| 股関節形成不全 (CHD−Hip Dysplasia) |
CHDの説明
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[病因]
出生時の股関節はどの犬においても正常ですから、CHDは先天性疾患ではありません!しかしCHDの因子を持つ犬は、成長過程での股関節の形成が行われず、関節の緩み・亜脱臼・骨の二次的な変形・関節軟骨の損傷・関節の炎症等が生じます。
この疾患のの病因は遺伝と考えられていますが、複数の遺伝子が関与し、複雑な遺伝様式を持っているために、単純な遺伝の法則では説明しきれません。また、骨盤の筋肉量が多い犬はその発症が少なく、それゆえに骨盤の筋肉量の多いグレーハウンドやボルゾイ等の犬種では、この疾患の発生はとても少ないようです。一方で、セントバーナード・ゴールデンレトリーバー・ジャーマンシェパードのような犬種では、発生頻度が高いです。また、この疾患は大型犬だけのものではなく、コーギー・コッカースパニエル・シーズー・キャバリア等の、小中型犬にも発症します。しかし体重が少ないので、臨床症状が表れることが少ないようです。性別による発生率の違いはほとんどありません。
[症状]
CHDの症状は、その種類も程度も様々です。一般的には、腰を振って歩く・後肢の歩様が不安定・歩幅の減少・歩行を嫌がる・うさぎ跳びのように走る・びっこを引く・起き上がる時に痛みを訴える・股関節を動かす時に捻髪音が生じる等です。著しい歩行異常や歩行困難という症状はまれです。
これらの症状は一般的に、生後4ヶ月以上の犬に生じ、1歳未満の犬では股関節の緩みや亜脱臼が原因となり、成犬では2次的な関節による変形性関節疾患(DJD)が原因となるようです。若い時期に症状を表しても、その後成長して関節が周囲の筋肉に支えられて、それなりに安定してしまうと症状は和らいだりなくなったりしてしまうこともあります。
また、CHDであっても必ずしも臨床症状を示すとは限りません。X線検査等によって明らかにCHDが認められても、何の症状も出さず正常な歩行をする犬も多く、ドックショー等で良い成績を収めてしまう犬もいます。また、異常の程度と臨床症状は必ずしも一致せず、軽度のCHDでも明確な症状を出す場合もあれば、重度のCHDでもその症状は軽い時もあります。
[診断]
臨床症状や触診によって、CHDであることをおおよそ診断することが可能な場合もありますが、症状を示さない犬もいますし、他の原因によって後肢のびっこや疼痛が生じることもありますから、正確な診断はX線検査によってのみ可能です。一般的な撮影法は、「伸展法」と言われるもので、犬を仰向けにして両方の後肢が平行になるようなポジショニングと、熟練した読影技術が必要です。伸展法のほかにも、仰向けにして両肢をカエル足のように開脚させて撮影する「ペンヒップ法」(米国で用いられている、PennHipという股関節の評価システムは、この撮影法を用い、股関節の緩みをDI数値で表す)と、呼ばれる撮影法もあります。正確な診断のために、鎮静剤・全身麻酔の使用が勧められています。診断は生後4ヶ月ごろから可能ですが、この疾患は進行性のものであるために、若い時期に正常と診断されても、その後で発症することもあります。CHDではないという診断は、2歳以上になってほぼ確定できるのです。
[治療]
CHDの犬の多くは臨床症状を示さない、あるいは一時的な症状しか示さないことが多いので、CHDの犬の多くは特別な治療をしなくても、日常生活に支障はありません。症状を示す犬には以下のような治療法があります。
A 保存・内科的療法
体重コントロール・運動制限 体重をコントロールすることによって、股関節への負担を軽くすることと、痛みやびっこなどの症状を示さない範囲内に運動を制限すること(痛みを感じない範囲での軽度の運動を定期的に行うことは、筋肉を弱くしてしまわないために必要です)は、わずかな症状を示すだけの犬に効果が大きく、これだけで、他の治療を必要としない場合も多いです。
