8回目 2010年8月28日


2010年8月28日 須走り口
天候  晴れ  気温 12度 (登頂時) 風 無風~5ノット 
登り  8時間 下り  2時間40分 



今年3回目の富士登山。
懲りもせずに、よくまあ行きたくなるものです。

会社には例によって、5分以内で離陸できるように、装備が一式詰まったリュックがあります。
この日は、仕事が終わる直前まで迷ったのですが、 結局登ることになりました。



今回のルートは「須走ルート」
前回の御殿場より短く、前々回の富士宮より、かなり長い登山道です。

富士登山4ルートのうち、人気3番目のこのコース。
しかし、最近のパワースポットブームで、週末の富士山は大混雑。
いろいろ作戦を考え、次のような計画になりました。


1.このルートは8合目で、人気コースの「吉田ルート」と合流する為 、そこからの渋滞は必至。
  特に、ご来光前の1時から5時は、8合目に近づかない事。
  会社が終わって出かけると 5合目到着は夜になります。
  その時間から登れは、渋滞が解消された頃に8合目到着の計画。


.駐車場はすぐに満車になるので、登山口から離れた場所に止めさせられる事になるやも知れず、
  早めに家を出る


.予定行程は登り7時間(0時登山開始-7時頂上) 下り2時間半の予定。


4.おそらく頂上は混んでいるので、お鉢めぐり、剣が峰は断念。


5.夜間登山なので、ヘッドライトのスペアを持参。



気合を入れて 須走り5合目に着いたのは金曜の11時すぎ。予想通り駐車場は満車で、800m下に路上駐車。
(この800mは帰りに堪えました)

車の中で準備を整え、とりあえず道の先の登山口まで歩きます。
この間にも駐車場に入れず、折り返してきた車が、路上駐車の列を伸ばします。

日付が変わって28日午前0時半。
登山道入り口で、時間記録代わりの写真を写して、さあ出発です




路上駐車の場所から登山口まで歩いて登っただけで汗びっしょり。
やっとスタートラインの は標高2,000mに到着。
ここまで、たった15分で息切れもおこしてます。こんなことで頂上までいけるのか?

映画館に「東京島」でも見に行ったほうが良かったのではないか?
半そでのTシャツの上に、裏地がフリースのウインドブレイカーを着てましたが、
汗びっしょりで、上着を脱ぎTシャツ1枚になります。

どうも今回は、体調管理が良くありません。



この「須走ルート」は、5合目からしばらくの間、樹林の中を歩きます。
時間は夜中の1時。たまに前や後ろに人の気配がしますが、真っ暗な樹林は不気味です。

「ヒタヒタヒタ・・・」 後ろから人が近づいてきます。
狭い道なので、早い人に道を譲ろうと、脇によけて振り返ります。

「・・・・・・」 誰もいません・・・・
いつの間にか足早になり、ペースを乱してしまいます。



今回は妙に汗をかくのですが、体は寒い。
お腹も冷えたようで、爆弾投下の指示が脳に伝わります。

どうしても我慢できなくなり、7合目で200円払ってトイレに入ります。
それにしても、昔と違って、富士山のトイレも綺麗になりましたね。

爆弾投下で少し落ち着きましたが、体調はいまひとつ。
今回ばかりは歩くのが辛く、頂上に行けるとは思えません。

「問題は何処であきらめて下山道に入るか・・・・」



今回の登山の目的は、年内4ルート制覇に王手をかけること。
そしてもうひとつ

     「自分に気合を入れること」

どうも最近、仕事が空回りばかり。
自分も回りも、夏休みボケと暑さボケで、気合が抜けてます。

     「苦しんで登頂」

これが、一番の目的。 ここで下山道に回ったら、帰りの車で100%後悔します。
気を取り直して上に向かって歩きます。

           


登りはじめて1時間で6合目  さらに1時間で7合目・・・かと思ったら本6合目(涙)


寒い! とにかく寒い。汗びっしょりなのに、なぜ寒い?
しかたが無いのでフリースを着ます。 しかし余計に汗をかき、これが風で冷えてしまいます。
寒い! しかし今回はそれ以上に「眠い!」



登山道は樹林を抜けて、砂と岩の斜面になりました。
ヘッドライトで、道の脇にあるロープをたどって登るのですが、あまりの眠さに、
歩いていても、首が「カクッ」と前に落ちます。

気が付くとロープが見当たりません。
良く見ると、道にも足跡がありません。

「ここはどこ?」 寝ぼけた頭で必死に考えます。

廻りを見ると、少し離れた場所に、登山者のライトが見えます。
どうやら寝ながら歩いていたので、曲がり角でコースを外れ直進したようです。
「前が崖でなくて良かった・・・・」



