「ふぅぅ‥着いたぁ」
「着いた着いた、着いたぞ愁ぅ」
炎天下、シンキロウの様な想いを漂わせながら歩いて居たら、
案外直ぐに到着した。
ふと足許を見ると、湿ってボロボロに成った木の立て札が裏返しに在る。
それより一先ずその辺に腰を下ろそう‥
と、
「‥愁っ」
柑チャンの声色が熱を帯びた。
それで振り返ると、愁チャンまだ二十メートル位後ろで、
しかも誰かと何かして居る。
「うわっ」
目を凝らすと、つい声が出てしまう程に驚いた。
ナンとボク達の一つ上、
悪名高き“ごりらいおん♂”が愁チャンを襲って居る。
愁チャン、麦藁帽子剥ぎ取られ、
アタマから例の“魚取り用”スッポリ被せられ、
恐怖からかモガきもせずに直立不動。
アラララ…コレ又ナンともかわいらしい。
丸で“キューピィ人形”。
けれどソンナ暖気なボクとは違い、柑チャンやっぱり兄チャン。
愁チャンの下へ一直線。
するとソレに気付いてか満足してか、正に次なる獲物を求めるライオンの様にしてフガフガとヤツはその場を去った。
「愁っ大丈夫か、ツネられたりしてないか?」
そう心配する柑チャンの後から
ニヤけてパンダヌキな目尻が一層タレ下がるノをナンとか堪え、ボクも駆け付ける。
そして再び三人一緒に古墳の麓に向かい、ケモノ道の端に転がった程好い大きさの石にそれぞれ腰を付ける。
それにしても古墳と言っても山、しかもソノ中の方に在るのだから、
ココから更に或る程度は登って行かなきゃならない。
一体ドノ辺に在るんだろう。
愁チャンの下駄も気に掛かる。
けれど柑チャンは弁当、愁チャンはバッタの方が気に成る様子で‥
ウン、ヒトリ悩むノがナンかバカらしく成った。
「じゃそろそろ進もう。ぁ、これからはボクが一番後ろ歩くから。
柑チャン先頭頼むネ」
「あぃ」
これで愁チャンを見守ってあげられるし、
アンマ深く考えずにズンズン進むタイプの柑チャンの方が“宝探し”のリーダーにはイイ気がする。
「ぁちょっと待って」
愁チャンが立ち止まり、虫取り網を道の片隅に突き刺した。
「これ目印にする。帰るときマイゴに成らんように」
ナルホド、小さくても現実的な物思いもして居るんだなと感心し、
網が倒れない様にボクも力を貸してあげる。
「ヨシ、じゃミンナ出発っ。
チィビィ泣ぁかぁせっオー、チビチビ泣ぁかぁせっオゥオゥ」
柑チャンが、愁チャンにチョッカイを出す時の“チビ泣かせのテーマ”を勢い良く口遊み歩き出す。
いじらしく何故か愁チャンも“オー”の部分で呼応する。
そして暫く進んでみるとどうやらこの山“巻貝”の様で、
サッキからずっと右斜め上に向かって居る感じ‥
と、その時、
「バタバタバタバタッ」
「ギャァッ」
道端から突然山鳩が舞い上がり、
ソレに異様に驚いた愁チャンが物凄い叫び声を上げる。
ボクはソッチに驚いてしまう。
柑チャンはと言うと、
「愁、網貸せ。今度出たら捕まえるっ」
と、“魚取り用”を愁チャンから取り上げる。
捕まえてどぅするん、と思うものの、まぁどうせムリだろうから放っておく‥
と、
今度はサーッと景色が暗く成り、その二分後位に、
「ボタボタボタボタッ」
「ギャァァッ」
モーレツな俄雨が一気に木の葉を打ち始め、
サッキの件からまだ冷めて居なかった愁チャンが更にキョーレツな悲鳴を上げ、ボクも俄かに愁チャンが“かわいさ余って憎さが百倍”に映る。
「ヨシっ取り敢えず避難場所を探そうっ」
柑チャン急ぎ足に成り、二人その後を追う。
そして一層雨足が強く成った時、
「あっ丁度イイノが在った、ミンナ一先ずココで避難っ」
柑チャンが洞穴を見付け、三人一斉に駆け込む…
と、
ソコは奥行の無い小さな“防空壕”みたいなトコだった。
柑チャンは素直に喜んで居るケド、
ボクは“爆弾”を想わせるコノ激しい雨音と、濡れて冷えた肌、
それにコノ中の薄暗いヒンヤリ感が加わって、ナンかゾクリとする‥。
けれど今は有り難く使わせて貰うしかナイ。
「パンダヌキツネコブタネズミ、パンダヌキツネコブタネズミ…」
サッキから震えてばかりの愁チャンも、
手を擦りオマジナイを唱えて居る様子。
それで行方のワカンナイこの先の事を思い、ボクは提案する。
「ココで弁当タイムにしよ」
ナンか色んな意味で久し振りに口を開く気がする。
|