道徳
「フィンガーボール」・・・

 ここでは、いくつかの道徳の指導案を紹介していこうと思うのですが、その前にちょっと聞いてください。

 道徳の教材として使われるお話の一つに「フィンガーボール」というのがあります。
 フィンガーボールというのは、私はまだ実際に見たことはないのですが、食事中に汚れた指を洗う水を入れたボールのことだそうです。その話の筋は、

「ある国の女王が他の国から来た使者をもてなす会を大勢で開きました。その使者は、フィンガーボールの役割を知らずに、その水を食事の途中に飲んでしまいました。それを見た女王は、自分もフィンガーボールの水を飲みました。」

というようなものです。
 客に恥をかかさないようにという、女王の思いやりについて考えていく教材です。

 ずいぶん昔にこの教材で授業をしていた時のことです。

「さて、なぜ女王様はフィンガーボールの水を飲んだのでしょうね。」

と発問した時、子どもたちからは、

「女王様ものどが渇いていたから。」!!
「一度飲んでみたかったから。」
「真似をしてみたかったから。」
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 ずっこけてしまったのを今でも覚えています。

 また、違う教材で、バス停での女の子と母親のお話があります。その話の筋は、

「女の子とお母さんがバス停でバスを待っていました。他にも乗客がいて、並んで待っていました。しばらくして、バスが来ました。バスが止まると、女の子はさっと人を押し分けて入ろうとしました。そのとき、お母さんは、女の子の肩にさっと手をかけました。」

というようなものです。
 母親は、社会常識を教えようとしています。そして、社会のルールを考える教材です。

 これもずいぶん昔にこの教材で授業をしていた時のことです。

「さて、なぜお母さんは、女の子の肩に手をかけたのでしょうね。」

と発問した時、子どもたちからは、

「違うバスだったから。」!!
「女の子が転んではいけないから。」
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 これは冗談でなく、子どもたちは、本気で答えているのです。この頃から道徳の授業に対する考えが変わったのを覚えています。
 それまで、「道徳」というのは、
「教材文を読んだ時点で、子どもたちは何を教師が言おうとしているのか気づき」
「最初から分かっている答えを1時間かけて考えさせていかなければならないもの」
と思っていました。
 例えば、
ゴミが落ちていれば、拾うべき。
困っている人がいたら助けるべき。
順番は守るべき。
思いやりを持つことが大切。
等々、当たり前のことをです。

 しかし、このずっこけてしまった2つの出来事の反省から、
「まず、教材文に書かれている内容をはっきり把握させる」
ということにそれまで以上に気をつかうようになりました。
 まるで読み取りの勉強のようになりますが、まずは、はっきり場面の様子をイメージさせなければなりません。一人ひとりに確実に教材に表れている状況を把握させます。
 その意味でも、教材文をいくつかに区切って提示していくことや、途中で、主人公たちの次の行動について予想したり、自分だったらどうするか考えさせるようなことをより重視していきました。

 とは言うものの、実際の授業は、なかなかすっきりいきません。四苦八苦しながらの苦しい授業が続いています。
 そんな発問集を紹介していきます。

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