〜蛍を見に行きませんか? ED:泰明〜


「急にどうしたんですか!?泰明さん!」

校門で待っていたのは、想像通り、
大好きな彼・・泰明さんと彼愛用のバイク。

京から一緒に戻ってきた泰明さんは、
龍神の計らいからか、この世界で普通に生活していく為の
環境、知識とも自然に備わっていた。

そんな彼がこちらの世界で最初にしたことは、
意外にもバイクの免許をとることだった。
免許を持っていた天真くんに教えてもらって
すぐに通い始めた教習所。泰明さんは、
驚くような速さで免許を取得して・・・そして
すぐに今の愛用しているバイクを購入。
私とのデート以外にもかなり愛用しているようだった。

こちらの世界でも泰明さんの職業は陰陽師。
意外にもこの職業は私たちの世界にもなくてはならない
職業のようで、陰陽師として能力の高い泰明さんは
もうひっぱりだこだ。とても忙しい。

『この世界にはたちの悪い怨霊が多い。』

泰明さんはそういっていた。
仕事先でぶつかる怨霊は、結構ひねくれていて
たちが悪いのだそうだ。・・・適材適所。
これ以上の適任者はいないと思う。

・・なんにしても泰明さんがこの世界に慣れるのに
時間がかからなかったのは、私としてもうれしかった。

ただ・・あまりに忙しすぎることと・・・
陰陽師として今や有名になってしまった泰明さんは、
とにかく普通に歩いているだけでも目立つ。
最初こそ本人は気にしていなかったのだけれど・・

『あかねがあかねらしくいられないのなら、
私はあかねの学校には関わらないほうがいいだろう。』

視線に耐えられなかった私に気がついて・・泰明さんは、
めったなことでは学校まできたりはしないようになった。


「夜は忙しいことが多い。今日はたまたま時間が空いた。
お前に見せたいものがある。乗れ。」

そういうと泰明さんは私にヘルメットを投げてよこす。

「見せたいもの?」

「いいから早く乗れ。時間が惜しい。」

そして私の目をじっと見つめて・・・・

「・・これ以上注目を受けるのは、あかねは嫌ではないのか?」

そういって辺りを見るように目配せする。
・・・下校時間中の校門に・・学生はまだ沢山いて・・
突然の有名人登場に・・思いっきり注目を浴びていた。

とりあえず・・私は言われたとおりバイクの
後部座席に収まることにした。

「行くぞ。」

そういうと泰明さんはスピード良くバイクを走らせた。


泰明さんは割合なんでも器用にこなす。
・・バイクの運転もそうだった。
天真くんが言うには、泰明さんの乗り方は、
他の人と微妙に違うらしい。
少し前に天真くんが泰明さんに用事があって
一緒にバイクを走らせることがあった時、

『泰明の乗り方は普通じゃないぜ。
大人しく乗っているようで結構スピード出てるし、
スピードでてんのに、そのままコーナー突っ込んで
平気な顔してやがる。性格に似合わず荒い乗り方するぜ。』

そんなことを言ってた。
でも・・私を乗せているときは、そんなにスピードは
出ていないような気がする。体に当たる風が
心地よい、乗っていて安心できる速度だと思う。
それに泰明さんは事故を起こしたことが無い。
天真くんが言うように荒い運転を普段しているんだとしたら・・
それでも事故をしない泰明さんはすごいんだと思う・・。
ただ・・荒い運転がいいとは思わないけど・・・。

バイクは心地よい風を受けながら・・どうやら北に
向かっているようだった。太陽が沈みかけているのが
左に見えている。北に一体なにがあるんだろう・・。
泰明さんは黙ったまま、バイクを運転していた。


「着いたぞ。」

そういっておろされた所は・・

「鴨川公園??」

鴨川の上流にある自然豊かな場所、鴨川公園だった。
ここは京都市内でも自然の多い綺麗な場所。
公園のすぐ横に植物園があって、観光客も多い場所。
京都の中心街からそれほど距離のある場所ではないから、
普通にここを散策に来ることもある。
学校からだってバス一本でこれるような場所。

