隊長の椎名　誠いわく、林さんの作る料理は押し付けがましくなく、ちょっと作ってみたんだけどといった感じでさりげなく出されるという。林さんの書く文章もそんな感じで気持ち良く読めるのです。上手く言い表せないけど、読み手と書き手の距離感が丁度いい具合と言ったらいいのでしょうか？　

　先の植村直己の本にも共通するかもしれないけれど、経験に経験を積んだ者が余計なものを削ぎ落とし、その後に残ったエキスのような文なので、シンプルなんだけどとても分かりやすくてためになるのです。
　料理本の中では、檀　一雄の『檀流クッキング』（中公文庫）も大好きなんですが、林さんと同じ雰囲気を感じます。やはり豊富な経験に裏打ちされつつも、教条的ではなく、臨機応変な技を駆使し、思わず自分でも作ってみたい気にさせるのが上手なんですよね。