瞳の奥に
(第2集−5月−)


    「弁当箱」
                   男子A
この弁当箱は一年の春から使ってる
落としてきずをつけたこともあるし
かっこわるいと思ったこともある
でもこの弁当箱には
ぼくが入学してからの思い出がある
大事な大事な
ぼくのたからもの

 
      「夕ぐれ」
                     男子B
 今日も一日終わりに近づいた
 カラスは山に帰ってく
 太陽も山にすいこまれるようにしずんでく
 動物たちもどこかへ行ってしまった
 静まりかえった夕ぐれ
 少しさびしい
 でも空はまっ赤な夕やけ
 まるでよっぱらってる
 だがもうすぐ
 この空もどこかへ消えてしまう
 またさびしい
 だけどまた明日がある
 きっとまたみんな帰ってくるよ  

    「お母さん」
                     男子C
 お母さんは,竹内屋にいって仕事をする
 その仕事は,こんにゃくを作る
 帰るのは,いつも5時すぎだ
 ぼくは,はやく帰らないかなぁと思う
 手をみるとこんにゃくのしるがついてなんかへんだ
 でもいつもいく
 たいへんだ
 
    「小錦と千代の富士」
                    男子D
 小錦と千代の富士はとても強い
 朝しおなんかめじゃない
 ゆうしょうだって
 でもこの二人の気もちは千代の富士を見たら
 小錦さえいなければ
 小錦から見たら
 千代の富士さえいなければ
 こういうライバルいしきがし合に出るのか
 この二人のし合は,とてもいい
 だからぼくは,どちらもおうえんできない 

    「金魚君」
                    男子E
 「おい,みんなが勉強をはじめたぞ。」
 いつも,ぼくたちを見守っている 金魚君
 とても元気でかっぱつで,
 まるで,ぼくらのクラスみたいだ
 「えさはまだかぁ〜。」
 とおこっているようだ
 そこもぼくたちのクラスににたようだ
 金魚もかいぬしに,にたようだ

     「子ねこ」
                    女子F
 いつも手を出す
 この子ねこ
 いつのまにか人気者
 タマは,おあずけ
 タマは,いじける
 子ねこの,ひっぱりあいこ
 子ねこは,
 「いたい」
 と,ニャーニャー語
 おかしなねこよ
 この子ねこ 

    「セロハンテープ」
                    男子G
 いつも,かげにかくれてる
 なぜ,かげにかくれる
 いつも,紙と紙の心をくっつければいいのに
 なぜ,かげにかくれる
 みんなの前にどうどうと出ないのだ
 いつも,紙と紙をくっつければいいのに・・・

    「たけのこ」  
                   女子H
 ぷっくり太った
 たけのこたん生
 まだ生まれたばかりの
 ひよっこたち
 だけどいまにぐんぐんのびて
 まわりの草をおいぬいて
 みんなのせもおいぬいて
 天までとどく
 竹になるよ


    「おばあちゃん」
                    男子I
 うちのおばちゃんは
 とてもひょうきん
 ぼくたちにへんなことをすると
 「ごめんね。」
 という
 ぼくたちが言ったギャグを
 全部まねをする
 だけど働く時は
 とてもまじめ
 ぼくたちのために一生けんめい 働いてくれる
 時々けんかするけど
 すぐなかなおり
 おばあちゃんはやさしい
 これからも
 これからも
 長生きしてください


    「お母さん」
                     男子J
 まだ,ぼくたちがねているのに,
 朝早くから,ごはんのしたくをしてくれている。
 朝ごはんがおわると,
 ちゃわんなどをかたづけて,
 仕事にでかけて,
 仕事がおわると,
 帰ってきて,
 すぐに,水でちゃわんをあらったりしているから,
 ぼくは,手を見ると,
 赤い手ぶくろをはめているように,
 真っ赤になっている。
 だから,朝,ばん,
 真っ赤になるのだと,
 ぼくは思いました。


    「おばあちゃん」
                      女子K
 私に,大事にしたい見合い話がある
 これはお母ちゃん達の見合いの時にあったこと
 お父ちゃんとおばあちゃんが,お母ちゃんに会った時
 おばあちゃんはお父ちゃんに
 「おいこの人ぁよう仕事をしてくれそうじゃけぇ絶対よめにもらえ。」
 力強くひそひそ話
 こんな力強いおばあちゃんは
 お父ちゃん達がけっこんして
 夜はいつもお母ちゃんと大きな声で話しをしている
 こっちはテレビの音が聞こえなくて困るが
 「元気」が口から出て来るおばあちゃん
 「元気」を使いすぎないでね


    「けむし」
                      男子L
 いつも 学校から帰っていると
 6ぴきぐらい
 けむしが死んでいる
 そして 道を元気よく 気持ちよく
 はっているやつもいる
 でも車にひかれるので
 草ににがしてやる
 そしたら
 ありがとうと
 かならずしっぽをふってにげるようなかっこうをするので
 気に入って
 ますます ありがとうを聞くのが楽しい
 これからも
 生きているやつは にがしてやるからな


