『エンデュアランス号漂流』 アルフレッド・ランシング、著

 1996年に急逝した写真家・星野道夫氏の座右の書で、彼がアラスカでのオーロラ撮影のため一ヶ月の単独キャンプをしていた時に読まれていた、といった帯に惹かれたのが読み始めたきっかけでした。

 極地ものの本は、どういうわけか自分の好みに合って、読み始めたら止まらなくなってしまい、気がついたら夜が明けていたなんてことが多々あったので、用心?していたのですが、案の定やはり危険な本でした。ぐいぐいと彼らの遭難記に引きこまれてしまいました。
 この本が最初にアメリカで出版されたのが1959年。それから40年近くたってやっと日本語訳が出たわけですが、それにも星野氏が重要な役割を果たしていたようです。このような素晴らしい本にめぐり会わせてくれた彼に本当に感謝しなくては。

 前置きが長くなりました。本書は英国人の探検家・シャクルトンが南極大陸横断に挑戦し、志半ばで遭難、そこから脱出し奇跡の生還を果たすまでのノンフィクションです。
 28名の隊員を乗せた船(エンデュアランス号)は、南極大陸に着く前に氷に閉じ込められてしまいます。10ヶ月もの間、自力で動くことも出来ず氷が流されるままに漂流を続けるのですが、遂には万力のような力で氷に船を押しつぶされてしまうのです。そこからは船を棄て、犬ぞりと小さなボートを頼りに7ヶ月をかけて、全員無事に生還を果たしたのでした。

 シャクルトンの目的であった、南極大陸横断はそのスタートにつくことさえ出来ず失敗に終わったわけです。しかし、探検を描いた物語の素晴らしさは、探検そのものの成否とは無関係であるように思えます。書き手の力量で本の面白さが左右されるのは仕方ないことですが、本の登場人物たちがどのような困難に直面し、それにどのように立ち向かっていったのかによって、物語の面白さは決まって行くのかも知れません。そうしたことに、彼らの人間性が如実に表現されていくのではないでしょうか。
 

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