7回目 2010年7月31日



2010年7月31日 御殿場口
天候  晴れ  気温 10度 (登頂時) 風 無風~5ノット 
登り  9時間15分 下り  3時間15分 



「頂上は遥か彼方の御殿場口」


3週間前の富士宮口からの登山に続いて、またまた登ってきました。
今回は、初めてのルート「御殿場口」
基本4ルートの中で、ダントツに長いので、なかなか手を出せなかったルートです。


御殿場の5合目は「5合目」と言いながら実は2合目程度。
標高は1,400m程度。

標高差は前回の富士宮1,300mに比べ、1,000mも低い2,300m。
どう考えても9時間はかかりそう。

しかしそれゆえに、この登山シーズンの週末でも、ルートは閑古鳥。
交通規制も駐車場の規制も無関係です。



そんなわけで、7月31日  土曜の早朝に行って来ました。

予定では自宅で仮眠した後、午前0時に起床。
急いで御殿場に向かい、3時から登山の予定。

しかし・・・・



目が覚めて、一瞬いやな予感。
時計を見ると 午前1時! 目覚ましが鳴ってません!

あわてて荷物を持って、車に飛び乗ったのですが、これが大失敗。
よっぽど慌てていたようで、とんでもないものを忘れてました。

そんなことには気づかないまま、車は御殿場の登山口に到着。
前回の富士宮は、嫌になるくらいの山道を走ったのですが、御殿場口はあっという間。
その分自分の足で登らなくてはなりません。

天気は曇り、駐車場にも薄い霧がかかってます。
周りに誰もいないので、パンツ1丁で着替えます。

上はTシャツ、下は前回重宝した登山ズボン。
ズボンをはいて、ベルトを締めようとして、ハッとしました。

「ベルトが無い・・・」



登山口まで履いていったズボンのベルトを使うつもりだったのでが、
寝坊したためにベルト無しのズボンで来てしまった・・・・

「どうしよう・・・」

困ったのですが、仕方がありません。
車のトランクには、ビニール紐があったはず。

格好を気にしてはおられません。
ビニール紐でズボンを縛って、気を取り直してさあ出発です。

 