鎮痛剤・抗炎症剤 体重コントロールと運動制限と併用して用いられます。アスピリンやフェニルブタゾン等の内服薬が一般的です。獣医師の処方によって用います。また、コンドロイチンやグルコサミンなどの、関節を保護する作用をもつ天然成分のサプリメントも有効であると言われており、これらは副作用がほとんどないために安全で長期間投与できます。
B 外科的療法
症状が重篤な場合は、内科的療法ではコントロールできないこともありますし、内科的療法の効果がだんだんと低下してくることもあります。そのような場合には、外科的な治療法が考慮されます。いくつかの術式がありますが、現在のところ、以下の2点の手術が主に用いられ、良い結果が得られています。外科手術を必要とする犬は、CHDの犬全体の中のわずかな割合です。また、手術にはかなり費用もかかりますし、長期の入院も必要となります。そして熟練した技術や人材(スタッフ)・相応しい手術設備が必要とされています。手術を行うかどうかは、CHDに詳しい獣医師によく相談し慎重に決定してください。
三重骨盤切術法(TPO) この手術は主に生後12ヶ月までの犬に対して行われるもので、骨盤の3ヶ所の骨を切って、寛骨臼(股関節のソケットの部分)を回転させて、大腿骨頭(ボールの部分)に覆いかぶせるようにプレートで固定します。手術次期は5〜12ヶ月齢が最適とされ、亜脱臼のみが認められるが、正常の構造の股関節を持ち、寛骨臼の深さが充分であり、2次的な変形性関節疾患が存在しないと言うことなどが、適応の条件とされています。
股関節全置換術法(トータルヒップ) 主に成犬において、重度の二次性の変形性関節疾患を持つ犬に対して、股関節を人口のものに置き換えてしまう手術で、生涯にわたり疼痛をなくし、運動機能を正常に保つことが出来ます。この手術は、術後の感染症を絶対に避けなければならないため、ほぼ無菌状態にできる手術室で、熟練したスタッフにおいてできるだけ短時間に行われなくてはなりません。術者は十分な練習と経験が必要とされています。この手術が行える病院は、大学病院・著名な専門医など、一部のところに限られています。
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ケリーのCHD発症
1999年9月、まだ夏の名残のある暑い午前中、突然発症したお話です。
私がいつもの日常と全く変わりなく、ソフィアとケリーを散歩させました。ケリーは生後8ヶ月近くになり、ようやく外での散歩もOKになった直後でした。私は仕事の用意でお店にでてきてすぐに、私の妻からあわてた報告を受けたのです。「ケリーが・・・立てない・・・」妻が心配と驚きでそう言った瞬間、私の脳裏には、とてつもない不安と予感がよぎりました。「まさかっ・・・HD・・!?」急いでケリーの元へ行き、ケリーの状態を見た瞬間、先ほどの私の嫌な予感が的中しました。ケリーは腹ばいになったまま一生懸命起きようとしています。ですが後肢が両方とも震えたままで、まったく力がはいらない様子。そして後肢は踏ん張れずにいるために、全く起き上がれないのです。かろうじて前肢だけが立ち、まるで腕立てをしているような格好でした。「すぐに医者だ」私は例のR動物病院のT院長先生に電話をいれました。そして私はどうしても仕事が抜けられないので、代わりに妻がケリーを車で連れて行きました。もちろん先ほどの状態が続いているので、車までは私が抱っこしたまま運びました。約2時間後病院の妻から電話連絡がありました。「・・・股関節形成不全らしいよ。その症状がでたらしいよ・・・」電話口で聞いた私は、とてもショックをうけたのです。とりあえず従業員に数時間の間お店を任せて、私も病院に行くことに決めました。