2011年7月8日 吉田口
天候 晴れ 気温 10度 (登頂時) 風 無風~5ノット
登り 6時間50分
下り 2時間50分
![](img/P11605721.jpg)
5合目までの途中で、綺麗な夕焼けに遭遇
最初は土日で行こうかと思っていたのですが、仕事中ネットで天気予報見たら、 土曜の午後は崩れるとか。
こうなったら金曜の夜中に登って、土曜日の昼には降りるしかありません。
そんな訳で、急いで準備して、富士に向かう事になりました。
![](img/tenki-11-71.jpg)
1日遅れると、西から低気圧が接近
今回の作戦
1. 今すぐ出れば、混みあう吉田口でも駐車場は空いてると考え 、今回は「吉田口」と決定。
迷った「富士宮口」は 雪のため8合目以上は一応通行止め。
勝手行っても良いのですが、トイレが無い。
2. 最近の運動不足、睡眠不足で、体力はヘロヘロ。
以前の吉田口は 5時間半で登ったのですが、ペースを落とし 、7時間で登る予定。
3. 夜8時に駐車場に入れ、高度順応のため0時まで仮眠。
1時にスタート、8時に登頂、体力次第でお鉢を回って 、10時下山開始、13時駐車場に戻る。
4. スタート時点で雨なら、登らずに帰る。
登頂後のお鉢めぐりも、下の天気を見て帰るかどうか決める。
5. 服装は、上が速乾Tシャツに、ゴアテのカッパ 。 下は、速乾の登山ズボン。
防寒具らしいものは無いのですが、この組み合わせがベスト。
予定通り、20時前に5合目駐車場入り。 まだまだ駐車場も、半分以上空いています。
ここで、しばらく仮眠。 1日遅れの七夕は、天の川がはっきり見えます。
「ZZZZZ・・・・・」
0時に起きるつもりでしたが、気がついたら1時前。 耳栓してたので、目覚ましに気がつきませんでした。
あわてて準備するものの、なにかが足りない・・・・
「しまった・・・杖が無い」 なんと、下り道で力になってくれる杖を忘れました。
「会社で急いで支度して、棚の上においてきた・・・・・」
仕方ありません。 帰りの体力温存も考えて、ペースを落として登りましょう。
さあ、1時15分 スタートです。
9回目の富士登山で、吉田口から登るのは4回目ですが7年ぶり。
以前の記録では 登り5時間半、下り2時になってますが、歳取った今は無理。
以前は垂れ流しトイレやゴミの山で問題が多かったルートですが、 ここ数年で、かなり改善されたと聞いています。
ここ吉田口は、スターして30分くらいは、車道(一般車禁)を歩きます。
スタートの標高は2305mなのですが、しばらく下り坂で損をします。
体慣らしで、意識的にダラダラ歩くつもりが、そのダラダラでもゼイゼイ息が上がります。
「寝てなかったからな・・・運動もしてないし」
このところの忙しさで、半徹夜も数回、一歩も会社の外に出なかった日もあり、 体は鈍り放題。
先月5キロ減少した体も、ストレス食いで2キロリバウンド。
重い体は、想像以上に足に負担をかけ、ちょっとの運動で大汗かきます。
「なんで来ちゃったんだろう・・家でビール飲んでDVDでも見てれば良かった」
「帰るなら今だ」
「仮眠中に仕事の電話もあったし、仕事のせいにしちゃえば大丈夫」
「ここで帰ったら、今後一生富士山には来れないぞ!」
「気合入れるために来たんだろ!」
「あれだけ天気調べて来たのは、なんの為だ!」
毎回毎回こんな葛藤がありますが、いつもは7合目付近の葛藤なのに 、今回は6合目で来たようです(笑)
![](img/P1160579111.jpg)
安全センターで情報収集
重い体で6合目の「安全センター」についたのは40分後。 6合目と言っても、1/5を登った訳ではありません。
ここの標高は2390m。 たった85m登っただけ。 1/17です、この分だと頂上まで10時間のペースです。
6合目から7合目は、ジグザグのガレキ道を歩きます。
昔は、ズルズルすべる道でしたが、少し改良されたのか、歩きやすくなってます。
振り返ると、地上の夜景がきれいに見えます。 さっきまで見えていた天の川は、雲に隠れたようです。
ガレキの道が終わると、いきなり岩場が立ちはだかります。
ヘッドライトで岩場を照らし、急な場所は4つんばいで登っていきます。
この岩場は雨が降ると良く滑るので、雨なら戻ろうと決めていた訳です。
岩場で高度を稼ぎながら登っていくと、7合目の山小屋に到着。
ここまで2時間。このスローペースで登れば、高山病にはならないでしょう。
ここから8合目までは、岩場を登りながらの山小屋エリア。高度の目安にもなるし、ベンチで休憩もできます。
時間は午前4時を過ぎてます。
そろそろ空が明るくなって来るのですが、東の地平線は雲に覆われ、 ご来光は拝めそうにありません。
4時50分に8合目の山小屋「太子館」に到着(3100m) このあたりから酸素が薄く、息が苦しくなってきます。
深呼吸を繰り返し、携帯酸素を吸うことにしましょう。
振り返ると、太陽は見えませんが、すっかり日が昇り雲海が明るくなっています。
![](img/P11605841.jpg)
「頭が痛い・・・」
まだ、3000mを少し超えた程度なのに、高山病か? 頭が締め付けられるように痛く、ちょっと痒い?
