今日も大丈夫……
扉を開けると響き渡るピアノの音。めずらしい曲を弾いているもんだ。
『月光』
ただし、オレの記憶ではこんなに早く力強い曲ではないはずなんだが……
確認するまでもなく、鍵は開いているはずだから、躊躇いなく部屋の扉を開ける。
「ただいま」
ピアノの音が止む。
「先輩、おかえりなさいデス」
奏者は、いつもの笑顔で俺を出迎え、再びピアノに戻る。
そして再び部屋に音が響く。
シャワーを浴び、冷蔵庫からミネラルウォーターを出し一気に飲み干す。
ふとダイニングテーブルの上にある物体が目に入り、動きを止める。
「だんご?」
テーブルの上にあったのは、ピラミッドのように積みあがった『団子』であった。
団子、月光……月見団子!?
「あ、先輩、お茶入れますよ!月見団子、食べましょう」
オレが団子を見ているのに気付き、のだめが走り寄ってくる。
「日本は中秋の名月か」
たまにはこんなのも悪くはない。
お茶(なぜ紅茶なんだ?)が揃ったので、向かい合って椅子に座る。
「おまえの『月光』の解釈ってさ、月見団子な訳?」
問われたピアノ奏者、のだめは口の中の団子を飲み込み、こう答えた。
『月でウサギが餅月大会を開いてるんです。最初は名人がお手本を見せてるんで安心してみていられるでんすが、
だんだん素人になるんです。だから、みんな心配で心配で……』
オイ、どーゆー解釈だ。
「のだめ、ウサギが餅つきってのは、日本だけだぞ?ベートーヴェンは絶対に知らないぞ」
「はう!そーなんですか!」
頼むよ、おまえ幾つだよ。
でも、そんな解釈だから、途中から飛ぶは跳ねるは……
オレは立ち上がって本棚から楽譜を出し、ピアノに座る。
「はう〜先輩が弾くんですか?」
のだめは嬉しそうに言う。
「おまえ、よく譜面なしに弾けるよな」
のだめの音に関する記憶力はずば抜けて良い。時に羨ましくもある。
軽く息を吸い、鍵盤を叩く。
曲は無論『月光』
「千秋先輩、黒い羽がみえますぅ」
ソファーでクッションを膝に抱えたのだめが、そう言ったように聞こえた。
第一楽章を弾き終わりソファーを見ると、のだめは寝息をたてていた。
「おい、こら」
泊まらせてなるものかと起こしにかかる。
「んんー、だって先輩が子守歌を〜 んにゃぁ〜」
起きない。
時計を見ると日付が変わっていた。
仕方がないと起こすのは諦め毛布をかける。
ベッドに運んであげるべきかもしれないが、そんなことをしたら、どうなることやら。
のだめが猫のように丸まって寝ていたのでソファーが半分空いていた。
うっかり座り、いつの間にか俺も眠っていた。
「真一くん、一緒に寝たいなら、ベッドにしましょう」
朝、目が覚めるとのだめがそう言った。
「今日は帰れよ?」
「はい。デス。」
のだめが悲しそうにうつむく。
そんな姿を見せながら、きっと、今夜も家に来るんだろ?
お前はオレの彼女なんだから。
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むむ、まだ恋人未満デス。
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