〜蛍を見に行きませんか? ED:鷹通〜
「急にどうしたんですか!?鷹通さん!」
校門で私を待っていたのは、想像通り
穏やかな笑顔の鷹通さんだった。
京から一緒に戻ってきた鷹通さんは、
龍神の計らいからか、この世界で普通に生活していく為の
環境、知識とも自然に備わっていた。
ただ・・体はすぐになれるわけではないようで・・
『私はバイクなどを運転しようとは・・思いません。
この世界はとても便利ですから、これで不自由ないですよ。』
そういっ免許を取りに行こうとはしなかった。
鷹通さんの移動手段は、もっぱら徒歩。
あとは電車やバスといった公共手段を利用している。
私とのデートのときもそうだ。
ちなみに、鷹通さんは大学の2回生。
通っているのはかなりの名門校。・・・私の学力では
一緒の学校にはまず通えない・・・。
学部は法学部。あまりにらしくて・・龍神の配慮に
思わず笑ってしまったのだ。・・鷹通さんはもともと
お役人さん。文官だった鷹通さんにとって法学は
とても面白い学問だそうで・・・
『大学ですか?とても面白いですよ。
この世界のルールは複雑で、だからこそ面白いのです。
やりがいのある勉強ですよ。』
そういっていた。龍神もよく人を見ている・・と思った。
鷹通さんにとってとても馴染みやすい場所を
選らんでくれたのだと思う。
ただ・・鷹通さんの通う大学はかなり山のほうにある。
私の学校からはとても遠い。それに大学生って
意外に忙しいらしい・・。平日に私の学校までは
なかなか来られない。それに・・・
『あかねだけの時間も大切なのですよ。
お会いできるときにゆっくりお会いした方が
きっと充実した時間を過ごせますよ。』
そういっていた。だから彼が学校まで来ることは
京から戻って今まで一度も無かった。
「どうしてもお見せしたいものがありまして。
時期を逃してしまうといけませんから、お迎えに
参りました。さぁ行きましょう。」
「見せたいもの?・・って鷹通さん!一体どこへ・・。」
「それはまだ内緒にしておきましょう。
きっとあかねが喜ぶものですから。」
そういって、私の手をとって・・すたすたと
バス停のほうへ歩いていく。
・・・とりあえず、私はそのままついて行くことにした。
鷹通さんの乗ったバスは205系統のバス。
ループしているバスで「九条車庫前」へ行く
市バスの中でも本数の多いバスだ。
途中には観光地がいくつもある。
「九条なんかに用事があるの?」
「いいえ。その途中で下車しますよ。
あかねも私も良く知っている場所です。」
観光地をいくつも通るバスだから、知っている場所なんて
とても沢山通る。・・一体どこへ向かっているんだろう・・。
さっぱりわからなかった。
京都の市バスは、街が混雑している割に結構スピード良く
走っていく。バスは結構揺れるので、決して快適!という
わけにはいかないが、バスから見える景色が走っていくのが
私は割と好きだったりする。
この時間、夕日が山にかなり沈みかかっているので、
東の空はかなり薄暗くなってきている。
街灯のともる街も・・バスから見ると少し違って見えるのが
私は面白いと思っていた。
「糺ノ森・・・。」
鷹通さんがバスを降りたのは「糺ノ森」。
異世界、京にも同じ場所があった。
ここ京都にも同じように、下鴨神社・・そして
連理の木がある。ここは京にいたときにも・・
そして帰ってきてからも・・何度も一緒に来た場所。
鷹通さんのお気に入りの場所で・・そして・・
私にとっても思い出の多い大切な場所。
「あかね、こちらですよ。
薄暗くなってまいりましたから・・・。」
そういってそっと手を差し出した。
「はぐれてしまっては、意味が無いですからね。」
そういって私の手をとると、糺ノ森へと入っていく。
私は手を引かれるままに・・ついていった。
「今日は遅くなりますから、先にあかねの家に
寄ってまいりました。ご両親からは許可を頂いてますから
ご安心くださいね。」
森を歩きなが、ふと思い出したかのように
鷹通さんはそういった。