頭を押さえて、気がつきました。
「ヘッドランプ 付けっぱなしだ・・・」
岩場を登るときに締めなおした、ヘッドランプのゴムバンドが 頭を締め付けてました。
計画停電でも活躍したLEDライト。 電池交換してないのに、長持ちしてます。
時計は6時すぎ。 スタートから5時間もかかって高度はまだ 3250m やっと3分の2です。
下界を見ると、地表を雲が覆い怪しげな天気。天気予報どおりなら、帰りの時間の雨が心配です。
携帯で、麓にある自衛隊滝ヶ原基地の、航空気象情報を見てみます。
![](img/P116059611.jpg)
航空気象情報では麓は小雨と霧
![](img/P11605911.jpg)
あららら~ べったり霧の中で視程は200m。雨も降ってます。
しかし頂上は晴れ、帰りの心配はしないように、とにかく上を目指します。
3350mで 「須走り口」との合流地点に到着。
ここは、下山のルートとも一部交差しているので、 湘南海岸の、海の家のように混み合っています。
昨年最後に「須走り口」から登った時は、ここから高山病になり 頂上まで2時間かかってしまいました。
しかし、今回は不思議と気分爽快。
「来なきゃ良かった・・・帰ろうか・・」の葛藤は、すでに6合目に置いてきました。
8号目のバイオトイレで爆弾も投下しました。
身も心も、いたって軽くなってます。 このままのんびり登ったら、普通のハイキングじゃないか。
上を見上げると9合5勺の鳥居と、頂上の白い鳥居が小さく見えます。 あとは無心で登るだけ。
ここが富士山の良い所。 1歩でも足を進めれば、必ず頂上はやってきます。
仕事のように、いつの間にか頂上が遠くなったり、道を間違ったり、 邪魔が入ることもありません。
ここでひとつ決心しました。
「苦労して登ってこその富士山」
「よし前回の2時間を、1時間半に縮めるぞ!」
「さあ、ここからスパートだ!」
「ドドーン」
「雷か?」 下界の雲の中から、雷鳴が轟きます。
「ドドーン!」「バスバスバス!」
この雷には不思議と規則性があるようで、最初のド-ンから数秒後に
バスバスバスと聞こえます。
「ん? もしかしてこれは?」
そうです。おそらく最初のドーンは大砲の発射音。 次のバスバスバスは 弾着音。
富士の麓には陸上自衛隊の基地があり、夏には火力演習と言って、一般見学者の前で実弾を撃つ演習があります。
(見学希望が多く、チケット当選は狭き門)
その練習でもしてるのか、規則的に「ドーン」が聞こえます。
![](img/P11606031.jpg)
9合5勺の鳥居をくぐって振り返ると、下界はすばらしい雲海です。
「登って来たなあ~」 と感じる瞬間です。
上を見ると頂上の鳥居はすぐそこ、短いジグザグの道をたった10往復。
1往復が、せいぜい50歩くらいか。
「1往復して1回休んで深呼吸、それを10回やるだけだ」
しか-し。そんなに甘くはありません。
ガレキや岩の道。ジグザグの片道をノンストップで行くのすら辛く、
1往復で3回くらい立ち止まります。
後ろから速い人が来ると「ぜー ぜー どうぞー ぜー ぜー」と道をゆずり、
前の人に追いつくと 「ぜー ぜー お先いー ぜー ぜー」と追い越します。
とにかく考えるのは
「大丈夫! 頂上は逃げない! 1歩前へ!」
そして最後のカーブを曲がると・・・・・
![](img/P11606071.jpg)
ついに鳥居と狛犬が目の前に
最後のストレートは、止まらず一気に歩きます。
「ぴゃー! 着いたー!」
![](img/P11606091.jpg)
所要時間は 6時間50分。
須走りの合流点から、目標の1時間半でたどり着きました。
天気も良く、勢いに任せて1日速く来た甲斐はありました。
今回は最後のペースアップは辛かったものの、計画通り7時間のペースで登ってきたので
