教育実習

 教育実習生の担当をすると,毎日実習日誌へ指導・助言を書くことになります。
 その記録の紹介です。実習生はさわやかで元気のいいスポーツマンでした。


1日目
(実習生所感)
「・・・総合という私たちの時代ではなかった授業が入っていて・・・」
(指導・助言)
 新しい時代に即した,新しい教育が今求められています。「総合的な学習の時間」は,これからの世界が直面する様々な課題に対して一人ひとりが自ら主体的に考え,解決していける力を身につけていくことをねらいにしています。どの活動もそうですが,この「ねらいをはっきりさせた」活動を仕組むことが大切です。
 子どもたち一人ひとりをよく観察し,自分なりの分析を加えていくことがよくできています。実態をまずつかむということが大切ですね。



2日目
(実習生所感)
「・・・子どもはすごいなと思いつつ,絵を見てまわりました。・・・」
(指導・助言)
 絵には「9歳の壁」というものがあるそうです。9歳までは自由に伸び伸びとすぐに絵を描いていたのに,9歳前後から急に「うまく描こう」として,描けなくなってしまうのです。好きに描いている間はいいのですが,上手に描きたいけど描けなくて絵が嫌いになってしまう年頃があります。そういう時,描く子一人ひとりが満足できる絵に仕上げさせる技術が必要になってきます。そういう技術を紹介した本はいくらでもあります。資料を集め,自分でまず描いてみて指導していくことが子どものためになります。
 いつも明るく子どもたちに接しておられる姿がすばらしいと思います。



3日目
(実習生所感)
「・・・生意気な児童が多すぎると思って,腹が立ちました・・・」
(指導・助言)
 教育という仕事は,本当に自分自身を見つめさせられる仕事です。人を指導するということは,自分はどれだけの人間であるのかを問われることでもあります。若いうちは腕力,迫力で押さえることができていたとしても,いつかはそれだけでは利かなくなったり,問題になることもあるでしょう。様々な個性を持った集団を相手にするには老練なしたたかさや,しなやかさも必要になってきます。相手が納得する指導さえできれば,軽く押しただけで動くはずという信念を持って取り組んでいきたいものです。
 (実習生)さんのように,まずは子どもの中に入り,いっしょに遊んで,共感を得る関係をつくっていくことが全ての基だと思います。



4日目
(実習生所感)
「・・・道徳の授業は昔と変わったらしく,ことわざの中に含まれる人生訓を自分の経験と合わせて考える授業をしました・・・」
(指導・助言)
 「道徳」の「道」とは「人の道」であり,「徳」とは「その,人としての道を悟った立派な行為」を意味します。学校での道徳の授業では,子どもたち一人ひとりが,授業前と授業後で自分の道徳的価値観を向上させることをめざします。そのために教師は題材を選定し,資料を用意し,子どもの価値観を揺さ振り,それまで無意識だったものや,眠っていたものを呼び起こしていきます。「教育」は各国の統制下にありますから,その時代の要請によって変わっていくところもあります。
 (2年生の授業を参観して,「低学年の児童には笑うことを教えてもらいました。」という所感に対して)「笑うことを教えられた」と,何事も吸収していく態度がすばらしいと思います。
 (初めて5年生の算数の授業をして)授業は見るのとするのでは随分ちがうのだということが分かったと思います。場に慣れるためにも,これからもどんどん授業に参加していってもらおうと思います。子どもたちも楽しみにしています。



5日目
(実習生所感)
「・・・習熟度別に分かれるのは,良い部分もありますが,もし親が・・・」
(指導・助言)
 現在,学校において学力保障は大きな課題となっています。今まで,世界の中でトップクラスと言われていた日本人の学力が下がってきているという調査結果が出されてもいます。その中で,子どもたち一人ひとりに確実な力をつける方策の1つとして全国的に取り組まれているのが習熟度別学習や少人数学習です。習熟度別に分かれるのは,まず本人の希望を基にします。そして,各単元によって児童の得意,不得意があるので,単元毎に構成も変わっていきます。(実習生)さんのような感じ方をされる保護者もおられるかもしれないので,事前にその主旨の説明を行い,実際にそれによってどのように力がついてきているかも伝え,学校と家庭で子どもを励ましていけるようになることが大切ですね。



