Take the BAD withe GOOD!!

Same ol' Song & Dance?
My PACE,My LIFE.
 May 23,2012 Wed.   『フビンソン・クルィソー_仕様がナイ放言』
 
 
 初夏、
 
薄ら寒い日々続く或る朝、
 
洗濯を済ませソーファに腰を下ろし茫然とする中、
 
部屋の何処からか小鳥、もしくは鼠の様な鳴声。
 
 
吾が身は寒心で俄かに粟立った。
 
 
それと言うのも、
 
一週間程前に全長30cmは有ろうかと言う“大赤鼠”との戦いに
漸く終止符を打ったばかりで、
 
その戦に収束を付けるまでの約二週間は食欲減退、
 
且つ寝床付近にそのフンを見留めてからの睡眠は
 
丸で極寒地で眠りに就くかの如く全身を緊縮させ朝を迎えると言う有様で、
 
この上無く怯え切って居たのだ。
 
 
漸く安閑たる日々を取り戻したかと思いきや、
 
もしや奴が未だに‥。
 
 
ともすれば吾が屋と外界とを繋ぐ奴の通路は見当が付く限り
その全てを封鎖した今、
 
私は自ら奴を囲って居るも同然、
 
しかも最早屋外へと追い遣る術も見当たらない。
 
 
いやしかし奴との一戦が終結しまだ一週間余り、
 
瑣細な物音にも過敏に反応してしまう昨今、
 
どうせ又聞き慣れぬ音をそれと聞き紛うたのかも知れない。
 
 
そうに違い無い。
 
 
この一週間程何の動静も無かったのに、
 
どうして今更再び騒ぎ出す事が有ろうか。
 
 
しかし自身にそう言い聞かせ、
 
加速見せる心悸を治める為、
 
思考を他事へ移そうと幾度も試みた私だったが、
 
閑日月を殊更緩徐に送る吾が胸中に
 
暗雲の払拭促すこれと言った出来事は容易く浮かんではこず、
 
自失と成り瞬きすら忘れてしまって居る己に気が付いた。
 
 
するともうこれは事態を明確とし今決着を付けておく方が後々の為にも
何よりだ、
 
長引かせずに今片を付ける他無い、
 
と恐ろしさと被害妄想に因り半ば‥否、大方自棄と成り、
 
心外な程に汗で湿りを帯びて居たジャケツを脱ぎ、
 
幾年も貼り付けられた儘のガムテープ宜しくソーファに固着して居た吾が身を
臀部の端の方からジワジワと丁寧に引き剥がし、
 
小枝に擬態する虫宛らゆっくりと音も立てずに立ち上がり、
 
鳴声の聞こえた四段の洋服箪笥の方へと、
 
同様無音の儘、
 
歩を進めた…。
 
 
この時窓外に車一台通りもせず邪魔が入らなかった事は好都合で、
 
何よりその時の吾が姿態を目に留められなくて真に好かった、
 
と今振り返っても実感する。
 
 
そして尋常ではない鈍さで僅か1m半程先の洋服箪笥まで辿り着いた私は、
 
層一層に息を殺し、
 
脚輪の付いたそれに両手を掛け、
 
雑念を振り払う様一気に私の左傍らへと引き転がした‥。
 
 
すると眼中に飛び込んできたモノは、
 
多量の木屑と
 
壁に開いた直径10cm程の穴、
 
そしてその奥で怪異に光る巨大赤鼠の両眼。
 
 
私がその一瞬の内に抱いた驚倒と戦慄がどれ程のものだったか、
 
恐ろしき物に対面した者の形相がどれ程に恐ろしいものだったか、
 
それは当世の有らゆる文豪を縦え束にしても、
 
とても名状には至らぬだろう。
 
 
しかしながら私は、
 
心臓すらその本分を放棄し息を飲む程の恐怖の中、
 
私の何倍も小さなものが、
 
その何倍も大きな私を丸で釘でも打ったかの様に抑え付ける事、
 
抑え得る事に対し頭を巡らすと言う冷静をも無意識にも抱いて居た。
 
 
そしてその最中、
 
