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『ジョン・ミューア・トレイルを行く―バックパッキング340キロ―』 加藤則芳、著 |
| アメリカのカリフォルニア州を南北にはしるシェラネバダ山脈。そこを貫く全長340キロに及ぶジョン・ミューア・トレイル(JMTと略す)は全米のバックパッカー憧れの道。そのJMTを全行程走破した時の記録です。
エルキャピタンやハーフドームの大岩壁で有名なヨセミテ渓谷からMtホイットニー(アラスカを除くアメリカ本土の最高標高地点)まで続く山岳トレイルであるJMTを歩くことは、まさにパックパッキングの極みです。湖・森・高原・高山など変化に富んだ美しい景観の中を歩く楽しさもある一方、標高3000〜4000mの峠を9つも越え、大小多くの川を越える(ほとんどが徒渉で)などかなりの厳しさも併せ持っています。全行程を一気に歩きとおせるのは極めて少数で、ほとんどの人は何年かかけて分割して歩くというのも肯けます。 著者は最初にJMTにチャレンジした時、早い段階で足を痛めて敗退しています。でも、潔く自らの失敗を認め、何が原因か問題点は何かを挙げて、次回それにどう対処すべきかをちゃんと記しているのに好感が持てます。JMTを実際に自分の足で歩いてみたいと思った人には、参考になるのではないでしょうか? JMTを通じてアメリカの自然保護のあり方にも触れられます。トレイル内の情報提供、明確にして合理的なレギュレーション、レンジャーの活躍など。焚き火の規則を例にあげると、かつては「跡形もないように整地してから立ち去ること」と決められていたのが、結局多くの焚き火の炉跡が残されてしまったので、「焚き火用には既存の炉を使うこと」と変更されたそうです。状況に応じた柔軟性のある規則である一方で、「使っていい薪は枯れた小枝のみで、立ち枯れした木の使用は禁止(小鳥や虫の巣があるかもしれないから)」など細かく規制された部分も多いのです。 ただ、JMTを歩くアメリカ人はほとんどが白人でそれも中流階級以上の人たちだという指摘には考えさせられました。アメリカの構造的な問題は都市や工場だけでなく、こんな山岳にまで及んでいるのだなと思いました。 |