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 道徳の授業の一番最初は発表練習から始めます。まず「道徳では真剣に考えた意見にはどれも間違いはない。」という内容で,全員が安心するように話します。そして,端から一人ずつ立って発表していきます。内容は「自分の名前」です。これを「はっきり,くっきり,きっぱりと言おう。」と指示します。そして,「私の名前は○○○○です。」と立って言わせた後,「一人ずつ・必ず・素早く・短く」その言い方への賞賛を送っていきます。例えば「はっきり言えます。」「さわやかです。」「よくこちらを見て言えました。」「目に力があります。」「笑顔がいいね。」「かっこいい。」「きっぱり言えました。」などなどです。

 人は話すことでより深く考えます。そして話すことで主体的になります。また授業中黙っていては退屈します。そして,自分が喋った後は他の意見が気になります。特に道徳のような学習では,主体的にお互いの考えを出し合うことで盛り上がり,価値の追求が起こり,道徳的な資質が高められていくはずです。そこで,まず全員が「人前で話す」ということに慣れておくことが授業の大前提になります。

 自分が担任を持つ場合は様々な場で「発表」への取組みをしていきますが,週に一度だけの授業ではその時しか発表しようとする意識づくりはしていけません。名前を大きくはっきり言うという1段階目は「立って声を出すことに慣れる」という練習でした。次に2段階目に移ります。

 次は,「思うことを言う」という練習です。これは「指名無し発言」でも行っています。まず,手のひらを前に出して,「この手の上に赤い物が乗っているとします。何だと思いますか?」と聞き,何でもいいから自分の想像した物を答えます。その時の約束は「自分の考えのある人はすぐに立って言う。」「人と声が重なってもいい。」「ぼくは(私は)○○だと思います。という言い方をする。」というものです。時間もないので,どんどん言わせてさっと終わります。

 1段階目で一人ずつ名前の言い方をほめられたり,それを聞いて笑っていた子どもたちは,この2段階目の課題もどんどんクリアしていきます。次は3段階目です。段々難しくなるよと言いながら,挑戦意欲を煽っていきます。

 次は意見と理由を求めます。例えば「みんなよく発表するので,ごほうびに今日から1年間宿題なしにしようと思います。あなたは賛成ですか,反対ですか。」とか「学校の隣にディズニーランドを作ることになりました。あなたは賛成ですか,反対ですか。」等の問いを出します。答え方は「自分は賛成(反対)です。理由は○つあります。1つ目は・・・。」というパターンです。

 子どもたちは今までの段階で乗ってきていれば,この3段階目も本気で意見を言ってきます。ここまでどの子にも,「思わず意見を言ってしまう」ような雰囲気作りを意識して盛り上げてきています。そして最後の4段階目は,「自分の経験」を加味した意見を求めます。そこで,次のような課題を出します。「放課後,男の子が一人ですごく悲しそうな顔をして帰っていました。その子はなぜそんなに悲しいのでしょう。自分が今までに経験したことを思い出して,自分が○年生の時にこんなことがあって,その時とてもつらかったんだけど,その時の気持ちに似ているんじゃないかと思います,というような言い方をしましょう。」

 道徳の授業の中では,理想的な意見ばかりを出していては薄いものになってしまいます。そこで「弱みに共感する」とか「体験を通して考える」ということが必要になってきます。そこで,子どもたちにはできるだけ「自分の経験」をもとにした意見を求めます。形としては,「自分は前に○○したことがあって,その時○○と思ったんだけど,この主人公も同じように○○と思ったんじゃないかと思います。」というようなものです。子どもたち一人ひとりが,自分の生活と比較しながら,具体的に思考していけるようにという願いが4段階目には含まれています。

 こうして4月最初の出会いに行う道徳の授業では4段階の助走をつけてから授業に入りました。子どもたちは「授業」というものに対して,また「道徳」というものに対して,それぞれの経験から自分なりの固定観念を持っているはずです。それを一応ここで初期化してもらって私の授業の方法に慣れてもらい,これからの1年間の最初の滑り出しをスムーズにしていきたいと思いました。