「先が見えない砂の道」


スタートは午前5時。
予定では3時にスタートの予定だったのですが、寝坊しておまけにズボンのベルト作り。

さらにもうひとつ、携帯電話が行方不明。
車の中で荷物をひっくり返して、お菓子の袋の底で発見するまで、またまた時間ロス。
今回はどうもスタートからつまづきます。

そんなこんなで、すっかりご来光も終わった5時。
遠お~くの頂上を目指して歩き始めます。




歩き始めて15分で、お茶屋に到着。ココからが本格的なスタート。


今回のプランは

① 7合目あたりの下山道分岐点まで5時間。
  そこから頂上まで4時間。合計9時間の計画。

② 7合目までの5時間は、トイレが無いので注意。

③ 低空からの出発で、高山病の心配は薄いので、最初からピッチを上げる。

④ お鉢巡りは、下山の体力温存の為にパス。

⑤ ペットボトルは5本。途中のカロリー補給も充分に行う。

⑥ 天気が悪くなったら迷わず途中下山。

⑦ ふもとの天気予報は夕方から雷雨。
  19時までに下山できるよう、15時までに頂上に行けなければ下山。

今回は大砂走りでの下山予定なので、砂避けのスパッツと、ゴーグルも持参。
あまりにも道が長いので、ラジオも携帯。




ザックザックと砂の道をひたすら歩きます。
最初のうちは傾斜が少ないので、散歩のように歩けますが、高度計の数値は、全然上がりません。

ラジオではニュースと天気予報。
今日は夕方から雷雨の可能性があり、山でのレジャーは注意しましょう
なんて、怖い事を言ってます。




それにしても、どこまで行っても砂の道。
「このまま一生歩き続けるのか? 」と考えるくらい単調で辛い道です。

他の登山口は適当に山小屋があり、ペース配分が楽なのですが周りには何もありません。
週末の富士山だというのに、歩いている人もまばらです。




歩き始めて30分で汗ビッショリ。
二日酔いのように気分が悪く、歩く気がしない。
最近飲んでばっかりで、休肝日を作っていなかった為か、体力がガタ落ちです。

「帰るなら今かな・・・」

顔を上げると、頂上は雲の上。
振り返ると、駐車場に止めた自分の車が近くに見えてます。

「帰って、レンタルビデオ借りて、ビールでも飲むか」
と、脚が止まりかけたのですが、

「せっかくガソリン使ってココまで来たんだから、元を取るまで歩くか」
と、例によって貧乏根性で歩き続けます。




当座の目標は、遠お~くに見える白い建物。
あれがおそらく6合目。標高差1,100Mです。



「やっと 2,000m トイレはまだか」


歩き始めて1時間20分。 何も無いと思っていた道端に、「標高2,000m」の看板。
他の登山口なら、まだ車で登れる高さです。

ここまで 560mを登った訳ですが、まだまだ6合目にすら半分残し。
実質、2合目から登ってるから、遠くて当たり前です。

このあたりから傾斜が急になります。

登山口で見た看板には、頂上まで10.5キロと書いてました。
不動産広告なら 2時間15分の距離なんですが・・・・




「うお~~~~!」 突然遠くから人が叫ぶ声。
ふと声の方を見ると、そこには飛ぶように坂を走って下る一団が。

そう、これが御殿場名物 下山道の 「大砂走り」
柔らかい砂の坂が数キロも続き、1歩で3m飛べるそうです。

「よし、帰りは飛ぶぞお」
気合を入れなおして登ります。




それにしても 2,000mの看板を超えてから、白い小屋はなかなか近づきません。
仕事でも、試験勉強でも、途中の目標が無いのは辛いです。
高度計を5分おきに確認しながら、ザックザックと歩きます。

