスケット。
三色のビオラ(イエロー、ブルー、ヴァイオレット)
二色のパンジー(ホワイト、ラベンダー)
淡い花びらはパステルカラーの柔らかな色合い
班入りのアイビーゼラニウムと小さな赤い実のついたチェッカーベリー
濃い緑の葉は淡い花々をエスコートしているよう
寄り添うように 包み込むように
オンシジューム 黄色い花びらのドレスを着た妖精たちが
蔦に絡まってワルツを踊る ハンギングバスケットの中
零れるように 溢れるように
校内の至るところに飾られている花々を見ながら、寮へ帰る。
花に目が行くのは、本条先生のことを考えていたせいだろうか。
―情状酌量の余地ありかな・・・状況とか聞きたいから明日宿舎の方に来てくれるかい―
そう言っていたのに、今朝になって来なくていいとメールが来た。
部屋に帰って午後からのメールをチェックしても、何もなかった。
・・・渡瀬たちに何かあったのだろうか。
気にはなるものの、来るなと言われた以上行くわけにもいかない。
部屋の窓を開けて、まだ片付かない荷物の整理をする。
全開の窓からサワサワと、葉が擦れの音と共に窓辺のカーテンが大きく揺れた。
シャラン・・・・・・・
吹き込んだ風に乗るように、壁に掛けていた千羽鶴が舞う。
僕に生きる力と勇気を運んで来てくれた時のように。
病室のベッドで腰掛けながら、渡瀬が千羽鶴を壁に掛けてくれるのを見ていた。
その日も今日と同じ柔らかな春の陽射しが差し込んでいて、少し開いていた窓から一陣の風が吹き込み、渡瀬の持つ千羽鶴が大きく舞った。
『 うわっ・・・と、びっくりしたぁ 』
椅子に乗っていた渡瀬が、バランスを崩しそうになった。
『 落っこちても大丈夫だよ。ケガしてもここは病院だから 』
『 やだね、俺は聡みたいに我慢強くないんだ。痛いのはごめんだよ 』
千羽鶴を壁に掛け終えた渡瀬が、椅子から降りながら言った。
『 ・・・ありがとう、渡瀬。千羽鶴が本当に舞ったように見えたよ 』
『 舞ったようにじゃなくて、舞ったんだよ。こいつらむちゃくちゃ元気だぜ。何せ一羽一羽俺たちのメッセージ入りだからな 』
―聡、頑張れよ―
―絶対、帰って来いよ―
『 千羽の鶴が、一羽の大きな鶴になって空に舞い上がるんだ。聡、不死鳥になれ 』
今は寮の部屋の壁に掛かる千羽鶴。
いろいろな思いが交差してつい片付けの手が止まってしまったが、そろそろ夕刻が近づいている。
風も冷たくなってきた。
とりあえずは、目の前のことを片付けなければならない。全開の窓を閉めて、荷物の整理に勤しんだ。
「聡、放課後三年生とバスケの試合するんだけど、見に来る?」
和泉が朝の始業時間前に話し掛けて来た。
新学期が始まって一週間が経った。
新しいクラスメイトたちの名前と顔もすっかり覚え、和泉とは年も同じせいかお互い気兼ねするような感じは全くなかった。
「へぇ、三年生と。行くよ、・・・あっ、何時から?ちょっと医務室に薬取りに行かなくちゃいけないんだけど」
定期健診以外の薬だけの時は、学校が代理人として処方箋をもらい薬を調達してくれる。
学校の医務室は、最新の医療設備が整った小さな総合病院のようなものだった。
「夕方・・・4時くらいからだから、充分間に合うだろ。聡の友達でも手加減しないぜ」
和泉の強気の発言は、みんなの士気を高めたようだ。
朝の始業時間前のひと時、話題は放課後のバスケットボールの試合に集中した。
平日午後3時までの授業にも疲れは思うほど感じることなく、その後もスタディルームで勉強する毎日だった。
合い間に、疲れたと言うより気分転換にレストルームに行って少し横になる。
音楽を聴いたり好きな本を読んだり、そしてここでも溢れるほどの花々が飾られていて、それぞれが目の保養、心の保養となった。
午後3時10分。待機時間終了。
ガタン!ガタッ! あちこちで勢い良く椅子を引く音が響いた。
「本条!行こうぜ!新年度初対決だ!!」
「おう!・・・じゃ、聡、来いよ」
勇んでクラスメイトたちと教室を出て行く和泉を見送って、僕は医務室へ向かう。
医務室は校舎を出て、オフィスセンターの建物の中にある。
宅配や郵便の受け取り、学校内での事務手続き、また朝夕の連絡メールもオフィスセンターの管理になる。
「どう、調子はいいの?」
「はい。とてもいいです」
薬を取りに来たついでに、医務室で診察も受ける。