    「文ぼう具」
                      女子M
 文ぼう具まだ使える
 短くなると捨てられる
 消しゴムだってあきたら捨てられる
 物差しだって消しゴムみたいにあきたら捨てられる
 ノートはぐちゃぐちゃに絵をかいたりして捨てられる
 そしたら
 文ぼう具が化けて
 捨てた子のもとに出てくる
 泣きながらみーんな出てくる
 文ぼう具は
 捨てた子が好きだから
 泣きながら出てくるんだろう
 文ぼう具がかわいそうだ
 文ぼう具は
 大事にしなきゃいけない


    「カエル」
                      男子N
 カエルの歌が
 夜になると聞こえる
 ガーガーガーガー
 ヘン ぼくの方がうまいぞ
 夜になるとねむたいんだ
 ガーガーゆうな
 もうすごくねむたいんだ


    「ぶた」
                      男子O
 ぼくは,ぶたがきらいだ。
 それは,人間とちがって
 食べ物は,人間の食べ残りを食べる。
 住む場所は,ぶたがこいたくその中。
 だからぼくは,
 ぶたは,体にうんこがついているからきらいだ。


    「お母さん」
                     女子P
 毎朝知らないうちに起きて
 みそしるをかがせるお母さん。
 ろうかもトイレもピッカピカ。
 おふろもトイレもピッカピカ。
 いつの間にかお母さんもピッカピカ。


    「お父さん」
                     男子Q
 お父さんはとてもちゅうしゃがきらいだ。
 そんなにちゅうしゃがきらいなら父のはじだぞ。
 子どもにばかにされるぞ。


    「牛」
                    男子R
 でっかい鼻にこわそうな目
 でっかい体にやりみたいなつの
 まるでおばけの牛おにみたいだ
 牛はいつかぼくらのはらの中
 かわいそうだが牛肉はうまい


    「ねこ」
                    男子S
 目をキラリとかがやかせながら
 ねこのけいさつはいく
 どろぼうねずみを
 追っかけながら
 どこやら
 旅に出かけたぞ


 19人全員の詩を1編ずつ紹介しました。5月は一人平均3.2編の詩を書き,全部で62の詩を集めた詩集になりました。その全ての詩に簡単なコメントを最後につけています。これは,その詩の良さをまわりの児童と家の方,そして本人自身にはっきり伝えたいと思ってのことです。いわゆる「評価」があることで次回への意欲も生まれるのではないかと思いました。 
「弁当箱」・・・「使っている」でなく,「使ってる」としているところに意味があります。「こともあるし」「こともある」のくりかえしが,その後の「でも」の気持ちを強める役割をしているのです。

「夕ぐれ」・・・「竹の子」でも紹介した中身のこい詩です。

「お母さん」・・・「でも」があるということは,「こんにゃくのしるがついて」いる手を見て,本当に大変だと思っているということ。
 
「小錦と千代の富士」・・・二人の心理の深いところを読みとっています。「だから」「どちらもおうえんできない」のでしょう。

「金魚君」・・・クラスを見つめる目がまずあるから,「金魚の考え」を表せるのです。

「子ねこ」・・・書き出しがすっきりしています。「いつのまにか」をうまく使っています。そして,「タマはおあずけ」「タマはいじける」のリズムと組み合わせが子ねことタマの関係をよく表していますね。

「セロハンテープ」・・・これは深い詩です。「セロハンテープ」のことを書いているようで,本人も気づかないうちに,自分自身のもやもやをも表しているのです。

「たけのこ」・・・「ぷっくり」がいい。「たけのこがたん生した」でなく「たけのこたん生」がいい。「ひよっこたち」がいい。「まわりの草をおいぬいて」「みんなのせもおいぬいて」のリズムがいい。「竹になるよ」の「なるよ」がいい!

「おばあちゃん」・・・子どもは,見ていないようで,見ているのです。何も思ってないようで,いろいろ思っているのです。

「お母さん」・・・母を見つめる,やさしくて申し訳ないと思う心の目です。

「おばあちゃん」・・・家族を「家族」として心にいだけているKさんです。

「けむし」・・・「元気よく」だけで終わらず,「きもちよく」と表すところに心が表れています。「ありがとうをきくのがたのしい」と「ありがとう」を特別に使っているところが詩になります。

「文ぼう具」・・・「すてられる」が4回最初に出てきているから,その後の「みーんな出てくる」の「みーんな」に重みが生まれるのです。「出てくるんだろう」「しなきゃいけない」もいいですね。

「カエル」・・・「ヘン」「うまいぞ」に味があり,後の言葉にやさしさを与えています。

「ぶた」・・・(だから,もっとかっこよくなってくれよ)そんな気持ちが伝わってきませんか?

「お母さん」・・・現実の描写が続き,最後にイメージの世界に導いています。うまい!

「お父さん」・・・お父さんに向かって言えることをようやく1つ見つけたのです。

「牛」・・・最初の2行のすばらしさ。そして,最後の2行のなんとも言えないユーモアとペーソス!

「ねこ」・・・「キラリとかがやかせながら」のうまい表現があるから,次の「ねこのけいさつはいく」がより味わい深くなっています。


 この詩集のコメントは当時全て和文タイプで打っていました。
 このクラスが卒業して中学に行った時,中学校の担任になられた先生が小中連絡会で,
「生活ノートに書く文章がすごい。みんな長くよく書く。」
としきりに感心して下さったのを覚えています。 


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