疲れてくると、耳のラジオもうるさくなりました。
例によって、頭に中で勝手に音楽が流れます。

前回は「おたまじゃくしは蛙の子」だったのですが、今回は オペラ「カルメン」

やっと6合目の小屋(閉鎖中)に着いたのは、歩き始めて3時間50分後。
しかし4時間も歩いて、やっと前回登った富士宮のスタートラインと同じとは




「トイレはどこですか?」
不意に、女性の登山者に聞かれました。

「トイレは・・・あそこに見える7合目までありませんよ」
「・・・・・・・・」


そうなんです。標高差1,500mの間、トイレの無いルートなんです。
あと400m、登らなきゃなりません。

男性ならその辺で適当に出来るし、今日の様に霧が出ていれば、
なおさら問題無しなんですが、女性には向かないルートのようです。






「やっとトイレがあった」


女性登山者に、「トイレはもっと上の7合目ですよ」
と答えながら、自分の下半身も忙しくなってきました。

あたりは霧。前も後ろも人はいません。

「この辺でやっても大丈夫だな」
登山道から少し離れ、風向きを考えて発射準備OK・・・・

と、突然霧が薄くなり、振り返ると後から登ってくるグループがすぐ近くに見えます。
機関銃発射は中止です。




トイレに行きたいので気合の入った足取りで、400mを1時間で登り
ようやく営業中の山小屋に到着。

早速トイレを拝借。バイオトイレは使用料200円です。

昔は、富士山のトイレは谷底に垂れ流し。
便器の下には谷が見え、風のある日は下から逆風が突き上げて来ました。

しかし、富士山も世界遺産を目指してキレイになっており、トイレも建築現場の仮設トイレより
はるかにキレイです。

せっかく200円払ったのだからと、機関銃発射だけでなく爆弾も投下。
かなり身軽になりました。




5時間休憩なしで歩いて来ましたが、爆弾を投下するためにリュックをおろして、しばし休憩。

高度は3,000m。
高山病に備え、酸素を準備。 スニッカーズで栄養補給。ペットボトルも交換。
次は8合目、一気に上ります。




爆弾を落として身軽になったおかげか、スニッカーズのおかげか、足は軽く、高山病の気配もありません。

グングン高度を稼ぎ、あっという間に7合5勺。
山小屋にはなぜか迷彩服の自衛官が。

そうです。
明日は「富士登山駅伝」 御殿場の麓から、走って登る駅伝です。
この山を走って登るんです。人間業ではありません。

迷彩服の自衛官はサポート隊。
腕には赤十字の腕章があるので、衛生隊でしょうか。

なぜか駅伝の準備に刺激されて、早足で8合目を目指します。

雲が切れて頂上が、でも遠い・・・・・




「ようやく頂上へ」


爆弾投下で体は軽くなり、おまけに富士登山駅伝の準備に刺激され
足取りも軽く8合目に到着。

昔はここにも山小屋があったようですが、今残っているのは石の壁と、朽ち果てた柱と梁らしきもの。
当然ココにもトイレはありません。

登山口より7時間半が経過。
高度は3,400m、あと約300m。

ココからは高山病との戦いなので、ペースは激減ですが、
なんとか予定の9時間で登りきれるかもしれません。




先ほどまで霧の中でしたが、空は快晴。
赤茶けた山の地肌と青い空が、他の惑星のように不気味にです。

5本持ってきたペットボトルも4本目。
このあたりから酸素も吸うように心がけます。

出発して既に8時間。
疲労感はありますが、低域からゆっくり登ってきたので、高山病の気配はありません。

頂上が近づいてきたら、頭の中の音楽が「カルメン」から、映画「バルジ大作戦」の
中で歌われた、ドイツ戦車隊の歌が流れます。




音楽にあわせて脚を動かし・・・・・・たいのですが、リズムは2拍子で1歩になります。

溶岩石に脚を取られ、転ばないように下ばかり見ていた頭を上げると・・・・
そこには白い鳥居が。

 

 



そして鳥居をくぐったら 「やった! 頂上だ!」
9時間15分もかかって、ようやくたどり着きました。

これで富士山の基本4ルートを、全て登ったことになります。


それにしても御殿場ルートの頂上の貧相なこと。
売店もなく、石碑が1本立ってるだけ。

もともと「お鉢めぐり」をするつもりは無かったのですが、せっかくなので富士宮側に移動し、
神社にお参りすることにしましょう。

   

            

 「何処まで続く砂の道」


御殿場口の頂上から、隣の富士宮口頂上に移動して驚きました。
まるで海水浴シーズンの、海の家のような賑わい。

石碑や鳥居の前は、写真撮影の順番待ちが出来ています。
先を見ると、剣が峰への坂道も登山者で大渋滞。

時間は既に14時半。
最初に決めた下山開始のリミットは15時。

剣が峰は諦めて、神社にお参りして急いで下山することにしましょう。




御殿場の下山道は7合目まで登山道と同じ。
おそらく隣の富士宮口は、登山者と下山者が、狭い道でお見合いしているかも知れませんが、
御殿場口は、渋滞と無縁です。

瓦礫の坂道を、大またで走るように降りて行きます。
3週間前のような、筋肉痛もありません。




9合目から下は霧の中。
登ってくる人には頂上が見えません。

「%&#△  なんとか かんとか?」
すれ違った外人さんに、英語で何か聞かれました。

おそらく頂上までどのくらい? と聞いているのでしょう。
「ツー アワー ね」

「TWO HOUR?」
外人さんは頂上が近いと思っていたのでしょうか。

良く見ると、軍人さんのようで、体力がありそうです。

「ユーの マッスルはグレートだから メイビー ワン アワーで OK ね」
と、安心させてあげました。




頂上から2時間程度下りた所で、御殿場名物の「大砂走り」
1歩で3m、飛ぶように走って下ります。

前に人がいると、砂埃が激しいのですが、今日は前後に誰も居ず、おまけに霧で砂が濡れ、砂埃は立ちません。
快適なのですが、まるでルームランナーで強制的に走らされているようで、これはこれで疲れます。

霧で先が見えないので、このまま何処まで走るのか、見当がつきません。
どんどん下って、「このまま地獄に続くんじゃないのか・・・・」。




頭の中の音楽は 「ジョニーが凱旋する時」 になりました。
下り坂でブレーキかける気力も無く、リズムに乗って一気に下り3時間15分で、駐車場に到着。

朝の5時にココを出て約13時間。
人間はたった13時間で、ココまでボロボロになるのかと思うほど、とんでもない姿で帰り着きました。




思ったとおり過酷だった御殿場ルート。
次は何処から登ろうか? また御殿場も、それはそれで楽しいかも。