〜蛍を見に行きませんか? ED:詩紋〜
「急にどうしたの?詩紋くん?」
校門で待っていたのは大好きな彼と
彼愛用のかわいらしい自転車。
私が後ろに乗ってもいいようにって
わざわざ荷台をつけたもの。
京に一緒に召還された後に、この荷台はつけたみたい。
「あかねちゃんに見せたいものがあるんだ。
早く行かないと間に合わないかもしれないから、
迎えに来たんだよ。」
「何?見せたいものって。」
「内緒。あかねちゃんが喜ぶものだよ。さ、早く乗って?」
そういって自転車の荷台をぽんぽんと
手で叩くので・・とりあえず乗ることにした。
私が乗ると詩紋くんはすぐに自転車をこぎ始める。
「ちゃんとつかまっててね。」
そういっていつもより速いスピードで
自転車をこいで行った。
詩紋くんは天真くんと違ってまだ免許をとれないし、
かといってバイクに乗るようなタイプでもない。
『僕には自転車が一番あってるような気がする』
なんて言ってた事もある。
まぁ車やバイクは目的地に速く着けるから
それはそれでいいのだけれど、
私は詩紋くんと乗るこの自転車の速度がちょうどいい。
ゆっくりと景色を追えるこの速度が、私は結構好き。
心地よい風を適度に受けながら、自転車は
『私に見せたいもの』があるところへ向けて
走っていた。
「ここからは歩いたほうがいいよね。」
そういって詩紋くんが自転車を降りた場所は
『熊野若王子神社』だった。哲学の道の終点。
大文字山のふもとにあたる場所。
学校からそれほど離れていない。市バスも通るし
京都市街地からさほど離れていない観光名所だ。
「そうだ。あかねちゃん。ちょっと帰りが遅くなるから
お家に電話しておいたほうがいいよ。」
「遅くなるの?どうして?」
「暗くならないとだめだからだよ。
あかねちゃんの両親が心配したら大変だから
電話しておいて。」
「暗くならないとだめ??」
そう聞き返しても・・
「いいから、今のうちに、ね!」
何をしに来たのかはやっぱり秘密らしい。
とにかく言われた通り家に電話しておくことにした。
詩紋くんが一緒ということで、家からはあっさりと
OKがでた。詩紋くんはお母さんにやたらと気に入られている。
この間だって・・・
『詩紋くんに教えてもらったスフレ。すっごく簡単だけど
おいしいのよねぇ。いまどき珍しいわよ、あんないい子。』
どうやらお料理好きのお母さんとすっかり意気投合
してしまったらしい・・・。詩紋くんはもともと
優しい良い子だから、年上受けするほうだけど・・・
やたら気に入られているのは・・なんだか引っかかる。
「暗くなるにはまだちょっと時間があるね。
僕、この間この近くにおいしいケーキを出すお店
見つけたんだ。そこでちょっと時間つぶそうか?」
「うん。」
私が返事をすると、詩紋くんは私の手をとって
そのお店のあるほうへと歩き出した。
哲学の道から少し外れた、その小さな喫茶店は
いかにも新しく出来ました!というつくりの
かわいらしいお店だった。
夕方、それもこんな食事前の時間なのに
結構お客さんが居る。・・割とカップルが多いみたいだ。
「結構多いんだね、お客さん。」
「哲学の道から割りと近いし、案外僕たちと
目的が同じなんじゃないかな?」
「ねぇ、その目的ってなあに?いい加減教えてよぉ〜。」
「もうすぐわかるから。聞かされてないほうが、
きっと感動すると思うよ、ね?」
かわいい笑顔で諭されてしまった私は、
それ以上はどうしても聞けず・・・
運ばれてきたおいしいケーキをつつきながら・・
少しむくれていた。
喫茶店でおいしいケーキを食べているうちに、
辺りはすっかり暗くなっていた。
暗くなった外を見た詩紋くんが・・
「そろそろいいかも。あかねちゃん、
外でようか?哲学の道に行こう!」
そういって私の手を握って引っ張った。
「暗いから手を離さないでね。」
そういうとお店を出て、哲学の道のほうへ
まっすぐに歩いていく・・・そして・・・
「あかねちゃん、あそこ見て!」
急に立ち止まった。
詩紋くんが指差した方を見る。
だんだん暗闇に目が慣れてきて・・・
「うわぁ〜〜!!」
目の前に見えてきたのは、暗闇に光る小さな黄色い光。
無数にあるその小さな光は、ついたり消えたり・・
指を指された川岸の周りに沢山ちりばめられていた。
・・・蛍だ。
「見たかったんだよね?あかねちゃん。」
「どうしてわかったの?詩紋くん。」
「この間2人で出かけてたとき、
街頭のテレビで流れてた蛍のニュース
すっごく真剣に見てたから、あかねちゃん
よっぽど蛍が見たいんだなぁ・・って思って。
それで学校の先輩に聞いたら、哲学の道で
見ること出来るよって。ここなら自転車でも来れるしね。」
「本物は初めて。すごく綺麗ね・・。」
私はその小さな光に見とれていた。
まるで現実世界じゃないみたい。
自分の家からそう離れた場所ではないのに・・
光り輝くその黄色い小さな光に・・
私は心がとても暖かくなった。
「僕も本物をこうやってちゃんと見たの
初めてだよ。すっごくかわいいよね!」
詩紋くんは握っていた手をさらに強く握ってそういった。
私もその握られていた手をお返しとばかりに
強めに握り返す。
詩紋くんと目が合った・・。
にっこりと笑顔を返してくれる。
その笑顔を独占したくて、私は詩紋くんのほっぺに
軽く口付けを1つ。
「あ・・あかねちゃん。」
「ありがとう、詩紋くん。」
私も心からの笑顔を詩紋くんに返した。
私の希望をかなえてくれてありがとう・・詩紋くん・・
詩紋くんの手を握り返しながら・・私はそう思っていた。
Fin
ここまで読んでくださってありがとうございます。こちらは詩紋EDでした。もし興味がありましたら、他の方のEDも読んでやっていただけるとうれしいです。
誤字脱字などございましたら、こそっと(笑)ご報告くださいませ。最後まで読んでいただきありがとうございました。初めての選択性なので、ご意見を頂けるとうれしいです!