校医の先生は僕が発病してからずっと診てくれていて、治療を受けた病院も先生の紹介だった。
高等部担当校医―川上 佳史(かわかみ よしふみ)―
「最初は気が張ってるからね。まだ無理をしちゃいけないよ。少しでも疲労を感じたら身体を休ませなさい」
そう言って先生は、薬を手渡してくれた。
―コン、コン・・・
診察室のドアをノックする音が聞こえた。
診察のために閉めていたカーテンを開けたと同時に、ドアも開いた。
「遅いじゃないか、渡瀬君。午前中に取りに来なさいと言っておいたはずだよ」
渡瀬だった。急いで来たのか、幾分息が上がっていた。
「すみません、先生。あの、どうしても抜けられない用事があって・・・」
渡瀬はちらっと僕を見て、すぐ先生の前へ行った。
「風邪は治りかけにも注意が必要だよ。薬はちゃんと時間通りに飲んで、継続して飲まないと効能は半減するんだよ」
先生は渡瀬に注意と言うより説教に近い感じで話していた。
僕はひと足先に医務室を出て、渡瀬を待った。
「失礼します。ありがとうございました」
礼儀正しく渡瀬が挨拶をして出て来た。手には大量の薬袋を抱えている。
「渡瀬・・・どうしたの、その薬。まさか先生の・・・」
メールの件といいこの大量の薬といい、先生の風邪が悪化したとしか思えなかった。
「聡、どうもこうも・・・。先生と三浦と谷口の風邪薬だ」
渡瀬が疲れ切った表情で、溜息をついた。
「三人とも風邪引いたの?」
「そうだけど、違う。移されたんだよ、先生に。先生はどうにかピークを過ぎたけど、後の二人が今ピークなんだ」
それで・・・来るなというメールは、僕に風邪が移るといけないからだ。
渡瀬の様子からすると、たぶん花の世話も先生の代わりにしているようだった。
「花の世話はどうしてるの?」
「・・・・・・聞くなよ。じゃ、急いでるから」
やっぱり・・・。
「僕も行くよ。一人で大変だろ、渡瀬」
僕が行ってもさほど役には立たないだろうけど、マイコンで管理している温室くらいは手伝える。
「聡はだめだ。風邪が移るとそれこそ大事(おおごと)だぞ」
「大丈夫だよ。このマスク特殊加工なんだ。この間は、先生さかんにくしゃみしていたけど僕は移らなかったしね」
それでもと渋る渡瀬の背中を押して、僕たちは先生の待つ宿舎へ向かった。
途中で和泉と約束したバスケットボールの試合を思い出したが、引き返すわけにもいかなかった。
試合はもう始まる頃だ。急いで和泉の携帯に電話したが、出ない。仕方なく謝りのメールを入れた。
宿舎に着くと、渡瀬はまず食堂に向かった。
いつもの席に本条先生が座っていた。
「聡君。どうしたんだい、何か用?」
渡瀬とは対照的に、のんびりとした表情の先生だった。
来いとか来るなとか言っていたのが、一週間経てばどうしたのに変わっていた。
しかもずっと気になっていた渡瀬たちのことが、違う意味ですごいことになっていた。
「・・・先生、やはり風邪でしたね」
「うん。でも、もう治った」
「風邪は治りかけにも注意が必要だと川上先生が言ってました。
それに薬はきちんと時間通りに飲まないと効能は半減するとも言ってました。先生の分です。水を持って来ます」
のん気に微笑む先生の横であからさまにいらいらした口調の渡瀬が、貰って来たばかりの薬袋から何錠か薬を取り出して強引に先生の前へ置いた。
「さてと、久し振りに花の様子でも見て来るかな。渡瀬、ガラスケースの中補充しておいてくれた?」
やおら立ち上がって伸びをする先生に、水を持って来た渡瀬があきらめたように返事をした。
「・・・はい」
僕も渡瀬もたぶん同じことを思ったはずだ。ほとんど聞いていない・・・。
それでも、さすがに目の前に置かれた薬と水は飲んだ。
「それじゃ、聡君は三浦と谷口の部屋へは行かないようにね。風邪が移るといけないからね。
渡瀬は夜にもう一度ガラスケースの中、補充しておいて」
そう言うと、さっさと食堂を出て行ってしまった。
「誰のせいで三浦と谷口が風邪引いたと思ってるんだ。・・・俺たちならいいのかよ。
しかもお前は聡君で、俺たちは呼び捨てだぜ」
ドサリと不貞腐れるように食堂の椅子に座った渡瀬は、そのままテーブルに突っ伏してしまった。
「くすくすっ・・・」
「・・・・・・何だよ、何がおかしいんだよ?聡」
テーブルに突っ伏したまま、渡瀬は顔だけを僕の方へ向けた。