時間は4時半。
登山開始から4時間。 高度は1200m登って 3200m。

あと少しで御来光です。
ここらで、休憩し日の出を待ちましょう。

リュックを背負ったまま、岩の上に腰を下ろすと・・・・
「ZZZZZzzzz・・・・」
座ったまま、いきなり爆睡しました。

寝ると呼吸が浅くなって、高山病にかかりそうになるのですが、
睡魔が勝り、仮死状態のように寝てしまったようです。

しばらく幽体離脱のような気分を味わった後、目の前が少しオレンジに明るくなりました。
目を覚ますと、山中湖の奥から登ってくる太陽が、地平線の雲を染めています。
御来光です。


地平線に雲がかかり、その雲を突き破って、「ヨード卵」の黄身のような
オレンジの太陽が昇ってきます。

「おおおおお~」 アチコチで歓声が上がります。

振り返ると、富士の地肌がオレンジに染まり、その上には満月が輝いています。
しばしの間、富士山は神秘的な雰囲気に包まれます。

太陽が昇ると、寒かった体も温まり、30分ほど仮眠したおかげで、頂上まで登れそうな気になってきました。
すぐ横に下山道につながる横道があるのですが、もう戻る気は消えました。
一気に頂上を目指します。



須走ルートは、8合目で大人気コースの吉田口と合流します。

まだ明るくなる前に8合目の山小屋を見上げると、それより上の登山道は、
ヘッドライトの筋が、頂上までつながっていました。

ツアーの団体さんは 7合目から8合目の間にある山小屋に前夜から宿泊し、
御来光を頂上で見るために日の出の3時間ほど前から登りはじめます。

いまや、週末の富士山名物「御来光渋滞」

当然、登山者が頂上に溜まる一方なので、そのうち全く動かなくなり
途中で立ち止まって御来光を眺め、それがまた渋滞を起こします。
そんな訳で、7.5合目で御来光待ちで仮眠して時間調整したのは正解だったようです。



合流点に着いたのは6時半。
仮眠と、再度の爆弾投下で時間を費やし、予定よりかなり遅れました。
(予定では5時半通過)

ココは吉田ルートの下山道とクロスするポイント。
下山道を横切る時、上からは大勢の登山者が束になって下りてきます。

頂上で御来光を見て、これから5合目のバスに戻るのでしょうか、
ガイドさんらしき人が、「この先トイレはありませーん」と叫んでいます。

10時ごろバスに集合し、ふもとの温泉に入って昼食ですね。
ビールが美味しいでしょう。



さて、この時間は下山者のほうが多いのですが、登山道も結構混んでいます。
前の人のペースに合わせ登り、前が避けて止まったら追い越し、速そうな人が後ろから来たら、
脇に避けて譲ります。

上を見上げると9合目の鳥居と、頂上の鳥居が確認できます。
しかし・・・・ココからが本当の富士登山。
看板には他人事だと思って「あと1時間」なんて書いてますが、倍はかかりそうです。

お腹の調子が悪かったので、5本持ってきたペットボトルは、まだ2本目。
汗も相当かいているので、脱水症状が心配。
気も再び襲ってきて、高山病も心配です。

「今日はユックリ登ろう」
しばらく歩くと遠くから太鼓を叩くような音が聞こえてきます。

「バスーン!」「ワスッ!」 何かの爆発音? 音は規則正しく聞こえ、
「バババスススッッッ!」 たまに複数の爆発音が重なって聞こえます。

それで気がつきました。自衛隊の演習です。



ふもとの富士演習場では、「総合火力演習」という、年に1回の一般公開の日があります。

何度か見に行った記憶があるのですが、観客の目の前で戦車が実弾を撃ち、
空挺隊の降下やヘリの戦闘が、プログラムにそって進行します。

防衛大臣やVIPが見に来る「本番」は日曜ですが、今日は予行日のようです。

予行日といっても内容は本番と同じ、一般の観客も各地からバスで多数やってきます。
(一般と言っても自衛隊関係者の招待か、抽選で事前に選ばれた人、倍率は10倍以上)

