台風四号近付く夜に、
Salと一緒に寝て遣ろうと思い立つ。
多分、互いにナカナカ寝付けぬだろうと思い、
ソレを見越して早めに床に就く。
するとやはり落ち着かない。
カノジョは毛布を如何にも欲求不満の体で“フガフガ”と噛み、
オレの横に成ったとしても“ハーレー”のエンジン音宜しく喉を鳴らし、
“構ってくれ”と言う。
昼間、オレの隣で静かにかわいらしく寝て居た様には眠らない。
ネコは夜行性なのだろうか。
ソンナ時間が続き、同じ姿勢で長く横に成って居た為、
体が強直してしまって居る事に気付く。
“寝返り”は必然必要で、
“眠る事”は案外大変なのだと思い知る。
ソンナコンナで漸くウトウトし始めたオレ、
しかしSalはトイレへ行く時の為にほんの少しだけ開けてある
階下の窓際へ行ったり来たりを繰り返して居る。
そして夜も深けた‥
と言うか最早朝方の四時半頃、
騒ぎは起こった。
「シャァァーーッふぅゎ゛い゛ぃ゛ぃ‥ん゛にゃぁ゛あ゛あ゛」。
まるで丸鋸で木材を切断するかの様な、ネコのモノとは思えぬ声。
“ビクゥゥ”、
コノ狂騒で瞬時に目は冴えた。
そぅ、どうやら今時分に“ケンカ”らしぃ。
恐らく相手は、先日一度だけ目にした
Salより一回り大きなアイツに違い無い。
又もSalのマンマを横取に来たのか。
何よりSalの身が心配な為、怯懦な心に鞭打ち飛び起き階下を覗くと、
一匹が室内に入って来て、対面の小窓のカーテンの裏にソノ身を隠した。
気後れしつつもオレは
「…Sal‥‥Sal‥」と呼び掛ける。
カーテン裏のネコは未だ
「フゥゥ‥」
と興奮静まらぬ様子。
「Sal…Sal…」
尚も呼び続けるオレ。
すると
「パリィン」。
ソノ窓辺に置いてあった“用途模索中”の百合形ガラス製花瓶が
床に落ち割れた模様。
照明を点けようにもソノ為には下へ降りて行かねばならず、
ソコに居るネコがSalか否かも分からぬ中でそぅする勇気はオレには無く、
只“スマホ”の僅かな光でソノ場を照らす‥
ぃゃ、届かぬソノ光を向ける他無かった…。
一体いつまで続くのかと思われた不気味な空間、
しかし突如
「にゃぁ」
Salのいつもの声が聞こえた。
そぅ、やはりソコに居たノはカノジョだった。
何事も無かったかの様にオレの所へ上がって来たカノジョ、
それで気を取り直したオレは逆に下へ降り、
照明を点け、窓から顔を出し、外を見遣る。
勿論Salもオレの後を追って来て、同じく顔を出す。
Salが目を向ける方を真似てキッと睨みを利かすオレ、
“二度と来るんじゃナイ”
と姿無き相手に念を放つ。
既に払暁なる外界は
有らゆるものが見留められる程に白み、静かに息吹いて居る。
そしてそのまま外へと出て行くSalを認め、
ソッと窓を閉める。
Sal、
ヤッパ夜は別々に。
you're my salvation anyway.
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