その間私に考えられたのは、ケリーの出身ブリーダーである○氏に連絡し、股関節形成不全について聞いてみようと言うそれだけでした。電話連絡をいれてから病院に先に向かいました。到着後急いで診察室にはいると、相変わらずケリーは寝そべったままだったのです。かなりの疼痛と脱力感がケリーにはあったのでしょう。元気はあまりなかったことを記憶しています。T院長先生からX線の画像を元に、詳しい診断内容を聞きました。まずケリーは両足とも完全に形成不全です。寛骨臼に両足とも大腿骨頭が収まっていません。素人の私達が見てもすぐに理解できました。次によく観察・診察した結果、この日の症状は後肢でも右足にかなりの影響がおもてにでていました。ですがX線の画像では、左足のほうが寛骨臼への大腿骨頭の収まりが悪く見えました。なのになぜ右足が悪い?原因は、そもそも左足の不自由さを補おうとして、右足に負担がかかりすぎ、負担のかかった右足が非常に悪くなったようです。ですが基本的には、両足とも状態は良くなかったのです。とりあえずT院長先生は、軽い鎮痛剤をケリーに打ちました。これで疼痛からは解放されます。ケリーは少し落ち着きました。その間さらに詳しく話しを聞きました。ケリーの両足の大腿骨頭の収まりが悪いだけではなく、もうひとつ障害が見られました。それは大腿骨頭の頭の部分自体が、大腿骨の中央の骨と、ほぼまっすぐに形成されていることでした。普通は大腿骨は、骨盤の辺りでくの字に曲がります。曲がった頭が寛骨臼内に収まります。それは人間も一緒です。ところがケリーはその大腿骨頭のくの字の曲がり自体が浅いのです。これでは寛骨臼が正常なソケット状態でも、大腿骨が収まるはずが無いです。このあたりも大きく影響していました。上記にも述べましたが、変形性関節疾患の典型的な例です。私達は頭を抱えました・・・。「どうしたらよいものか・・・」T院長先生の話では、このままにしておくと、寛骨臼内の関節胞もかなりの負担がかかっていて、その胞が破けてしまったらそれでこそ一大事とも言いました。その直後です。○氏・オーナーが来院したのです。「今回は大変なことになって申し訳ない・・・」。謝りの言葉を聞きました。そして次に「うちでは今まで、股関節の異常の子は出したことないのだけどな〜・・・」とも。そこまでの話、私は半分うわのそらで聞いてました。心と頭はケリーのことを考えていたからです。そんな言葉はどうでもよいことでした。ところが!この次に発せられた言葉に、私は怒り爆発したのです!「とりあえず帰りにうちに寄ってよ。お茶でもして話しましょう。ゆっくりと。・・・・なんなら今、とっても良い子犬いるよ。・・・取り替えても・・」・・・・・「取り替えるーーー!!!」仮にもゴールデンを長年ブリードしてきた人間の言うことでしょうか!?、ケリーが発症してパニックになっている私達に対して、最初の言葉がこれだったんです!「ケリーは物じゃねえーー!」私は診察室で怒鳴りました。T院長先生も黙っていました。「先生、とりあえずケリーを連れて帰ります。のちほどご連絡させて頂きます。詳しくはその時に・・・」とにかく私達はその場にいる事が一番嫌だったからです。○氏の前に居る事が。病院を出る前にT院長先生から何点か注意を促されました。今は鎮痛剤が効いているので、帰宅したのちケリーは痛みが無いので、走ったり遊んだりしてしまいます。これだけは絶対にやめさせて静かにさせておいてくださいとのことでした。ただ産まれてきただけのケリー。その宿命を知らずにいるケリー。無邪気なケリーを抱いたまま、私達は病院をあとにしました・・・。