更にもう一つ大きな、
 
しかも私にとって救いと成り得る事実を脳中に覚えた。
 
 
一昨日、
 
吾が屋にふと現れた、
 
まだ仔の匂の抜け切らぬ、
 
九割九分五厘黒色の“粗黒猫”だ。
 
 
その日も肌寒い小雨降る日だったのだが、
 
その様な中、
 
何者かに乱された庭の“焼場”の灰を均して居た私に
 
丸で生後間も無い仔猫の様なかわいらしい声を掛けてきたのだが、
 
まだ撫でても居らぬ初対面の私に対しその様な猫撫声を見せたと言う事は
 
恐らく余程腹を空かして居るのだろうと想い、
 
又、寒い日でもあったので尚更かわいそうに映り、
 
更には先の鼠大戦で怯え切って居たので、
 
今後の鼠対策としてこの辺り一帯で遊行して貰おうとの思惑絡みで
 
“食パンのミルク和え”を与えたのだった。
 
 
都合好く先程の洗濯の際にガラス窓も僅かながら開けた儘。
 
 
それで私は憎憎しい赤鼠から視線を外す事は危ういとの思いから、
 
奴に直面して居る顔面の角度を45°ばかり右に逸らし、
 
左目はその儘に右目だけを“極力”後方の窓辺へと移し、
 
彼奴を、キャッツを、呼ぼうと
 
脂汗で滑る鼻から肺の許容量の七分目辺りまで大気を吸い込んだ‥‥
 
が、
 
稲妻の如き事実が又一つ、
 
暗雲射貫いたばかりの光芒を更に掻き消す様にして
 
吾が心中を貫いた…
 
“名前はまだ無い”。
 
 
ここでも著名なる某小説の冒頭が脳裏を過る程の冷静‥
 
と言うか悪戯を見せた私だったが、
 
最早観念し、
 
首と右眼球を元の位置へと、
 
赤鼠へと返した。
 
 
すると奴の方も呆然なる体か、
 
後ろ二本の足で立ち、
 
鼻をヒクヒクとさせ丸で私を嘲笑うかの様だった。
 
 
そして漸く、
 
私は自覚した。
 
 
この自然に囲まれ外界からの情報は粗遮断されたログ・キャビンで独り
 
“ロビンソン・クルーソー”宜しく生活して居た私だったが、
 
実の所真のロビン‥否、“主”は、
 
私が現れる以前から既にここで自活して居た
 
この赤鼠の方だったのだと。
 
 
この新星たる知見に私は瑣少当惑しつつも事大主義へと急転し、
 
両の膝を折り床に着け、
 
両肘をも同様にし、
 
その両掌を組み合わせ、
 
潰れる程に両目を閉じ、
 
赤鼠に向け初めて言葉を発した。
 
 
「主よ、どぅか吾が身を救いたまえ」。
 
 
すると間髪を容れず、
 
「ぶぅぉぉ゛お゛ぁ゛」。
 
 
四方の窓ガラスが微かに振動を起こし、
 
天井の梁からパラパラと塵埃が舞い落ちてきた…。
 
 
私自身、
 
眼前の鼠様が御怒りに成られたのだと束の間惑ったが、
 
違う、
 
床に平伏した慣れぬ体勢と極度の緊張に因る圧迫感で、
 
私が“大放屁”したのだ。
 
 
私は吾に返り目を開き鼠を見た‥
 
いや、見ようと目を凝らした、
 
が、その姿は消え去って居た。
 
 
私は豁然に至った。
 
 
自然の摂理が優ったのだ。
 
 
自然なる慣わしが、
 
眼前の恐怖、元い
 
自ら膨らませた内なる恐怖心を一掃したのだ。
 
 
しかも唯の“一吹き”で。
 
 
私は跪いた姿勢の儘、
 
上半身を起こすと再び両掌を組み、
 
臭気に目を細め、
 
今度は天を仰いだ。
 
 
「ぉぉお吾が主よ…」。
 
 
 
 
*コノ物語はフィクションです。
 
 
 実際の奇行とは異なります、御安心クダサイ。
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