9回目 2011年7月08日


2011年7月8日 吉田口
天候  晴れ  気温 10度 (登頂時) 風 無風~5ノット 
登り  6時間50分
下り  2時間50分 


5合目までの途中で、綺麗な夕焼けに遭遇



最初は土日で行こうかと思っていたのですが、仕事中ネットで天気予報見たら、 土曜の午後は崩れるとか。
こうなったら金曜の夜中に登って、土曜日の昼には降りるしかありません。

そんな訳で、急いで準備して、富士に向かう事になりました。



1日遅れると、西から低気圧が接近


今回の作戦

1. 今すぐ出れば、混みあう吉田口でも駐車場は空いてると考え 、今回は「吉田口」と決定。    
   迷った「富士宮口」は 雪のため8合目以上は一応通行止め。
   勝手行っても良いのですが、トイレが無い。   

2. 最近の運動不足、睡眠不足で、体力はヘロヘロ。
   以前の吉田口は 5時間半で登ったのですが、ペースを落とし 、7時間で登る予定。

3. 夜8時に駐車場に入れ、高度順応のため0時まで仮眠。
   1時にスタート、8時に登頂、体力次第でお鉢を回って 、10時下山開始、13時駐車場に戻る。

4. スタート時点で雨なら、登らずに帰る。
   登頂後のお鉢めぐりも、下の天気を見て帰るかどうか決める。

5. 服装は、上が速乾Tシャツに、ゴアテのカッパ 。 下は、速乾の登山ズボン。
   防寒具らしいものは無いのですが、この組み合わせがベスト。 


予定通り、20時前に5合目駐車場入り。 まだまだ駐車場も、半分以上空いています。
ここで、しばらく仮眠。 1日遅れの七夕は、天の川がはっきり見えます。


  「ZZZZZ・・・・・」


0時に起きるつもりでしたが、気がついたら1時前。 耳栓してたので、目覚ましに気がつきませんでした。
あわてて準備するものの、なにかが足りない・・・・

「しまった・・・杖が無い」  なんと、下り道で力になってくれる杖を忘れました。
「会社で急いで支度して、棚の上においてきた・・・・・」

仕方ありません。 帰りの体力温存も考えて、ペースを落として登りましょう。

さあ、1時15分 スタートです。




9回目の富士登山で、吉田口から登るのは4回目ですが7年ぶり。

以前の記録では 登り5時間半、下り2時になってますが、歳取った今は無理。
以前は垂れ流しトイレやゴミの山で問題が多かったルートですが、 ここ数年で、かなり改善されたと聞いています。

ここ吉田口は、スターして30分くらいは、車道(一般車禁)を歩きます。
スタートの標高は2305mなのですが、しばらく下り坂で損をします。



体慣らしで、意識的にダラダラ歩くつもりが、そのダラダラでもゼイゼイ息が上がります。
「寝てなかったからな・・・運動もしてないし」

このところの忙しさで、半徹夜も数回、一歩も会社の外に出なかった日もあり、 体は鈍り放題。
先月5キロ減少した体も、ストレス食いで2キロリバウンド。
重い体は、想像以上に足に負担をかけ、ちょっとの運動で大汗かきます。


「なんで来ちゃったんだろう・・家でビール飲んでDVDでも見てれば良かった」
「帰るなら今だ」
「仮眠中に仕事の電話もあったし、仕事のせいにしちゃえば大丈夫」


「ここで帰ったら、今後一生富士山には来れないぞ!」
「気合入れるために来たんだろ!」
「あれだけ天気調べて来たのは、なんの為だ!」


毎回毎回こんな葛藤がありますが、いつもは7合目付近の葛藤なのに 、今回は6合目で来たようです(笑)


安全センターで情報収集

重い体で6合目の「安全センター」についたのは40分後。 6合目と言っても、1/5を登った訳ではありません。
ここの標高は2390m。 たった85m登っただけ。 1/17です、この分だと頂上まで10時間のペースです。

6合目から7合目は、ジグザグのガレキ道を歩きます。
昔は、ズルズルすべる道でしたが、少し改良されたのか、歩きやすくなってます。



振り返ると、地上の夜景がきれいに見えます。 さっきまで見えていた天の川は、雲に隠れたようです。

ガレキの道が終わると、いきなり岩場が立ちはだかります。
ヘッドライトで岩場を照らし、急な場所は4つんばいで登っていきます。
この岩場は雨が降ると良く滑るので、雨なら戻ろうと決めていた訳です。