6日目
(実習生所感)
「・・・5時間目に参観させてもらったクラスの授業では,静かなクラスではないが,上手に対応されていると思いました。よく話す子がいれば,その子のことを楽しいネタにしてクラスを良い雰囲気にしていく。大変勉強になりました。教師として行っているのに,児童になって受けたいと思いました。・・・」(このクラスの先生が10月に一筆箋で紹介したあのカリスマ教師です。)
(指導・助言)
 自分の指導の姿を第三者の目で見てみるということが指導者には必要ですね。とかく人の姿は見えても自分自身の態度については甘くなったり,無意識になるものです。これから教師の道を歩もうとしているとき,様々な姿を見て,自分なりの理想とするビジョンをはっきり持つことはとても大切なことだと思います。
(この日自分も授業をした反省に対して)授業はいくらやっても反省点はあるものです。いくら事前の計画を細かく立てていても,対応のできないこともあります。失敗や反省を生かして,次の授業に挑むことで力量も高まっていくはずです。



7日目
(実習生所感)
「・・・あらためて,教師という職業は大変だと思った。・・・」
(指導・助言)
 人,集団を指導し,動かすということは大変難しいことです。うまくいかないのが当たり前です。まず「人前に立つのは難しいものだ」という実感を持つことが実習の成果の1つにもなります。これだけ難しいということが分かれば,次からは準備を確実にしたり,展開の工夫をしたり,話し方を考えたり,練習を何度も繰り返して本番に臨むようになります。どの世界でもそうですが,事前の準備の内容が結果に表れます。教師という職業は,自分の工夫しだいで直接手応えも変わってくるやりがいのある仕事です。 



8日目
(実習生所感)
「・・・大変でそしておもしろい職業だ。子どもを扱うプロなんだと思った。・・・」
「・・・実習最後として研究授業をしました。他の先生方が参観日のように見に来られて,頭の中が真っ白になりました。・・・」
「・・・児童が「先生がたくさん来たら誰もしゃべらないから,しっかり手を挙げたよ。」とか,「先生がピンチになった時に,オレにあてて。」と私に言ってくれました。・・・」
(指導・助言)
 自分に必要なものを見つめ,この仕事に携わるために大切なことをよく学んでこられたと思います。どんな仕事でも,愛情や真剣さに裏打ちされた確かな技術を身につけることを求められるのがプロの世界です。まず自分を真っ白にし,謙虚に学ぶところから始め,自分なりに確かな技能,技術を1つずつ身につけていくことが,子どものためになる教師への道ですね。また,子どもたちとの人間関係をつくり上げていくことも大切な取り組みになります。この2週間の子どもたちの反応に自信を持って下さい。



9日目
(実習生所感)
「・・・小学校の時は,何気なく受けていた授業も,大人になってみると,・・・」
(指導・助言)
 2週間ご苦労様でした。最初から最後まで明るく活発に子どもたちの中に入り込んで,楽しく話し,活動しておられました。「言うことをきかせる」のも教師の仕事ですが,「言うことをきこうとする」ような関係づくりをしていくのも教師の仕事ですね。どちらにしても子どもたち一人ひとりの望ましい発達をめざして,日々指導していくためには,意思の疎通が図れる雰囲気や関係が前提となります。教育の仕事は自分自身を問い直しながら行う,厳しいがやりがいのある仕事です。ぜひこの道をめざして,来年もおいで下さい。



 2週間の予定で1日祝日があったので,実質9日間の実習になりました。もう2週間の実習が来年あるそうです。初めての実習生担当をして,私自身もいろいろなことを学ばせてもらいました。

 実習日誌最後の「実習の所感・総評」では次のようなコメントで締めくくられていました。ユニークな実習生でした。

(実習の所感・総評)
「・・・それと,教師というのは,固いイメージしかなかったのですが,それはちゃんとしたキャラ設定で,意外と普通の人だなと思った実習でした。」