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何だコイツは。今オレの目の前にいるヤツ。

腕を組んで真正面からオレを見下ろす。

いつからそんなにエラクなったんだ。お前オレの親父の会社の社員じゃん。

何で社員のお前がソファで、お前の会社の社長の息子のオレが床なんだ。しかも正座までさせられて・・・。


バチィーッ!!いきなり太ももを叩かれる。

―痛てぇっ!!痺れたんだよぉー!足がー!

「ほら、足を崩さない」

言う前に叩くなよ!クッソー!ムカツク!ムカツクー!!



3回ヤツに殴りかかった。ケンカなんて生活の一部さ。けっこうオレって強い・・・と今までの経験上思ってたんだけど。

自慢の右ストレートをあっさりかわされ、蹴りを入れた右足を払われ背中から床に叩きつけられた。

仰向けに2回。うつ伏せに1回。3回叩きつけられてようやく歯が立たないことに気が付いた。

悔しいけど。



「さて、明良(あきら)君。君の部屋も用意出来てるし、これから私達は一緒に生活するわけだから楽しく仲良く暮らそうね」


何普通に言ってんだよ。コイツ今の状況わかってんの?

仲良くしたけりゃ人のこと投げ飛ばすなよ。

正座させられてるオレはちっとも楽しくないし!


「明良君、返事は?」

何が返事は?だ!!フンッ!

「一谷(いちたに)明良君。・・・あれ、返事がないねぇ」

おっ、ポーカーフェイスの表情がちょっと変わった。フフン、だんまりいいかも。

「そう、14歳にもなって返事のひとつも出来ないということは、今の自分の状況が何もわかってないと言うことだね」

だからそれはテメェの方だっての。立場わきまえろ!って、ケンカに勝って言いたかったぜ・・・。 


「明良君、君はいずれ人の上に立つ人になるんだよ。社長も君を甘やかし過ぎた事を反省しておられるし、
君もいつまでもそれに甘えていてはいけない。いい加減自覚しなさい」


あー説教うぜー、足痛てぇ、あーうぜーっ、知らん振り、知らん振り。


「困ったな・・・何?しゃべらないつもり?」


あっはははっ、いい気味―!マジ困った表情になってやんの。

バカヤローつもりじゃないぞ、しゃべらないんだ!これから先絶対お前とは。

ってかしゃべる必要もないし!!



「ぎゃっ!!・・・っ痛てっ・・・なっ・・何すんだよぉー!!」

「ふ〜ん、ちゃんとしゃべれるのにどうして返事は出来ないんだろうね」

しゃべる必要はなかった・・・2秒前?くらいまでは。オレどうなってんの?

いきなり襟首つかまれて立膝の位置まで引き上げられて、そのままソファの前のテーブルに思いっきり上半身を押し付けられた。

左腕は背中側にねじ上げられてるし、足は痺れてガクガクしてる。


「まさか返事の仕方から教えるとは思ってもみなかったよ。いいかい、明良君。相手から問われたら的確な答えを返す。
あるいは‘はい’か‘いいえ’か明確な答えを返す。それが返事だ。中途半端な答えとか何も言わないとか、そんなものは返事とは認めないよ」


ものすごく淡々と言いながらヤツはオレのズボンを脱がそうとする。


「えっ・・・ちょっ・・バカヤロ・・・やめろーっ!!」

ズボンのベルトが外されると一気にズボンと下着が膝のところまで下ろされた。

この状態になっても、まだオレの頭にはお尻を叩かれるなんてこれっぽっちもなかった。

一刻も早く体を起そうとするが、ビクともしない。

「テメェ―!離しやがれーぇぇ!コラァ!おっさん!!」


バッチィィッ!バッチィィッ!


「!!・・・っ痛たぁぁ!!!」


何?何?頭が考えるよりも体の反応のほうが早かった。

思わず絶叫した自分の声で気が付いた。うぇぇ、オレケツ叩かれてる。

瞬間カーッと熱くなって顔から火が出るってこのことだ。


「あっ、酷いな明良君。おっさんはないだろう。君とは一回り違うけどまだ26だし」


バァッチィィーン!バァッチィィーン!・・・


なんて声は普通だけど、一段と叩き方に力入れやがって―!!


「もぅ・・・マジやめ・・・痛いって・・・うぁぁ!」

実際は、痛いのももちろんだけどカッコ悪いったら・・・。

オレこれでもケンカ強いって学校でも、たまり場のゲーセンでも一目置かれてんだぜ。

叩かれながら、今の自分の姿と一目置かれて得意になってる自分の姿が交互に思い浮かんで、どちらの自分が情けないのかわからなくなる。

だってオレはコイツの前では全く通用しないから。

不意に涙がこぼれそうになった。

痛くて恥ずかしくて、でも一向に打つ手が止まる気配はない。

どうしたらいい?どうしたらやめてくれるんだろう。



「・・ご・めんなさいぃ!ごめんなさい・・和也さん!」

「よろしい。的確な答えだ」



やっとねじ上げられていた左腕が緩められて、急いでテーブルに両手をついて体を起そうとした。

とにかくズボンと下着を上げたかったからだけど、ずっと背中に張り付いていた左腕はやっぱり痺れてて、体を支えるので精一杯だった。

焦るオレを見透かしたかのように和也さんがスッとズボンと下着を上げてくれた。

ガクガク震えるオレの体をそっと抱き起こして、今度は床じゃなくて・・・ソファに座らせてくれた。



これ以上みっともない姿なんて見せたくないと必死に我慢したけど、ズボンのベルトを締めながらポロポロッと涙がこぼれた。

こんな涙ははじめてだ。情けなくて痛くてカッコ悪くて・・・。


「大人になれば泣きたくてもそう簡単には泣かせてもらえないよ。
君はまだ子供だ。泣きたい時は泣けばいい。我慢することなんてないんだよ」

和也さんがオレの顔を覗き込むようにして、オレの頬に手を当てて涙を拭う。

もう最悪。堰を切ったようにそれからオレは延々と和也さんの膝の上で泣きまくった。

和也さんはオレが泣き止むのを待って再び言った。



「よろしく、明良君」

「・・・はい」


「よろしい。いい返事だ」

穏やかに微笑む和也さんと、真っ赤に泣きはらした腫れぼったい目をしたオレと。

この時点でオレ達の力関係は決定した。



後日、親父とおふくろから正式に聞いた。

和也さんは親父のつまり社長秘書なんだけど、今後オレの教育係りも兼任することになった。

はぁ〜。これでオレの生活は一変する。

しかもそれはオレだけじゃなくて、親父たちも和也さんからオレのことで等々と説教されたらしい。

オレら親子でやられちゃってんじゃないの。情けねぇ〜。親父〜、何でクビにしね〜の。



秋月(あきつき)和也、お前はいったい何様だー!?







*コメント

皆さんに触発されて初めて書いたお話です。

何度も書き直そうかと思いましたが、とにかく原点ですので・・・記念に。



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