岩場で高度を稼ぎながら登っていくと、7合目の山小屋に到着。
ここまで2時間。このスローペースで登れば、高山病にはならないでしょう。
ここから8合目までは、岩場を登りながらの山小屋エリア。高度の目安にもなるし、ベンチで休憩もできます。



時間は午前4時を過ぎてます。
そろそろ空が明るくなって来るのですが、東の地平線は雲に覆われ、 ご来光は拝めそうにありません。

4時50分に8合目の山小屋「太子館」に到着(3100m) このあたりから酸素が薄く、息が苦しくなってきます。
深呼吸を繰り返し、携帯酸素を吸うことにしましょう。



振り返ると、太陽は見えませんが、すっかり日が昇り雲海が明るくなっています。



「頭が痛い・・・」
まだ、3000mを少し超えた程度なのに、高山病か? 頭が締め付けられるように痛く、ちょっと痒い?

頭を押さえて、気がつきました。
「ヘッドランプ 付けっぱなしだ・・・」

岩場を登るときに締めなおした、ヘッドランプのゴムバンドが 頭を締め付けてました。
計画停電でも活躍したLEDライト。 電池交換してないのに、長持ちしてます。



時計は6時すぎ。 スタートから5時間もかかって高度はまだ 3250m やっと3分の2です。

下界を見ると、地表を雲が覆い怪しげな天気。天気予報どおりなら、帰りの時間の雨が心配です。
携帯で、麓にある自衛隊滝ヶ原基地の、航空気象情報を見てみます。

航空気象情報では麓は小雨と霧




あららら~ べったり霧の中で視程は200m。雨も降ってます。
しかし頂上は晴れ、帰りの心配はしないように、とにかく上を目指します。



3350mで 「須走り口」との合流地点に到着。
ここは、下山のルートとも一部交差しているので、 湘南海岸の、海の家のように混み合っています。
昨年最後に「須走り口」から登った時は、ここから高山病になり 頂上まで2時間かかってしまいました。

しかし、今回は不思議と気分爽快。

「来なきゃ良かった・・・帰ろうか・・」の葛藤は、すでに6合目に置いてきました。
8号目のバイオトイレで爆弾も投下しました。
身も心も、いたって軽くなってます。 このままのんびり登ったら、普通のハイキングじゃないか。

上を見上げると9合5勺の鳥居と、頂上の白い鳥居が小さく見えます。 あとは無心で登るだけ。

ここが富士山の良い所。 1歩でも足を進めれば、必ず頂上はやってきます。
仕事のように、いつの間にか頂上が遠くなったり、道を間違ったり、 邪魔が入ることもありません。



ここでひとつ決心しました。

 「苦労して登ってこその富士山」
 「よし前回の2時間を、1時間半に縮めるぞ!」
  「さあ、ここからスパートだ!」



 
「ドドーン」

「雷か?」 下界の雲の中から、雷鳴が轟きます。
「ドドーン!」「バスバスバス!」

この雷には不思議と規則性があるようで、最初のド-ンから数秒後に
バスバスバスと聞こえます。
「ん? もしかしてこれは?」

そうです。おそらく最初のドーンは大砲の発射音。 次のバスバスバスは 弾着音。

富士の麓には陸上自衛隊の基地があり、夏には火力演習と言って、一般見学者の前で実弾を撃つ演習があります。
(見学希望が多く、チケット当選は狭き門)

