尿管結石入院-2

第7章 3000発の衝撃
 
「う”っ・・・」
と、声を上げたものの、実は痛くありませんでした。

1秒に1回。背中を輪ゴムで「ピシッ!」「ピシッ!」っとはじいた様な感じです。
「痛い?」
「痛くありません。こんな感じで続けるんですか?」これなら楽勝である。
「いやいや、まだ10段階の2だから。これじゃ割れないよ。これから段々強くなるよ」
「・・・・・・・・」



「じゃあパワー上げるよ」
「ピシッ!」が「ビシッ!」に代わって、背中表面だけでなく、衝撃がお腹の中にも響いてきます。

「ハイ4だよ」「ハイ5に上げるよ」
衝撃が、段々と尿管結石特有の痛さに近づいていきます。

「うぉっ!」
「痛い?」
「いや大丈夫です。ツボに入ったようです」
刺激は感じますが、痛いと言うほどではありません。

「先生 まだ終わんないですか? もう割れたんじゃないですか?」
「いやいやまだまだ。3000発くらい撃つからね」
「・・・・・・・・」



ふと点滴を見上げると、麻酔薬の入ったバックが空になってます。
これからが本番だと言うのに、何という事でしょう。
いらん物を見てしまったので、モウロウとしていた意識がすっかり覚めてしまいました。

とにかく自分の意識を、お腹からそらそうと努力します。
部屋の中には先生が気を利かしてFMを流してくれているので、必死になって音を追います。

衝撃レベルは8に上がりました。
これ以上に上げると、本当に痛くなるぞと思っていたところ、
「割れてきたよ」と、先生の声。

途中でレントゲンで確認しているようです。
「これ以上は上げないで行くからね」
「助かります・・・」



長い長い3000発が終わりました。

「じゃあ、ゆっくりベッドから降りて」
麻酔の影響で足がもつれます。
「気分悪い?」
「いや、気持ちいいです」
ボーっとして、雲の上にいるようです。

帰りは、N看護師さんが迎えに来てくれました。
歩けないので車椅子で部屋に戻ります。
「その前にトイレ寄って下さい」点滴タップリで腎臓フル回転。タンクは満タンです。

N看護師さんにビーカーを渡され 「これに尿を採って見せて下さい」
どうやら出血と石の確認をするようです。

しかし・・・なかなか放水が始まらない。

タンクは満タンなのに、ボーっとしているためか、それとも割れた石が出口をふさいでいるのか。
しばらく頑張っていると、Nさんが心配してやってきました。
「大丈夫ですか?」「大丈夫」「手伝いますか?」「大丈夫ぅー」




麻酔のせいで、立ち上がると倒れる人もいるそうです。

初回の尿はかなり出血すると聞かされたのですが、レベルが8までだったためか、ほとんど異常なし。
これからは毎回、自分の名前を書いた袋に溜めなくてはなりません。

午後3時。ベッドに戻って寝込んでいると、Nさんが遅い昼飯を持ってきました。
ボーっとしているので食欲はありません。
「一応、置いといて下さい」

メニューはカレーのようです。
暖めてくれたようで、いい香りがします。

一口食べると「美味い!」 なぜかビーフと、チキンが混ざってます。
「一応」と言った割には、ボケボケの頭のままで、ほとんどを食べてしまいました。
食べた後はまたベッドでボーと動けません。

ようやく落ち着いた午後6時。今度は晩飯の時間です。
メニューは焼き鮭と、ヤングコーンのバター炒め。
野菜サラダとホウレン草。

不思議なお盆で、左半分が暖かく、右半分は冷たくなってます。
そのため鮭もご飯も温かく、サラダは冷たく美味しいです。


量は少ないですが味は抜群。
これまたペロリと食べ、あとは寝るだけ。

朝まで点滴が続くので、腕のチューブが邪魔ですが、今夜はぐっすり眠れそうです。


第8章 一夜明け
 
今日は朝一でレントゲンを撮り、うまく割れてれば無事退院の予定です。
前の病院から足掛け2週間。入院生活も今日で終わりです。

最後のご飯は温泉卵、サラダ。
袋入りの昆布の佃煮が付いてます。


「味噌汁が美味い!」
ダシがしっかり効いてます。
海辺の民宿の朝ごはんのようです。

「退院はお昼になりますが、お昼ご飯はどうしますか?」
実は、昨日入院した時に聞かれたのですが、期待していなかったので、お昼を断ってしまったのをチョット後悔します。