「本来ならもっと上流の上賀茂辺りのほうが
水質としては綺麗なのだが、ここのほうが良く見えると
上賀茂の主に聞いたのだ。」

「良く見える?なにが見えるの?泰明さん。」

「もう少し暗くなればわかる。
夜にならないと見えないものだ。
帰宅が遅くなるから一応あかねの家に
一度寄ってきたのだが・・。」

そういいながら泰明さんは上着のポケットから
小さな紙切れを出して私に渡す。

「母親にそれを渡された。あかねに渡してくれと。」

泰明さんは帰りが遅くなるときは、必ず私の家に
立ち寄ってから出かける。両親が心配するだろうから・・
ということなのだが・・正直泰明さんにそんな常識がわかるとは
思っていなかった・・・

『娘の帰宅が遅いと親は心配する。この世界では
常識のようだ。たまに娘が帰ってこないと、
私のところに相談に来る親もいる。
私と出かけていることは伝えておいたほうが良いだろう。
なにより心配して行動を起こせば、無駄に騒ぎになる。』

そういっていた。気遣ってくれるのがなんだかうれしかった。

私はとりあえず母のメモを見ることにした。

『おいしいもの用意して待ってるから
泰明さんと一緒に帰ってらっしゃいね♪
いい男万歳!   BY 母』


・・・・理解力ありすぎる親にありがたいのか
なんなのか良くわからなくなってきた・・。
前に泰明さんが家で食事を取ったとき、
母の料理を褒めて以来ずっとこんな調子だ・・。
泰明さんが人を褒めること事態、驚いたのだが・・

『正直にいったまでだ。あかねの母親の料理はうまい。』

・・ただ口に合っただけらしい。
それに気をよくした母親が泰明さんをすっかり
気に入ってしまったのだ。

「悪いことが書かれている訳ではないことは
気配でわかるが・・なにが書いてあった?」

「・・・帰りに家に寄りなさいってさ。
ご飯作って待ってるって。」

「わかった、そうしよう。」

そういうと泰明さんはすっと私の手をとって
突然歩き出した。

「や・・泰明さん?どこへ行くの??」

「お前が見たがってたものが良く見える場所だ。」

そういってどんどん人気の少ない川上の方へ・・
泰明さんは私の手を引いて歩いていった。



「・・もうそろそろ見えるだろう。
あかね、顔を上げて川岸を良く見てみろ。」

先ほど人が多かったところより少し川幅が
少なくなったところへ出たころ、
急に泰明さんが立ち止まってそういった。
知らず知らずのうちに下を向いて歩いていた私は、
その声で初めて顔を上げて辺りを見た。
辺りは鴨川公園へ着いたときよりもずっと暗くなっている。

「うわぁ〜〜!!」

暗闇に光る小さな黄色い光。
無数にあるその小さな光は、ついたり消えたり・・
その光は川岸の周辺に沢山ちりばめられていた。

・・・蛍だ。

「あかねはこれが見たかったのだろう?」

「どうしてわかったの?泰明さん。」

「先日、一緒に出かけていたとき、
街頭の大きなテレビに張り付いて見ていただろう?
そのとき蛍の映像が流れていた。
あかねはよほどこれが見たいのだろうと思い
仕事の合間に上賀茂の主に聞いておいたのだ。
この世界では蛍はあまり見られない。
蛍がいる場所を聞かなければ、私ではわからなかった。
あかねが見たいと思う気持ちもわかった気がしたのだ。」

「本物は初めて。すごく綺麗ね・・。」

私はその小さな光に見とれていた。
まるで現実世界じゃないみたい。
自分の家からそう離れた場所ではないのに・・
光り輝くその黄色い小さな光に・・
私は心がとても暖かくなった。

「私もこの世界に来てからは初めて見た。
あかねが喜ぶ顔が見られるのなら、蛍も悪くない。」

そういって泰明さんはつないでいた手を
そっと離して・・・ふわっと後ろから私を抱きしめた。

泰明さんの暖かさが体にゆっくり伝わってくる。
私は回された腕を上から包み込むようにして
抱きしめて・・・その腕に少し力を込めた・・。

ささやかだけど・・ありがとうを込めて・・・。

私の希望をかなえてくれてありがとう・・泰明さん・・

私は泰明さんの腕を抱きしめたまま・・そう思っていた。

Fin


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