新採日記

(その2)

 家庭訪問が始まる前の日曜日に,都合のつく子何人かに全員の家の案内を自転車でしてもらいました。その途中,道路で止まって何か子どもたちと話していた時に,通りがかりのおばあさんから声をかけられました。その時話されたのは,
「あなたは学校の先生か。最近は子どもたちの言葉遣いが荒れてきているが,今子どもたちのあなたに対する話し方を聞いていると,丁寧な言い方をしている。私はそういう言葉遣いをさせることがいいと思う。」
といったような内容でした。

 確かに学級では子どもたちの話し方が気になり,言い直しをさせたりはしていましたが,それがこのような所で評価されたことにびっくりしました。それからはより言葉遣い等を意識するようになったのを覚えています。そこから生まれたのが,例えば「名取裕子」キャンペーンでした。(言葉の最後に「な」を付けずに,「な」を取って言う子になろう,という意味)

 学校でもいろいろな失敗をしていましたが,家庭訪問でもいくつか思い出したくないような失敗もあります。ある家では玄関にお母さんがおられるのに,挨拶をしてさっさと自分から先に勝手に部屋の中に入っていったり,話の途中に「先生,これ何と読むんですかね。」と「順風満帆」という字を見せられて,間違った読み方をして,「そうですよねえ,でもそれじゃあ違うんですよ。おかしいなあ。」と家の人と一緒に頭を捻ったりしていました。学校では個人懇談の時,あるお母さんと話し始めてどうしても名前が分からずに,途中どうやって聞こうか冷や汗を流したこともありました。

 春には各学年で遠足をしますが,300名の移動ですから気を使います。ある時は信号も遮断機も無い踏切を渡っていて,急に電車が近づいてきたことがありました。後で考えると,そこはカーブになっていて電車の接近が分かりにくかったのです。丁度私が踏み切りの所にいて,前の子を抱きかかえ,渡り始めていた子には走るよう指示し,難を逃れたことがありました。電車は目の前でいったん止まり,無事と分かるとまた動き出しました。その電車は貨物列車で,ずいぶん長かったのを覚えています。教師になって1年目のあの時が,今までで一番緊張した場面だったと思います。
 これ以外でも遠足で私はとても恥ずかしい失敗をしてしまいます。