「お昼も見ていけば良かった・・・」



8時になると先生の回診です。
「どう?」「先生、砂が出ました」

石は粉々に割れたようで、砂のような結晶が出てきます。
レントゲンを見た先生も「ベリー グッドー」と満足そう。

「全部出るまでしばらくかかるから、帰りに売店で『カルクキャッチ』買って帰って」
「カルクキャッチぃ?」


カルクキャッチとは折りたたみ式のコップ。
底に網が貼ってあり、これで石を取ります。

「軽くキャッチ」なんでしょうが、安直なネーミングです。

携帯に便利との事ですが、使った後にたたんでポケットに入れるのは
ちょっと抵抗があります。



お昼になると会計も終わって退院です。
ここでの支払いは 100,000円。(3割負担で)
この病院はクレジットカードが使えるので助かります。

今回の入院騒ぎでかかった費用は約20万円。
これだけあれば夫婦でハワイに行けました。
何と言っても健康が一番ですね。

さて、せっかく買ったカルクキャッチは非常用としてかばんに入れ、自宅では100円ショップで買った「茶こし」を使うことにしましょう。

第9章 茶こしで砂金探し
 
退院してからは、茶漉しと「カルクキャッチ」で石を探す作業が始まりました。

自宅では茶漉しの使用も可能ですが、仕事で外に出ることが多く、まさかお客さんの家で、
「トイレ貸してください」と茶漉しを使うわけにはいきません。

外出先で、何度か砂のような石を逃してしまうことも度々ありました。
それでも 100円均一で買ったタッパの中には小さな小さな石が3つ。
これが砂金だとしてもたいした金額にはならない量です。

「あとは融けたのかなあ」
と思って安心していたのですが・・・。



退院4週間後、再検診でレントゲンを撮ってびっくり。

「まだ残ってるねえ」
「どのくらいですか?」
「残っていると言うか、あんまり前と変わんないねえ」
「・・・・・」

なんと石は頑固にも、一部を流しただけでしっかりと元の位置に踏ん張っています。
ただし若干欠けたおかげで、腎臓の腫れはおさまっています。

「しばらく様子見て考えましょう」
腎臓の腫れがおさまったので、ドクターは呑気な事を言ってます。
しかしこの位置にあると言うことは、また近いうちになんかの拍子で動き出し、 猛烈な痛みが襲ってくることは確実です。

「先生。残してるとまずいんですが・・・」 
一番気になるのは 『航空身体検査』
石が残ったままでは検査不合格で飛ぶことが出来ません。

1人で飛んでいる時に 痛みに襲われたら墜落してしまいます。
不合格は当然です。



「それじゃあ出しますか?」
「先生、また衝撃波破砕ですか」

また面倒な入院で破砕かと聞いたのですが、先生の口から出た言葉は、
「内視鏡です」 「尿道から内視鏡入れて破壊するか、つまみ出します」

想像してみました。
ベッドに寝て手足を押さえつけられ、尿道から管を突っ込まれる図。

「いいいい 痛いんですか?」
「いや 麻酔かけますから」

さあ大変。あと4週間。自力で排石できなかったら恐ろしい内視鏡です。
   

第10章 また入院?


そして運命の4週間後・・・・

「こりゃダメだねえ」
レントゲンを見た先生はつぶやきます。

何と言うこと。目の前のレントゲン写真には、クッキリハッキリ石が写ってます。

「じゃんぷらんさん。まだ石が残っていますね。
 破砕しても取れなかったんじゃ、あとは内視鏡しかありませんね」

「ななな 内視鏡?」

またまた想像しました。
○○○から管を突っ込まれる図。

昔、漫画で見た少年院の新入り歓迎儀式。
みんなで新入りの体を押さえつけ、トゲトゲのあるバラの枝を○○○に突っ込まれます。
「ぎょぇーーーーーー」



目の前が真っ暗になりました。

「せっ先生。どうしても内視鏡ですか?」
「いや~ どうしてもって訳じゃあ・・」
「じゃあ もう一回破砕してください」

勢いに圧倒されたか、先生はしぶしぶ破砕をすることに承知してくれました。
破砕術も、衝撃波を打ちやすい位置や、打ちにくい位置があるようで、どうやら私の場合後者になるようです。
最近体脂肪が増えたのも原因かもしれません。

