
(その9)
| 「新採の時に聞いた一言が今でも影響している」ことは(その8)の父親の言葉以外にもあります。 私は習字の時間,半紙に書いた子どもの字に,ある時から朱墨でぐるぐると蚊取り線香のような丸をするようになりました。初めは一つずつ二重三重に丸をしていたのですが,他の学級の先生がきれいにぐるぐると螺旋の丸を書かれているのを見て,なるほど習字の丸はああいうふうにするのかと思ったからです。それからはどうにか勢いよく,形よく,ぐるぐるときれいな線香丸が書けるように努力していました。 ところがある日,先輩の先生が人と話をされていて, 「続けて書く丸は丸ではない。」 という言葉が聞こえてきたことがあります。 確かに蚊取り線香の形は丸く見えていても「丸」ではありません。 「丸」は一つずつ端と端がひっついて丸になる。 一つひとつの完結した「丸」をつけるところに意味がある。と自分で勝手に理解し,それからはぐるぐる丸をやめて最初に書いていた普通の丸を書くようになり,これが今でも日記やテスト等全てのものへの「丸」の基本になっています。 丸の仕方にはいろいろなタイプがあります。この線香丸以外にも隣り合ったいくつかの答えに対して丸がバネのように一筆書きのように伸びていくのも見たことがあります。アルファベットのLの小文字を筆記体で続けていく感じと言えば分かるでしょうか。100点の100の書き方にもいろんなタイプがあります。 本当に小さなことですが,私は新採の時にあの先輩の先生の一言が聞けて良かったなと思っています。 丸一つにも思想が表れるものです。 |