その練習でもしてるのか、規則的に「ドーン」が聞こえます。



9合5勺の鳥居をくぐって振り返ると、下界はすばらしい雲海です。
「登って来たなあ~」 と感じる瞬間です。



上を見ると頂上の鳥居はすぐそこ、短いジグザグの道をたった10往復。
1往復が、せいぜい50歩くらいか。

「1往復して1回休んで深呼吸、それを10回やるだけだ」

しか-し。そんなに甘くはありません。
ガレキや岩の道。ジグザグの片道をノンストップで行くのすら辛く、
1往復で3回くらい立ち止まります。

後ろから速い人が来ると「ぜー ぜー どうぞー ぜー ぜー」と道をゆずり、
前の人に追いつくと 「ぜー ぜー お先いー ぜー ぜー」と追い越します。

とにかく考えるのは
「大丈夫! 頂上は逃げない! 1歩前へ!」



そして最後のカーブを曲がると・・・・・

ついに鳥居と狛犬が目の前に




最後のストレートは、止まらず一気に歩きます。

「ぴゃー! 着いたー!」



所要時間は 6時間50分。
須走りの合流点から、目標の1時間半でたどり着きました。



天気も良く、勢いに任せて1日速く来た甲斐はありました。

今回は最後のペースアップは辛かったものの、計画通り7時間のペースで登ってきたので
高山病にもならず、頂上に着いたときの疲労感は、今までよりはるかに薄く感じます。

下界を見ると、雲が上がってくる気配も無く、山頂はしばらく晴れが続きそうです。

「よおーし、 このまま一気にお鉢めぐりだ!」


吉田口頂上の神社でお参りしてから、お鉢めぐりに出かけます。 「右回りか? 左回りにしようか?」




火口を通して反対側の「剣が峰」が見えています。

毎年、この時期は雪が残り、お鉢めぐりが出来ない事もあり、 事前の情報では通行禁止とか。
しかし、反対側を良く良く見ると、火口の縁に登山者の歩く姿が。

「よし、行ける」 左回りだと、雪の残った斜面を登らなきゃいけないので、今回は右回りに決定。
今まで上に上にと登って来た足には、水平移動が楽に感じます。

富士宮側の頂上を過ぎると、剣が峰が目の前に迫ります。
この最後の急坂が 通称「馬の背」。


ここを登ったら・・・・




「またまたやってきたぞ! 3776m!」

と、感動のゴールになったのは最初の頃だけ。
何度も来てると 「とりあえず、証拠写真だけ撮っとこか」 と、今では、あっけないゴールになってしまいます。

しかし、それでもやっぱり日本一。
「日本人の中で一番だ! 2番じゃダメなんだよー!」 と万歳をしてみますが、 万歳の上を見上げると、
ジェットの飛行機雲が・・・・

「上には上がいるんだな、格差社会だな」 とちょっと悔しくなります。 

まだまだシーズンに早かったのか、撮影ポイントに行列は長くはありません。
交代でカメラを構えますが、この時間は残念ながら逆光です。


心配した雪も、ほんの少し。 この程度なら、滑って火口に落ちることはありません。
火口を1週回って約1時間。 いつの間にかガスって来たので、急いで下山することにします。

今回は杖を忘れたので、あまり無理な走りは出来ません。 大またで、ザックザックと砂を踏んで下山します。



しかし、それにしても、この砂の道、登りよりも辛く感じます。
腿は痛くなるし、ヒザは笑うし、サンダーバードの人形のように、 ガクガクと揺れながら坂道を降りていきます。

いつまで続くのかこの坂道。 「申し訳ありません・・・何でも白状します」
これが拷問だったら、負けてしまって何でも話します。

何を考えながら歩くのか・・・・
いつもなら、頭に音楽が流れ、リズムに乗って下りるのですが、今回頭に浮かんだのは


「イナリ寿司 食いたい」


昨夜の夕食に買っておいた「イナリ寿司」を食べるの忘れ、車の中に置いたままです。
いまごろ、車の中でホカホカになっているでしょう。
「食中毒は大丈夫か」「酢飯だから平気だろう」 頭の中は、イナリ寿司だらけです。



2時間かけて、砂の斜面を下り、6合目で登山道と合流します。
今は土曜のお昼。 これから頂上を目指すツアーの登山者が大勢すれ違います。

このまま8合目あたりまで登って、今日は山小屋泊まりかな。 夕食はカレーかな?




2時間50分でゴールに到着。 ここにはまだまだツアー客が準備中です。

「登るぞーーー!」「おおおーーー!」
気合の入った、シュプレヒコールもあがります。


車に帰ったら、パンツ一丁になって、用意していた2Lの水を頭からかぶります。
「ひゃー気持ちいいー」

そうそう、イナリ寿司イナリ寿司。
12時間ぶりに再会したイナリ寿司は、案の定ホカホカですが、食えないことは無いでしょう。

「高速混む前に帰らなきゃ」 時間はまだ13時。この時間ならまだ渋滞は起きません。
イナリ寿司にかぶりつきながら、ハンドル握って自宅に急ぎます。