姫君のお願いなら、聞くしかないだろう?

気は進まないけどねぇ。

まぁこれで姫君が幸せになれるんなら、仕方ない。

とっておきを送ってやるぜ、弁慶。



誕生日の祝い方(前編)






「どうしよう・・。」

私が弁慶さんのお誕生日を知ったのは、お誕生日の3日前。
たまたまお話していた患者さんに聞いたのだ。


「えっ・・弁慶さんのお誕生日って
2月11日なんですか???」

「おや、知らなかったのかい?
お嬢さんは先生とは一緒に暮らしてるんだろう?」

「ええ、そうですよ。でも弁慶さんったら
そんなこと一言も・・・。」

「先生はご自分のことに頓着だから、
きっと忘れているんだろうさ。
わしらが祝ってやるより、お嬢さんから祝って
差し上げたほうが弁慶先生も喜ぶだろうね。」


そして冒頭の『どうしよう』にまた戻っていってしまう。
でも一人で考えていてもどうしてもいい方法は・・

「そうだ!朔、朔なら何かいい考えを教えてくれるかも!」

そう思い立った私は、京邸へと走っていった。


あわてて走っていた私は・・ロクに前も見ずに
走っていたらしい・・京邸の門近くで・・・
思いっきり誰かにぶつかった。


「フフ、うれしいね。
姫神子さまが俺の懐に飛び込んできてくれるなんてね。」

「ヒノエくん!?」

「随分あわてているようだけど、少しこのままで居てくれるかい?
姫神子さまとの再会を祝しても、誰にも咎は受けないよ。」

「もう・・ヒノエくんったら相変わらずなんだから・・。」


ぶつかったのはヒノエくんだった。
・・・ぶつかった勢いのまま、私はヒノエくんに
抱きしめられてしまっている。

女性の口説き方といい、今の行動といい・・隙がない。
この辺りは叔父である弁慶さんにそっくりだ。


「ところでヒノエくん、どうしてここに?」

再会を喜んだ後、ふと疑問に思った私はそう訪ねた。

「景時にちょい用事。は?」

「私はちょっと朔に聞いて欲しいことがあって・・。」

「残念だけど、景時も朔も居ないぜ。」

「ええ!?ど・・どうしよう。」

「九郎に用事があったらしくてな、どちらも鎌倉へ
出かけてるんだってさ。邸の者が言ってたよ。
なにか急用かい?」


そうか・・朔いないのかぁ・・。
せっかく相談に乗ってもらおうと思ってたんだけど・・

あ・・そうだ!ヒノエくんなら、いい知恵貸してくれるかな。
だって平家と戦っていたときも、いろいろ教えてくれたし、
ヒノエくんは弁慶さんの甥だもん。
好みとかも知ってるよね!


「本当は朔に相談しようと思っていたんだけど、
ヒノエくんに聞いてもいいかな?
少し知恵を貸して欲しいんだけど・・・。」

の頼みなら、ぜひとも聞いてあげたいね。
俺の知恵、いくらでも貸してあげるよ。」

「実は今日・・・。」


私はヒノエくんに弁慶さんのお誕生日を今日聞いたこと。
プレゼントに困っていること・・・
そして、一体何が好きなのか、全然好みを知らないことを
簡単に話した。

「で、姫君はどうしたいの?」

「どうしたら弁慶さんが喜んでくれるのか・・
知恵を貸して欲しいの。」

「他の野郎が喜ぶのは、俺としてはあんまり
うれしくないんだけど?」

「お願い!ヒノエくん!!他に相談できる人いないの。」

私はもうヒノエくんにすがりつくように頼み込んでいた。
朔も居ない今、相談できるのは彼だけだから・・。

「その瞳、危険だね
他の野郎の前でやらないほうがいいぜ。
まぁ・・弁慶に貸しを作っとくのも悪くないかな。
いいぜ、。贈り物を用意してやるよ。」

「ほ・・本当!?」

「ああ。一度言ったことを取り消したりはしねぇよ。」

「ありがとう!ヒノエくん!!」

よかった!!やっぱりヒノエくんに相談してよかった。

・・・と思ったのはほんのつかの間・・。
私はこのあとヒノエくんに相談したことを
思いっきり悔やむことになる。



『明日熊野においで。用意してあげるから。』

そうヒノエくんに言われた私は、
翌日熊野に行く準備をしていた。

「おや、さん。どちらにお出かけですか?」

「え・・う・・うん。」

さん、僕はどちらにお出かけですか?
と訪ねたのですよ。返事になっていないですよ。」

「え・・あ・・えっとね、温泉!そう温泉に行くの!」

「一人で、ですか?」

「う・・うんん。朔、朔と一緒だよ。」


ヒノエくんは、私が熊野に来るのにおそらく
弁慶さんから矢のような質問があるだろう・・と
予想していた。そしてそれは・・大当たり。
そのときの弁解用に

『朔と熊野の龍神温泉に行く』

という口実を用意してくれた。
朔は現在鎌倉だから訪ねようもないし、
念のため・・事の次第を烏を飛ばして
朔に伝えておいてくれるそうだ。


「どこの温泉ですか?」

「『龍神温泉』・・だよ。
ほら、平家との戦いの途中で皆で立ち寄ったことあるでしょ?」

「僕もお供しますよ。心配ですから。」

「だ・・駄目だよ!!弁慶さんは患者さんたちがいるでしょ!」

「今日は診療所を閉めてしまえば良いでしょ?」

「あ・・あのね、朔と大事な話があるの!」

「大事な話ってなんですか?」

「そ・・それは弁慶さんでも言えないよ。
・・女の子同士の秘密!」

「・・そうですか。ではせめて京邸まででも・・。」

「そ・・それもいらないから!
弁慶さんはちゃんとここに居て下さい!!
ほら、患者さん来てますよ!」

都合のいいことに、今日は朝早くから患者さんが多い。
これもヒノエくんのさしがねかもしれないけど・・
私はこれがチャンス!!とばかりに、家を出て熊野に向かった。


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後編は弁慶さん視点になります。
もうしばらくお付き合い下さいませ。



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