新採日記

(その5)

 転勤が決まった時,春休み中に保護者の方々が夜教室を借りて,私を呼んで食事会を開いて下さいました。その時あるお母さんが,
「先生は子どもの手を持って習字を教えて下さった。」
と,涙を浮かべて話してくださり,こちらがびっくりしたことがあります。

 手を取って筆づかいを教えるのは習字では当たり前のことでしょう。ただ,毎回ステップごとに全員の手を持ってポイントになる筆の運び方の指導をしていたので,子どもも家に帰ってそんな話をしていたのかもしれません。

 教師になって改めて気付いたことは,「字を見られる」ということともう一つありました。「歌を人前で歌わなければならない」ということです。音楽の指導は専科の先生がおられましたが,教室でも朝や帰る前に歌うのが当たり前のようでした。これにも苦労しました。小さな子どもと大人の男ではいくら43対1でも,変に低い声が目立つのです。かと言って子どもが立って歌っている間,黙って子どもと向き合って立っているのも辛いものがありました。

 そこで,やはりいつまでも逃げていてはいけないと意を決し,学生時代にかじったギターを持って行って,休憩時間に自分から子どもたちを誘って,アニメの主題歌などを歌うことにしました。これも例によって,前夜に練習です。久し振りに弾くと指の先が風呂の中でふやけていました。

 しかし,調子に乗ると恐いもので,夜の学級PTAの懇親会にもギターを持って行き,40人以上のお母さん方ばかりの中で「弾き語り」までしてしまいました。曲は忘れもしない,加山雄三の「君といつまでも」(!)。途中のセリフのところで,「幸せだなあ,ボクは子どもといる時が一番幸せなんだ・・・」とやって受けたのを覚えています。

 この学校では各学級ごとに,年に一度近くの公民館を借りてPTAの懇親会を行い,それ以外に学年全体でもPTAの役員さんと会を行っていました。また毎月「月例会」と言われる参観日がありました。親子行事も各学級で年に2回,学年全体で1回持っていました。
 これらの学校行事とは別に,私自身が学級の保護者に呼びかけて「お茶の会」というのも持っていました。普段の学校や家での子どもの様子や気になることを気軽に井戸端会議のように話しましょうという主旨でした。家の近い保護者の方が何人かで相談されて,場所は家でも学校でもいいから,いつでも教師を呼んで下さいと伝えていました。
 
 また,ある年に家庭訪問(家庭進出と言っていました)を毎日のようにした子がいました。