衝撃波破砕の成功率は95%だそうで、5%の方に自分が入るとは思ってもみませんでした。

「実はねえ、じゃんぷらんさん・・・・・」
先生が入院書類や手術承諾書を用意しながら、話しかけてきました。
なにかチョット言いにくそうです。



嫌な予感がします。この病気は治らないんでしょうか。それとももっと悪い病気が見つかったのでしょうか。
そういえば最近、物忘れが激しくなり、老眼にもなり、オシッコの切れも悪くなってます。

「お話ししたい事があるんで、奥さんを呼んでください」
と言われたらどうしよう。そうなったら最後だと覚悟します。

「実はねえ」
「ハ、ハイ (ゴクッ!)」



「実はねえ、この破砕術、2回目は安くなるんですよ」
「・・・・・・・・・」

「保険でそう決まっていて、2回目は病院もお金をあんまり取れないんですよ。
 ですから病院としては儲からないんだよね」
「・・・・・・・・・」

たしか1回目は、手術代と入院費で10万円程度。3割負担でこの金額なので、病院には30万円以上入ったはず。
これが2回目で半額になれば、15万円の損。
なるほど、自営業の私としては先生の気持ちも良く分かります。

そんな訳で、衝撃波破砕をもう一度やることになりました。
前回は80%のパワーで割りましたが、おそらく今度は100%に上げるはず。

「ぎょぇ~~~~」

痛そうで涙が出ます。

でもまあ、もう一度、可愛い看護師のNさんに会えるかも。
そう考えながら再入院の予約をして、その日は病院を後にしました。

第11章 もう一度衝撃波破砕



「じゃんぷらんさんですね。お部屋にご案内します」。
と、ナースステーションから出てきたのは、嬉しいことにあのNさん。相変らず可愛いです。

「テレビはこちらでカードを買ってください。トイレはこの奥にあり・・・・・」
2度目の破砕を受けるために入院する事になり、3ヶ月ぶりに前回と同じ病棟にやって来た訳ですが、
真面目なNさんは、前回と同じようにテレビの使い方や非常口を説明してくれます。
私のことを忘れているのでしょうか。

2度目の破砕なので気分は楽です。
10時に入院し、11時から点滴開始。 
12時にはNさんが迎えに来ます。



破砕室に入ると 「いらっしゃ~い」とドクターのお迎え。
2回目なので勝手は分かってます。さっさと着替えてベッドの上に。

「じゃんぷらんさんねえ・・・肝臓良くないねえ」
ドクターはCTの写真を見ながら言います。前も同じこと言われたような気がします。
これからの手術より肝臓のほうがもっと深刻なんでしょう。

しかし私としては目の前の破砕のほうがもっと心配。
「先生、石はどうですか?」

直前に撮ったレントゲンを見ながら先生はつぶやきます。
「育ってるねえ」

なんと、ここ数週間で石は大きくなっているようです。
せっかく前回ヒビを入れたのに、「石の素」が腎臓から流れてきて、尿管にへばり付いたまま、
更に大きくなったとの事。



とにかく今回は気合で割ってもらいます。

「では始めますよ」 「お願いしま~す」
さあ、始まりました。

「ビシッ! バシッ!」
例によって初めは軽めに衝撃を与えていきます。

「ハイ3段階ね」「ビシッ! バシッ!」 
段々パワーが上がりますが8段階までは経験済み。

「もっと上げるよ」「ビシッ! バシッ!」
「ウ”ッ!」

今回も割れなければ、また格安で入院させることになり病院は大損です。
ドクターも今回は特に気合が入ります。



レントゲンを見ながらパワーを調整しているようです。
「割れてきたよ~」 「今度は大丈夫、ほら見てごらん」
とドクターは言うのですが、目が悪いためにレントゲンの画面が見えません。

