〜12 jewelry tales(12の宝石物語)〜

第一章 ファスタの守り神:アスカ・サーノ(中編)


「アスカ、ありがとうね。」

「いえいえ。僕は病人を見るのが仕事ですから。」

そういってアスカさんは笑っている。

「ところでミア。ご一緒されているこちらの方は?」

そういって私を見る。そして・・・
あれ・・この人・・ひょっとして
ダイナストティアラを見てる??

「ラレオ王族の方!?」

そう言って目を見開いて驚いたかと思うと、
私に向かって立てひざついて、いきなり私の前にひざまずいた。

「え!?あ・・あの・・。」

「失礼いたしました。私はファスタ軍
第一支部軍医の「アスカ・サーノ」と申します。」

と急に自己紹介した。

「え・・あ・・あの、私そんな偉い人じゃないですよ。」

私がそういって慌てていると、
ミアが隣でくすくすと笑っている。

「アスカはまじめさんだからねぇ。
神姫いったでしょ、そのペンダントは王族の紋章だって。」

「でもミア・・。」

困り果ててミアをみると・・・

「アスカ、顔をあげて。神姫が困ってるよ。」

そうアスカさんに声をかけてくれた。

ミアがそう言うとアスカさんはやっと顔を上げてくれた。
ひざまずいたままだけど・・・

「しかしミア・・。」

「彼女は神姫。ファスタのじっちゃん家に降りてきた
12 jewelry talesのダイナストだよ。」

「12 jewelry tales・・本当にあるんですか?」

「そう。神姫は昨日ファスタに来たばっかり。
だから私が案内してるのよ。」

「久遠 神姫です。ミアの言うとおり。
私はえらくもなんともないのよ。だから普通に接してほしいな。」

そういうと納得したのか、

「そうですか。わかりました。それがあなたの願いなら・・」

そう言ってすっと立ち上がり

「よろしく、マリア。」

優しくにっこりと笑って手を差し出してくれた。
私もその手をとって握り返す。

「ところでアスカ。なんでここにいるの?」

と・・誰もが先ほど疑問に思ったことをミアが言った。

「そうですよ。なんで僕はここにいるんでしょう?」

「「は?」」

私とミアは同時に言ってしまう。
いや・・だからそれはこっちが聞いてるんだってば・・。

「確か置き薬の数が減っていたので、
軍内のいつもの場所で薬作りをしていたはずなんですよ。
そしたら急に目の前が真っ白になって・・・
で、気がついたらここでした。」

そういうと・・ミアが何か考え出した。
また私の肩のあたりでふわふわと浮いたり、沈んだりしている。
そして・・

「そういえば神姫。あのとき何か言の葉を唱えてなかった?」

あ・・そういえば、あの子を助けようと思ってたら
なにか言葉が浮かんで・・・

「そう・・あの子を助けなきゃって思ったとき、確か
『メディケ・クーラー・ディア・アスカ』って言ったような・・。」

「『私は治療する医師を呼ぶ。』そういう意味ですね。
『メディケ』は治療する。『クーラー』は医師を呼ぶ
そういった意味があったはずです。言の葉に使われている言葉は
昔のラレオ言語なんですよ。ということは、僕を呼んだのは
マリアですね。ダイナストはそんなこともできるんですねぇ。」

「え・・じゃぁ私がアスカさんを呼んだの?」

「思いっきり呼んでるじゃない、神姫。
『ディア・アスカ』って思いっきりアスカ指名してるじゃん。」

「でも私はアスカさんを知らなかったのよ。
どうして私がそんなことできたのかしら・・・。」

「アスカのうわさ、私たちがしたからじゃない?
きっと神姫の頭には『医者=アスカ』しかなかったのよ。
だからきっとアスカが呼ばれたんだよ。」

「それにしても、姿かたちのわからない僕を
ここに呼び寄せるなんてとても高度な言の葉ですよ。
物は意思を持ちませんから、多少形がわからなくても
その方の想像で物を形成できますが、人には意思があります。
よほど強い心でなければ、呼ばれるものの精神に負けて
言の葉を唱えることは不可能でしょうね。
通常の言の葉使いにはとてもできるものではありません。
マリアはそれができるのですから、
強いお心の持ち主なのですね。」

私の心が強いかどうかはわからないけど・・
アスカさんが呼ばれた理由は・・そうかもしれない・・・。
薬もないし・・お医者さんは「アスカ」さんしか
知らなかったから・・無意識に
アスカさんを呼んだのかもしれない・・。

「でも呼ばれたのがアスカ様で間違いなかったよ、お嬢さん。
アスカ様ほどのお医者さんは、この町にはいないからね。
ファスタの守り神と呼ばれているんだよ、アスカ様は。」