高山病にもならず、頂上に着いたときの疲労感は、今までよりはるかに薄く感じます。
下界を見ると、雲が上がってくる気配も無く、山頂はしばらく晴れが続きそうです。
「よおーし、 このまま一気にお鉢めぐりだ!」
吉田口頂上の神社でお参りしてから、お鉢めぐりに出かけます。 「右回りか? 左回りにしようか?」
![](img/P11606171.jpg)
火口を通して反対側の「剣が峰」が見えています。
毎年、この時期は雪が残り、お鉢めぐりが出来ない事もあり、 事前の情報では通行禁止とか。
しかし、反対側を良く良く見ると、火口の縁に登山者の歩く姿が。
「よし、行ける」 左回りだと、雪の残った斜面を登らなきゃいけないので、今回は右回りに決定。
今まで上に上にと登って来た足には、水平移動が楽に感じます。
富士宮側の頂上を過ぎると、剣が峰が目の前に迫ります。
この最後の急坂が 通称「馬の背」。
ここを登ったら・・・・
![](img/P11606241.jpg)
![](img/P11606261.jpg)
「またまたやってきたぞ! 3776m!」
と、感動のゴールになったのは最初の頃だけ。
何度も来てると 「とりあえず、証拠写真だけ撮っとこか」 と、今では、あっけないゴールになってしまいます。
しかし、それでもやっぱり日本一。
「日本人の中で一番だ! 2番じゃダメなんだよー!」 と万歳をしてみますが、 万歳の上を見上げると、
ジェットの飛行機雲が・・・・
「上には上がいるんだな、格差社会だな」 とちょっと悔しくなります。
まだまだシーズンに早かったのか、撮影ポイントに行列は長くはありません。
交代でカメラを構えますが、この時間は残念ながら逆光です。
![](img/P11606451.jpg)
心配した雪も、ほんの少し。 この程度なら、滑って火口に落ちることはありません。
火口を1週回って約1時間。 いつの間にかガスって来たので、急いで下山することにします。
今回は杖を忘れたので、あまり無理な走りは出来ません。 大またで、ザックザックと砂を踏んで下山します。
しかし、それにしても、この砂の道、登りよりも辛く感じます。
腿は痛くなるし、ヒザは笑うし、サンダーバードの人形のように、 ガクガクと揺れながら坂道を降りていきます。
いつまで続くのかこの坂道。 「申し訳ありません・・・何でも白状します」
これが拷問だったら、負けてしまって何でも話します。
何を考えながら歩くのか・・・・
いつもなら、頭に音楽が流れ、リズムに乗って下りるのですが、今回頭に浮かんだのは
「イナリ寿司 食いたい」
昨夜の夕食に買っておいた「イナリ寿司」を食べるの忘れ、車の中に置いたままです。
いまごろ、車の中でホカホカになっているでしょう。
「食中毒は大丈夫か」「酢飯だから平気だろう」 頭の中は、イナリ寿司だらけです。
2時間かけて、砂の斜面を下り、6合目で登山道と合流します。
今は土曜のお昼。 これから頂上を目指すツアーの登山者が大勢すれ違います。
このまま8合目あたりまで登って、今日は山小屋泊まりかな。 夕食はカレーかな?
![](img/P11606581.jpg)
2時間50分でゴールに到着。 ここにはまだまだツアー客が準備中です。
「登るぞーーー!」「おおおーーー!」
気合の入った、シュプレヒコールもあがります。
車に帰ったら、パンツ一丁になって、用意していた2Lの水を頭からかぶります。
「ひゃー気持ちいいー」
そうそう、イナリ寿司イナリ寿司。
12時間ぶりに再会したイナリ寿司は、案の定ホカホカですが、食えないことは無いでしょう。
「高速混む前に帰らなきゃ」 時間はまだ13時。この時間ならまだ渋滞は起きません。
イナリ寿司にかぶりつきながら、ハンドル握って自宅に急ぎます。