〜蛍を見に行きませんか? ED:イノリ〜


「急にどうしたの?イノリくん。」

校門で待っていたのは大好きな彼と
彼愛用のかわいらしい自転車。
私が後ろに乗れるようにってわざわざ荷台をつけたもの。
京にない自転車は、こちらへ来てからの
イノリくんお気に入りの乗り物。

『これ便利で良いよな!車やバイクと違って
免許もいらねぇし。』

京から一緒に戻ってきたイノリくんは、
龍神の計らいからか、この世界で普通に生活していく為の
環境、知識とも自然に備わっていた。

今は詩紋くんと同じ学校に通う中学生。
まだ中学生のイノリくんは、天真くんみたいに
バイクには乗れないから・・

「おい天真。自転車ってやつの乗り方教えてくれよ!」

そういって天真くんにもう特訓を受けて・・
1週間と経たないうちに、一人で乗れるようになった。
私と出かけるときはいつもこの自転車に乗ってくる。

「あかねに見せたいもんがあるだ。
週末まで待てなかったんだよ。早く見せてやりたくてさ。」

「私に見せたいもの?」

「いいから乗れよ!あかねが絶対喜ぶものだからさ!」

そういって自転車の荷台を指差すので・・・
・・・・とりあえず乗ることにした。
私が乗るとイノリくんはすぐに自転車をこぎ始める。

「ちゃんとつかまっとけよ!」

そういっていつもどおりのハイペースで
自転車をこいでいった。

イノリくんの自転車のスピードは
普通の男の子よりきっと早いと思う。
スピードがあるから、体に受ける風も強い。

でもバイクや車のように鋭い風を受けるわけじゃない。
私にはイノリくんと乗るこの自転車の速度がちょうどいい。
適度の速さで流れる景色。この速度が私は大好き。

流れるような景色を見ながら・・自転車は
『私に見せたいもの』があるところへ向けて走っていた。



「ついたぜ。」

そういってイノリくんが自転車を降りた場所は、
『熊野若王子神社』だった。哲学の道の終点。
大文字山のふもとにあたる場所。
学校からそれほど離れていない。市バスも通るし
京都市街地からさほど離れていない観光名所だ。


「そうだ。遅くなっから家に電話しといたほうがいいぜ。」

「遅くなるの?どうして?」

「暗くならねぇと意味ねぇからな。」

「暗くならないとだめ??」

「いいから、暇なうちに連絡しとけよ。」

私に見せたいもの・・というのは、どうやら
まだ秘密にしておきたいらしい。
イノリくんの表情には・・そう書いてあった。
とりあえず、言われた通り家に電話しておくことにする。

イノリくんが一緒ということで、家からはあっさりと
OKがでた。

「今時の若い子にしてはしっかりしてるのよねぇ
イノリくんって。礼儀も正しいしああいう子、私好きよ。」

というのがイノリくんに対するお母さんの評価。
しっかりしている子だから・・というのが
どうやら信用に値しているらしい。

理解力がある親でちょっとありがたいと
思ったりもする・・・。


「まだ暗くなるまでには時間あるよな。
あかね、あそこの御茶屋であんみつ食べようぜ。」

「あんみつ?」

「クラスの女子が言ってたんだよ。
ここのあんみつがうまいってさ。」

「そうなんだ。」

「あかね、甘いもんは好きだろ?」

「うん。」

甘いものは好き。女の子で甘いものが嫌いって人は
きっと少ないんじゃないかなぁって思う。
特にあんみつはこれからの時期とてもおいしい。
良く冷えたあんみつは、暑い夏にはちょうどいい。
ちなみに私は黒蜜の方が好きだったりする。

「あ!黒蜜だ。私このほうが好き!」

「オレも黒蜜の方が好きだな。うまいよな、白蜜より。」

イノリくんも私の意見に賛同しながら、
あんみつを食べ始めていた。

目の前にある川の流れを聞きながら食べる
あんみつは風情があってとてもおいしかった。


「もうそろそろ・・見えてくっかな?」

あんみつを食べ終えて、なお店先のいすに座ったままだった
イノリくんが急にそういった。あたりは私たちがここへ
たどり着いたときよりずっと暗くなっている。

「・・ねぇ、イノリくん。一体なにが見えるの?」

そういえば、ここに私を連れてきたのは
なにもあんみつを食べさせたかったからじゃなかったはず。

『見せたいものがあるんだ!』

イノリくんはそういっていた。

「あかね。黙ってあっちのほうを見てみろよ。」

イノリくんはそういって川岸の一点を指差した。
じっと目を凝らしてみる。すると・・・・


「うわぁ〜〜!!」

見えてきたのは、暗闇に光る小さな黄色い光。
無数にあるその小さな光は、ついたり消えたり・・
指差された川岸の周りに沢山ちりばめられていた。

・・・蛍だ。

「これが見たかったんだろ?」

「どうしてわかったの?イノリくん。」

「この間のデートん時、お前街頭のでっかいテレビに
張り付いてみてただろう?なに夢中になってんのかなぁ
って横から見たら蛍じゃん。そんなに見てーのかと
思ってさ。クラスの奴に聞いたんだよ。
京と違ってこっちは見れるところが少ねぇのな。
で、ここなら見れるって聞いてきたんだよ。
だからあかねに見せてやりたくてさ。」

「本物は初めて。すごく綺麗ね・・。」

私はその小さな光に見とれていた。
まるで現実世界じゃないみたい。
自分の家からそう離れた場所ではないのに・・
光り輝くその黄色い小さな光に・・
私は心がとても暖かくなった。

「オレも久しぶりに見た。・・いいよな、蛍って。
小さいけど、すっげ〜綺麗だし。なぁ、あかね。
せっかくだからもう少し近いとこで見ようぜ!」

そういうとイノリくんは私の手をすっと握って
思いっきりよく椅子から立ち上がる。

「あ!ま・・待って!」

「ほら、なにちんたらしてんだよ。
蛍ってやつは表に出ている時間が限られてんだぜ。」

そういって蛍が沢山いる川岸の方へ私を引っ張っていった。

近くで見る小さな光はまるで宝石のよう・・・。
私は飛び回っている小さな光を・・ずっと見つめていた。

「ありがとう、イノリくん。ここに連れてきてくれて。」

「あかねが喜ぶ顔が見たかったからな。ただそれだけだ。」


イノリくんは照れ隠しに頬を指で触れていた。
私はイノリくんとつないでいる手に少しだけ力をこめた。
ありがとうの意味を込めて・・・・。
するとイノリくんもこちらに笑顔を向けながら
手を握り返してくれた。

私のささやかな希望をかなえてくれて
ありがとう・・イノリくん・・
私はずっとイノリくんの手を握り締めたまま・・そう思っていた。

Fin


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