今回も約1時間。3000発以上の衝撃でした。
前回は意識モウロウだったのですが、今回は麻酔の追加を遠慮したので、意識はハッキリです。

Nさんが車椅子を持って迎えに来てくれました。

病室のベッドに戻ったら早速昼食。
既に時計は14時ですが、カレーを暖め直して持ってきてくれました。

「じゃんぷらんさん 前回もカレーでしたね」
おお~。なんとNさんは私の事を覚えていたようです。



今回もペロリとたいらげ、とりあえず横になったとたんに爆睡。
目が覚めたらもう夕食。

夕食は鮭のバター焼き。味は抜群ですが、なんとも少なくて辛いです。
ほとんど寝ていたのでこれで足りましたが、完全ならこの後脱走してラーメン食べに行っていたかも。



翌朝。朝食は温泉卵と大根サラダ。
小さな袋に入った昆布の佃煮が付いています。
味噌汁は具がありませんが、出汁が利いていて美味い!

さて、朝食後レントゲンを撮りに行きます。写真を見ると石は確かに砕けているようです。
ただ、長いこと眠っていた左の腎臓は目覚めが遅いのか尿が流れず。なかなか排出には至りません。

まあ、とにかくこれで一旦は退院し、排石を待つしかありません。
Nさんともこれでお別れです。

石は出るのでしょうか・・・・
 

第12章 シュウ酸カルシュウム


 
「キターーーーー!」
と、叫んだのは2回目の破砕から1週間後の夜。

下腹部と背中に猛烈な痛み。
例によって○○を蹴り上げられたような痛みが走りました。

「石が動いてる!」
破砕によって砕かれた石が、尿管の中を膀胱に向かって動き始めたのでしょう。
痛いのは嫌ですが、動いていると言うことは出口に近づいている訳で、文句は言えません。

実はこの日の午前中、石を出そうと水を大量に飲んで、縄跳びを行いました。
これが利いたのかもしれません。

とにかく痛いのを我慢し、石を一気に膀胱まで落とすために、部屋の中でジャンプします。
下腹部を押さえてジャンプする姿は、まるで○○を蹴られて跳ねている様にも見えます。



翌朝、痛みと疲れでボーッとして起きると、なにやら膀胱に違和感。

「膀胱の内側が痛痒い!」

表現の仕様がありませんが、膀胱内が痛痒く、くすぐったいです。
おそらく石は膀胱内に落ち、体を動かすたびにツンツンと膀胱内を突付くのでしょう。

とりあえず関門は通過しましたが、これからが最後の関門「尿道」です。
前回も尿道通過時には激痛が走り、しばらく体が固まってしまいました。

まあ、ここまで来たからには怖がってはいられません。
朝一番で満タンになった尿で、一気に排出を試みます。もちろん茶コシを用意して。



初めチョロチョロ中パッパ。 後半は体を揺すりなから出したのですが、出てくるの小さな粒ばかり。
メインの石は確認できません。
レントゲンで見ても、丸型ではなく楕円だったので向きが合わなかったら出てきません。

このまま出なくなって飼っていると、また膀胱内で大きく育ってしまいます。
そうなったら恐ろしい内視鏡かメスが待ってます。

しかし膀胱が空になってしまったら手の出しようもなく、この日は仕事の打合せがあるので、
出かけるとこになりました、例の「カルクキャッチ」持参で。



さて、その日の昼頃、打合せ先での事。

トイレを借りて「カルクキャッチ」を使っていたら・・・・・
「????????」

妙な抵抗とともに、いきなり茶色い塊が飛び出して来ました。
予想されていた激痛も無く意外にスムーズに。

「出たー!」

仕事先の会社で大騒ぎ。
「見せろ見せろ」と社員が寄って来てます。



そんな訳で早速机の上で計測。
メインの石は5ミリ程度。小さな石や拾えなかった粒を足せば、どうやらレントゲンに写った石は、
完全に出たと判断しても良いでしょう。

数日後、病院にこの石を持って行き、成分を分析してもらいました。
結果は 「シュウ酸カルシュウム」

なにやら良く分かりませんが、ブラックコーヒーやホウレン草に原因があったみたいです。

今回、石は出てくれましたが、食生活を変えないとまた出来るとの事。
おまけについでに見てくれた肝臓もイエローカード。

入院記はこれで終わるか?
それとも続編を書くことになってしまうのか?