『ふわわ』を売っている売店のおばあちゃんはそういった。
なるほど・・守り神・・か。

「そんな・・大げさな・・。
ただ僕は困っている人を放っておけないだけです。」

「ファスタの守り神か。優しいんですね、アスカさん。」

「え!?いや・・そんな優しいだなんて・・・。」

照れて笑うアスカさんは本当に人のよさそうな優しい人だ。
人を助けたいと純粋に願える心の強さと優しさを兼ね備えた人。

「ところでアスカ。軍に戻らなくてもいいの?」

先ほどから照れているアスカさんにミアはそういった。

そうだ・・私が急に呼び出しちゃったから・・今頃軍では・・・。

「そうですね・・。急にいなくなってしまっては
探しているかもしれませんね。
まだ薬も作りかけですから、心配しているかもしれません。」

「神姫。アスカを軍に戻してあげて。」

「え・・そういわれても・・
どう呼んだかもイマイチわかっていないのに?」

「言の葉で呼び出したんでしょ?だったら・・・。」

「だってさっきは必死だったからできたんだもん。
それにアスカさん、さっき言の葉は昔のラレオ言語だって
いってたよね?私が知るわけ無いよ・・そんな言葉・・。」

「じゃぁ・・なんで言葉がわかったんだろう・・。」

「・・それはマリアの純粋な心かもしれませんね。」

「純粋な心!?」

「マリアが先ほどの男の子を助けたいと心から願ったから、
言葉が勝手に出てきたのではないでしょうか。
私たちが使っている言の葉は、先にキーとなる言葉を覚えてから
自分の心・・精神で制御して具現化するのですよ。
ただマリアは昨日こちらにきたばかりで、
当然ラレオ言語は知らない。・・となると、小さな子供が
偶然に言の葉を使えるのと同じなのかもしれません。」

「あ・・そういえばファスタ・ラミエルが言ってた。
子供のほうが言の葉を使えるって・・・
だから『強く純粋に願うことが言の葉につながる』って。」

「子供は純粋に願うことで、ラレオ言語を導き
偶然にも言の葉の具現化を実現することが出来ます。
ですが子供ほど純粋な願いは、残念ながら大人には出来ません。
いろいろ経験していくうちに、世の中がわかり、
どうしても邪心が混ざってしまうのです。
ですから大人の場合、言の葉を覚えて、
強い精神で制御することで初めて使えるのです。
誰でも使うことができないのは、そのためです。
ですが、マリアはこの世界を知らない異世界の方です。
だからマリアは大人でありながら、子供のように純粋な心で
いられるのではないでしょうか。
だとするとなんとなくわかる気がします。
ダイナストが異世界のものでなければならない理由も、
マリアが常人では使えないような言の葉を使うことも。
・・そしてそれはあくまで自然にできることで・・
意図的には出来ないことも。」

「そっか。神姫の言の葉は私たちとは違うのかもしれないね。」

「ごめん。微妙に役立たずね。」

「ここはファスタ市街地ですから、軍には歩いてでも
戻れます。気にしないで下さい、マリア。
それに伝説のダイナストにお会いできたのですから、
かえって幸運ですよ。」

「そういってもらえると助かります。」

「では軍に戻りましょうかね。」

そういって歩き始めるアスカさんを見て・・
もう少し話してみたい・・そんな風に思った。

「あの・・。」

「なんでしょう?」

「私も軍についていっちゃだめですか?」

「神姫、軍には私たちは入れないのよ。」

「わかってるよ。入り口までの帰り道なら大丈夫でしょ?
少しアスカさんとお話してみたいの。せっかく会えたんだし。」

「でも・・。」

「いいですよ、ミア。軍内にはもちろん無理ですが、
入り口までなら誰でも行き来できますし、
僕もマリアとはもう少しお話したかったところです。」

「アスカ・・。」

「ミア・・だめ?ファスタをみるのはそれからでも
遅くないって思うんだ。それに・・・なぜかわからないけど
アスカさんの居場所は知っておいたほうがいいような
気がしてならないの。・・ただのカンだけど・・。」

「神姫がそういうなら、もちろん私はついていく。
神姫が自然に言の葉を出すのだったら・・・
神姫の「カン」はひょっとしたら「ラシル」に
関係あるのかも知れないし。」

「ラシルですか。ではマリアは伝説どおり
これから12人のラシルを探しに旅に出られるのですね。」

「そうみたい。まだ全然実感無いんだけどね。
それ以外に私が元の世界に戻るすべはないみたいだから。」

「異世界・・ですか。ではなおさら、僕とまた会えるとはかぎりませんね。
では行きましょうか。さほど距離は無いと思いますので。」

そういうとアスカさんは私たちを促し歩き始めた。

「お嬢さん、私もあなたにお会いできてうれしかったですよ。」

歩き始める私たちに今まで静かに見守ってくれていた
「ふわわ」のおばあさんがそういってくれた。

「ありがとうおばあさん!ふわわごちそうさま!」

私はそう一言だけ挨拶して・・アスカさんの後を追った。

「『フェーリークス・ディア・マリア』お嬢さんに幸福を・・」

このおばあさんがかけてくれた言の葉が、
今後私を守る盾になってくれるとはまだ知らずにいた・・・。

つづく・・・

>Next

<Back Menu


>あとがきへ