「先生の話」

朝会,夕会で「先生の話」がある学級が殆どだと思います。
教師が,前に立った時,子どもたちは,「聞こう」としているでしょうか。
教師が口を開きかける瞬間,なにがしかの「期待感」を持った表情でこちらを見てくれているでしょうか。
私は,その自信がありません。
口を開けば注意,連絡,小言では,もちろん子どもは期待感など持つはずもないのですが,そうでなくても,途中に
「あー」
とか
「えー」
とか,
「分かりましたか」
とか入ったり,
「昨日は雨が降りましたね。今日は曇っていますが,明日は晴れるでしょう。さて,・・・」
なんて言っていては,聞かされる子どもも可哀想に思います。
一番いいのは,朝などつまらない話はせずに,すぐ授業を始めればいいし,帰りは,
「今日1日楽しかったですか?」
  「ハイ。」
「明日も元気に来ましょうね。」
  「ハーイ。」
「それでは,さようなら。」
  「サヨウナラ!!」
と,いうのが理想です。
もう10年以上も昔,ある校長先生から
「わしは,帰りの会をそうやっとった。」
と聞いたことがあります。
その当時は,それを聞いても,「いいかげんだな」ぐらいにしか思っていなかったのですが,最近,これは,すごいことなんだなと思うようになりました。
実際私たちは,学校で1日が終わって,子どもたちを前にして
「今日1日楽しかったですか?」
と,はっきり聞ける勇気,自信があるでしょうか?
自信がある人は,やってみて下さい。
遠足があったような日なら別ですが,普通の日には,私は,怖くてできません。
上の,子どもの「ハイ。」には,「その日1日の満足感」があり,
2番目の「ハーイ。」には,「明日への希望」があり,
最後の「サヨウナラ。」には,「教師への感謝」があるように思います。

こんなドラマチックで,大陸的な実践力のない者としては,やはり「先生の話」にいろいろ小賢しい策を弄するしかないのですが,とにかく,まず考えたのは,「先生の話」をつい聞こうとする習慣をつけたいということでした。
そこで,話の中に「エピソード」と「子どもの名前」を入れることにしました。
きっとこれなら「聞こう」とするはずと思ってのことです。
そして,帰りの会では「先生の話」の中に必ず一人は,子どもの名前を出し,その子の行動の評価を入れるようにしました。
これを毎日必ず続けます。
そのために,その日1日の中で,紹介したいちょっとした行動をメモしておきます。
これは,できるだけ小さなことをその場では知らんふりで通り過ぎておいて,帰りの会で,「実は・・・」と「大げさに,感動的に」やると効果的です。
ほめられた子には,「先生は,見ていてくれるんだ」という感触が残ります。
朝は,学校に着くまでの間に車の中でその日の朝会に紹介したい,最近の子どものエピソードを考えておきます。また,提出された日記を前もって読んでおいて,面白いものを紹介したりします。
およそ,朝も夕方も「先生の話」は1分か2分で終わりにします。
イメージとしては,さっとほめて,さっと終わるという感じです。
これを続けていくと,いくらか,教師が前に立つと,ある種の「期待感」を持った目でこちらを見るようになります。
「今日は何のことだろう。自分の名前が出るかな。」
と思ってくれるようになれば,しめたものです。

私が以前勤めた学校では,「週番の先生の話」というのが,毎週月曜日にありました。
教師が持ち回りで週番をしますから,6週間に1回の割合で全校の前で朝,話をしなければなりませんでした。
よくあるのは,植物とか石とかを見せて,「これは,何だと思いますか?」で始まるやつです。
この後,図鑑で読んだような話が続きます。
また,歳時記を紹介するパターンがあります。
子どもたちからは,「早く終わらないかな」というような空気を感じました。
確かに物を見せれば,いくらか子どもは興味をもつのですが,なぜか,「植物」を見せて「これはね」というのだけはやめようと思いました。
それは,他の場でできることだと思いました。
また,図鑑を読めば,誰でもできることだと思いました。
出来れば,「物」なしで聞かせるような話がどこまでできるか試してみたい。
と,身の程知らずにも思ったのを覚えています。

そして,その学校に転勤して初めての週番が回ってきました。
緊張しながら話した内容を紹介します。
今からもう,7年前のことです。

「週番の先生の話」その1

おはようございます。 
突然ですが,ちょっと聞いてみます。
今,ハンカチを持っている人,手を挙げて下さい。
はい,下ろして下さい。
たくさんの人がハンカチを持ってきていますね。
今,ハンカチを持っていない人も教室にあるのかもしれないし,運悪く,今日だけなかった人もいるかもしれませんね。
ハンカチを持っていなくて,手を洗った後,服で手を拭いたりする人を見て,不潔だとか言うことがありますが,先生は,ハンカチを持っていないような人を不潔な人とは言わないと思います。
でも,不潔な人というのは,います。
どんな人が不潔な人と言うか,知っていますか?
もうすぐ,町の選挙がありますね。
で,その選挙で投票するのに,お金をもらってその人に投票する人がいます。
先生は,そういう人を不潔な人,というんだと思います。
では,ハンカチを持っていない人は何というか。
先生は,そういう人を,おけつな人と呼んでいます。
なぜか。
それは,ハンカチがない人は,手を洗った後,後ろから見ていると,おけつで手を拭いているからです。
先生のクラスの人は,もう何人か,おけつな人と呼ばれた人がいます。
おけつな人と言われないよう,ハンカチを持つくせをつけましょう。
終わります。


後半部分では,子どもの笑い声が起こり,一番大事な,「ハンカチを持つくせを」というところは聞こえなかったのではないかと思いますが,にこにこしながら聞いていた子どもたちの顔を覚えています。
これだけで,
「先生の話を子どもが楽しみに待っている。」
と言われるようになりました。

その学校にいる間,一度も話す内容をメモにとったりしたことはなかったのですが,緊張して考えたせいか,今でもよく覚えている話がいくつかあります。

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