「あっ、ごめん。フフフッ・・・君でもそんな子供みたいなこと言うんだなって思って」
渡瀬はいつもみんなの中心にいて、勉強もスポーツも苦手なものはないと思うほどの優等生だった。
パーフェクトな人生ほどつまらないものはないと刺激を求めた渡瀬に、今の姿は全くなかった。
「・・・・・・三人分の看病と花の世話をしてみろ、俺だって言いたくなるさ。くたくただ」
そんな愚痴をこぼしながらも、少し照れたように顔を上げ姿勢を正して座り直した。
「でも驚いたよ。まさか謹慎中の渡瀬に医務室で会うなんて思わなかった」
「何度も医務室まで往復して、そのたびに川上先生からこごと言われて。
・・・そうだな、俺謹慎中なんだよな」
もっと落ち込むかと思っていたけどそんな暇もないと、渡瀬は苦笑した。
復帰については、まだ何も聞かされていないとのことだった。
三浦も谷口も幸か不幸か風邪で唸っていて、渡瀬同様落ち込むどころではないらしい。
「渡瀬は何クラスだった?・・・委員長だろ」
「Aだよ。・・・そうだけど、もう誰か他の奴がなってるよ。
謹慎を受けた奴が委員長なんて聞いたことないしな。三浦はCで谷口はDだそうだ」
悔しさというより、むしろサバサバとした顔つきの渡瀬だった。
謹慎を受けた奴が委員長・・・白瀬さんの顔が思い浮かんだが、あえて言わなかった。
「何だよ、またニヤニヤと・・・」
渡瀬が拗ねたように言った。
そう言えば一年ぶりに会った渡瀬はどこか覚めた感じがしていたけど、こんなに表情豊かな渡瀬を見たのはずいぶん久し振りのような気がした。
「落ち込んでなくて良かったなと思って。あっ、三浦や谷口には悪いけど。
その代わり僕も手伝うことがあれば言ってよ」
「そうだな・・・俺はあいつらに薬飲ませてくるから、聡はそこのコップと薬のカラ片付けておいてくれ」
渡瀬が三浦と谷口の部屋へ行っている間に、和泉からメールが来ていないかもう一度携帯を確認したりしていたら先生が帰って来た。
「何だ、聡君まだ居たの。渡瀬は?」
「三浦たちの部屋へ薬を飲ませに行っています。・・・花籠ですか?」
先生は直径15cmほどの小さな花籠をテーブルに置いて、自分の席に座った。
「そう、ポピーだよ」
オレンジと白と黄色・・・色とりどりのポピーが、可憐に可愛くアレンジメントされていた。
それから暫く花籠の話になって、また先生が白瀬さんの話をし始めたところで渡瀬が戻って来た。
「三浦たちはどう?大人しく寝てるかい」
「はい。ちゃんと寝ていてくれてますので、風邪も移ることはないと思います」
・・・・・・どうやら三浦たちに風邪が移ったのは、先生がちゃんと寝ていなかったからのようだった。
「そうかい、じゃ安心だね。明日一人入ってくるから、渡瀬頼んだよ。はいこれ」
渡瀬の嫌味もわかっているのかいないのか、先生は持って来た花籠を渡瀬に差し出した。
「入ってくるって・・・どこに、誰がですか?」
花籠を押し付けられた渡瀬は、困惑気味に聞いた。
「ここに。中等部一年生だよ。だけど、部屋が全部ふさがってるだろ。君と同室だ」
「そんな!先生!」
困惑気味の渡瀬の顔がはっきり困惑に変わった。
「仕方ないだろ、急に連絡があったんだから。君たちだって急だっただろ」
「うっ・・・」
渡瀬の言葉が詰まった。
「さてと、まだ途中なんだ。渡瀬は花籠忘れないようにね」
先生はそう言って、席を立った。
渡瀬はまたしてもテーブルに突っ伏してしまった。
「渡瀬・・・」
「・・・・・・・・・再起不能」
完全に伏せってしまった渡瀬の横に座って、時計を見る。
試合の始まる四時はとうに過ぎていて、もう終わっていてもいいくらいの時間だ。
和泉たちは勝ったのだろうか。
本条 和泉・・・ 。
先生は何も言わなかった。僕と和泉がクラスメイトだということは知っているはずなのに。
僕も何となく聞きそびれてしまった。
花のことや白瀬さんのことは、いくらでも話してくれるのに・・・。
明日入って来るという中学一年生。
その生徒のために、先生が作ったポピーの花籠。
僕の時はリンドウだった。後になって、それぞれの花には意味があると白瀬さんから聞いて調べた花言葉。
―勝利を確信する―
夕陽が食堂の窓から差し込んで、伏せる渡瀬の髪がきらきらと光った。
もうすぐ陽が落ちる。
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