「遅くなるの?」
「ええ。もう少し辺りが暗くならないと見えませんから。」
「暗くならないと見えないもの??」
「そうです。あっあかね、ここからは川沿いを
歩きますから、足元に注意してくださいね。」
そういわれたので、足元を見ると、小さな小川が
流れていた。糺ノ森の中を流れる小さな小さな川だ。
私は足元が川でぬれたりしないように、足元を見ながら
鷹通さんに手を引かれるままに・・後を追っていった。
・・・だんだんと水の流れる音が強くなってきた。
この小川が綺麗なことは、音でなんとなくわかる。
綺麗にちゃんと流れている音だ。
そして・・・
「あかね、顔を上げてご覧下さい。」
急に立ち止まった鷹通さんにぶつかりそうになりながら、
ずっと足元を見ていた私は、その声に顔を上げた。
「うわぁ〜〜!!」
暗闇に光る小さな黄色い光。
無数にあるその小さな光は、ついたり消えたり・・
小さな小川のその周りに沢山ちりばめられていた。
・・・蛍だ。
「あかねはこれをご覧になりたかったのでしょう?」
「どうしてわかったの?鷹通さん。」
「先日一緒に出かけた際、街頭のテレビで流れていた
蛍のニュースを必死になってご覧になっていたので、
あかねはよほど蛍をご覧になりたいのだと気がつきました。
・・京で最初に蛍をご覧になったときも、随分と感激して
いらっしゃいましたから、きっとまたご覧になりたいのだと・・。
こちらの世界では、本当に限られた地域でしか見られないのは、
先日学友に聞いて知りました。・・運良く・・といいますか、
まさかここで見られるとは思いませんでしたが、
ここの蛍は全国的にも有名なのだそうです。
蛍には出る時期がありますから、今日あわてて
こちらへお連れしたのです。今週末には・・
もう見られないのだとか。」
「そうなんだ・・。こっちで見るのは初めて。
ねぇ・・鷹通さん。ここの蛍、テレビで見たより
なんだか大きいね。」
「ここの蛍は「源氏蛍」というのだそうですよ。
先日ニュースで流れていた蛍は「ひめ蛍」ですから
種類が違うのです。ほら。」
そういって鷹通さんは蛍をひょいっと両手で
手の中に閉じ込めてしまった。そしてそれを
そのまま私に見せてくれる。
鷹通さんの手の中で・・ぽう・・ぽうっと
ついたり消えたりする小さな光。
私はその小さな光に見とれていた。
まるで現実世界じゃないみたい。
自分の家からそう離れた場所ではないのに・・
鷹通さんの手の中で光り輝くその黄色い小さな光に・・
私はとても暖かくなった。
「不思議。蛍が発している光が熱を持っている
わけじゃないのに・・すごく暖かく感じる。」
「そうですね。・・蛍の心が伝わるから・・
じゃないでしょうか?」
「蛍の心?」
「蛍が光るのは、求愛行動のためなのですよ。
精一杯光らせて、お互いを求めるのです。
とても強い心だと思いますよ。」
「そうなんだ。」
「もう良いですか?そろそろ離してあげないと・・。
蛍の寿命は短いですからね。恋路を邪魔するわけには
いきませんから。」
そういって鷹通さんは微笑むので、私は黙ったまま頷いた。
・・鷹通さんは蛍を捕まえていた手をそっと離す。
蛍はすぐにふわふわと飛んでいった。
「よい方と出会えるといいですね。
・・私があかねに出会えたように・・。」
「・・・そうだね。」
先ほどまで蛍を捕らえていた手を・・私はそっと
両手で包み込んだ。
「ありがとう。鷹通さん。」
私は包み込んだ手に少しだけ力を加えた。
ささやかだけど・・ありがとうを込めて・・・。
私の希望をかなえてくれてありがとう・・鷹通さん・・
鷹通さんの手を握り締めながら・・そう思っていた。
Fin
ここまで読んでくださってありがとうございます。こちらは鷹通EDでした。もし興味がありましたら、他の方のEDも読んでやっていただけるとうれしいです。
誤字脱字などございましたら、こそっと(笑)ご報告くださいませ。最後まで読んでいただきありがとうございました。初めての選択性なので、ご意見を頂けるとうれしいです!