おそらくこの演習は12時に終わるはず。
終わった瞬間に大勢の観客が一斉に帰るので、御殿場・須走あたりの高速入り口は大混雑になりそうです。

「ならば・・・ こちらは12時前に下山しなくては」
大砲の音にせきたてられて、頂上を目指します。
   

合流点で登山者と下山者が入り乱れ

合流点の山小屋は大混雑


 
大砲にせきたてられて歩き出したものの、また睡魔が襲ってきました。
1分歩いたら立ち止まって、立ったまま30秒目をつぶります。

9合目の鳥居をくぐり、看板を見ると「頂上まであと30分」倍読みで1時間ですね。

ここで睡魔はピークに、倒れるようにヒザが落ち・・・・
「ZZZZZZZzzzzz・・・・・」
これまた仮死状態のように爆睡です。

普通の道端やベンチで、こんなふうに寝ていたら、警察か救急に電話されそうですが
ここでは皆さん全く無視。
アチコチに冷凍マグロのような、仮死状態が転がっています。

幽体離脱して魂だけでも頂上に行こうかと思ったのですが、大砲の音で我に返りました。
少しの仮眠でしたが、さすがに頭はスッキリ、このまま一気に行けそうです。



9合目から予想通り1時間。やっとこさ頂上の鳥居と狛犬の前に来ました。

ここは絶好の撮影ポイント。
カメラ渋滞で先に進めませんが、そこは皆さん苦労を共に歩いてきた連帯感があります。
「早よせい」 と文句を言う人はいません。

順送りに後ろの人にシャッターを押してもらって、鳥居をくぐります。
時間は8時半。 7時間の予定が、8時間もかかりました。

「今日はきつかった・・・・・」 

途中でお菓子を食べる余裕もなく、崩れるように仮眠したのは8回目にして初めての経験。
今回ほど途中で帰ろうと思った富士山も初めてです。



ようやくたどり着いた頂上。しかし12時に車に戻るにはあと3時間半。
剣が峰を見ると、これまた写真撮影渋滞らしく長い列。

天気は快晴。気温も10度以上。
風もなく絶好のお鉢めぐり日和ですが、今年は先月、これ以上の条件で回ったので
当初の予定通り今日は帰ります。

下山は砂走りを通るので、登山靴の紐を縛りなおし、砂避けのスパッツも着けます。 。
さあ、神社にお参りして下山開始です。

               

鳥居の前は大渋滞

頂上の山小屋も満員御礼


 
須走ルートの下山は、8合目まで吉田ルートと共通です。
この時間は、頂上で御来光を見た登山者は大部分先に下りたようですが、
それでも分岐点までは、人の多い下山道となります。

この下山道は砂の道。
今日は天気が良いので砂は乾き、前の人の砂埃を、まともに浴びることになります。

そこで、目はゴーグル風のサングラス・口元はタオル・頭は帽子。
このまま銀行強盗が出来るスタイルに変身してから下山開始です。

ザックザックと、腰を落としてガニマタで歩きます。
ヒザが笑うのが早いか、5合目にたどり着くのが早いかが勝負です。

大勢の下山者を追い越して、8合目の分岐点までわずか30分。
登りはココから2時間もかかったのですが、人生と同じで転落するのは簡単です。



「頂上に財布忘れた!」 と気が付いたとしても、戻る気にはなれません。
ひたすらに砂の道を下り続けます。

前回の御殿場ルートと同じで、どこまで行っても先が見えず、
良くもまあこんな距離を登ってきたなと、自分自身感心します
気の遠くなる砂の道。

今回頭に浮かんだのは・・・・・ なぜか 「ロシア国歌」
毎度まいど、予期せぬ曲が頭に浮かぶので不思議です。



砂の道を下り切ると、道はカーブして「砂払い5合目」の到着。
顔を洗う洗面水も売られています。

顔も体もリュックも、砂だらけで大変なことになっています。
しかし、ここから駐車場までまだ300m近く下ります。

安心してはいけません。
先に進むと、終わったと思った砂の道にまた合流し、せっかく洗った顔もまた砂で汚れます。
本当に砂の道が終わるのは、もう少し下ってから。

砂の道の先は樹林の中を歩きます。
昼間なら良いですが、夜は木の根に脚を取られそうで怖い道です。

周りが見えないので、これまた地獄の底まで下りるのではと思うほど長い道です。
あと○○メートルの看板が欲しいですね。
夜だったら、高度計を持っていかないと、迷ったかもと勘違いしそうです。



長かった下山道も本当に終わりが来ました。
昨夜は閉まっていた神社が、この時間は開いています。

せっかくなので、お賽銭を入れて、登山の無事を感謝します。
ポケットから100円出して、賽銭箱に投げ入れ、2礼2拍しようとしたら
横から来た人に先にお祈りされました。

慌てて頭を下げ、「今の100円は私のです、隣の人のではありません」
と先につぶやき、家内安全・商売繁盛・交通安全・登山感謝と盛りだくさんのお願いをします。



5合目駐車場に着いたのは11時半。予定通り2時間半でした。

そこから路上駐車の車まで800m。
笑ったヒザで坂を下り、ようやく見つけた自分の車。
12時間前に停めた車ですが、長い時間が経過した気分です。


「ババババスススッッッ!!!!!」 自衛隊の大砲の音が響きます。
時計を見るとちょうど12時。

おそらく今の音は、プログラムのラスト「総攻撃」でしょう。
花火大会と同じで、ラストに派手な砲撃をして幕になり、一斉に観客が車に乗って帰り始めます。

急いで帰らないと、富士五湖道路が大渋滞になるでしょう。
慌てて、道端でパンツ一丁になって、4リットル持ってきた水をシャワー代わりに浴びて、
全身の砂を落とします。

渋滞までに時間がありません、急いでエンジンかけてココから退散です。

過激派のようなスタイルで砂を防御


さあ、雲海に向かって下山です