『究極のアウトドア体験―北米アパラチア自然歩道を行く―』 ビル・ブライソン、著

 アパラチア自然歩道とは、アメリカ東海岸近くを南北に走るアパラチア山脈の尾根伝いに作られた、全長3500キロのハイキングコース。標高2040mが最高地点ですが、1500m級の山を350ほど越えて行かなければならず、走破するには最低でも5ヶ月は必要といわれています。

 それにチャレンジしたのが著者のビルとその盟友であるカッツのむさ苦しい男二人組。彼らの弥二喜多チックな珍道中記を面白可笑しく読むことが出来ました。前出の加藤氏の本はまじめにきっちり作られていて、本気で歩きたいという人には参考になると思いますが、一方で物足りなさも感じます。もっと地図や写真を入れて欲しかった。でも、この本には写真地図の類はほとんどないのに、気にならない。グングン彼らの物語に引き込まれます。

 やはり、日本人が言葉の通じない国のトレイルを記述する限界なのでしょうか?トレイル付近の地理的歴史的背景、周囲のバックパッカーとの遠慮のないつきあい、等々はネイティブが記述したものにはかないませんね。

 でも、一番この本で面白いのはビルとカッツ、二人の関係であり、二人が交わす会話ではないでしょうか。個人的にはアメリカンジョークというのはあまり好きにはなれなかったのですが、二人が最悪な状況に陥った時、更にそこに追い討ちをかけるようなカッツのジョークは嫌いではありません。もし自分がそんな状況にあったら、落ち込んだり、怒ったり、茫然自失する友人より、思い切りブラックなジョークを飛ばせる相棒の方が信頼できる気がするのですが。

 また、ただの面白道中記というだけではなく、アパラチアトレイルの現状分析もしっかりやっています。自然破壊・アメリカの環境政策批判など加藤氏の本では描ききれなかったアメリカの闇の部分も明らかにしています。トレイル周辺のアメリカの地方都市の様子や鉱山災害、ハイカーではない観光客の様子なども記述されています。

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