そもそもなぜ○氏を病院によんだのか!?私は○氏に賠償とか保証とか、そんなくだらないことを伝えたくてよんだのではないです!長年ゴールデンをブリードしてきた、仮にもプロなんです。ですからHDが発症してしまった今、ケリーにとってこれからの生活と人生、何がこれから一番適しているのか、それだけを聞きたかったのです。当時、私は山崎佳代氏の主催するゴールデンのクラブに属していました。山崎氏の伝えようとしているゴールデンの実状と知識と情熱に、本当に感動しました。そしてゴールデンの現在の国内の「本当の真実」を知っていたのです。ですから○氏が述べた、「うちで始めての異常・・・」そんな話は最初から信じていませんでした。起きてしまったことは仕方ない。だから過去ではなく未来について聞きたかったのに、○氏は「商売上」の都合を優先したのです。
これで○氏との関係は全て終わりました。他人からみたら「もっと抗議すれば?」と思われるかもしれませんが、私達からしてみれば、抗議以前に人間として信用も信頼もなくなりましたし、その相手と話どころか顔もあわせたくないからなのです。
ケリーはこの日から私達が注意していたので、さほど疼痛や違和感を訴えることは少なくなりました。そして、これは私達の「大きなミス」なのですが、ゴールデンを介して仲良くなった友人達と、キャンプに出かけてしまったのです。そのキャンプ場で注意していたにもかかわらず、ケリーのHDがまた牙をむきだしたのです!約半日ノーリードにしたため、帰宅前からケリーの様子に変化が表れました。そして帰宅後・次の日・・・状態は悪化をたどるのです・・・・。
仕事が休日の日、私達はR病院を訪れ、T院長先生と心ゆくまで充分に話をしました。その結果このままではやはり、ケリーは悪くなるばかりなので、一度HD専門医に診せることを勧められたのです。そしてケリーには負担にはなりますが、全身麻酔をかけて、より正確なX線撮影をしました。T院長先生は快くその病院を紹介してくれました。そしてその病院にも電話連絡をいれてくれたのです。その病院は横浜磯子区にある、外科的分野とHDの手術では、間違いなく国内第一人者のN動物センターでした。このN院長先生は上記にも書いた股関節全置換術法・トータルヒップの第一人者であり、実際にその手術症例数も国内では膨大な数にのぼっているひとです。後日そのN動物センターに向かうことに決めました。T院長先生に私はX線の画像の相談をしました。なぜならば、これ以上ケリーに麻酔などの負担をかけたくなかったからです。T院長先生はこれも快く応じてくれました。そして嬉しいことに「私の微力な画像でよければ、このX線画像をいつでも持ち出してください。必要な時に何度もいつでも渡しますから言ってくださいね」と。本当に感謝しています。のちにソフィアの大手術といい、ほんとうにT院長先生には、感謝以外の言葉がみつかりません。そしてこのX線画像を持って、私たちは横浜にむかったのです。
横浜のN動物センターには、午後の診療一番乗りで到着しました。場所が場所だけに私の家からは2時間以上かかりました。用は無く車でお留守番なのですが、ソフィアも連れて行きました。病院に到着して受付を済ませました。まだ来院している患者さんの犬は、うち以外にはいませんでした。とにかく一番乗りしたかったのです。受付後診察室に呼ばれました。診察室にはいって最初に現れたのは、若い獣医師の先生数名でした。その雰囲気だけで「ここは普通の病院ではない」と感じていた私達は、とても緊張したのをおぼえています。ところがその先生は誰もみんな、とても気さくで丁寧で礼儀正しい人達ばかりだったのは、とても印象に残っています。そしてN院長先生が現れました。N院長先生は動物救命のTVでその様子を放映されていたり、著書に書かれている話からしても、とても怖く恐れ多い先生なのかと、私達は最初から思い覚悟していました。ところが・・・「遠くから大変だったね。ご苦労さん。この子かい?こんなに可愛い姿なのに可愛そうにな〜・・」と。なんとN院長先生自身は、私達患者側にとっては、本当に神様みたいに接してくれる先生だったのです!そして私はT院長先生のX線画像を渡しました。「どれどれ・・・」このあと数十分、N院長先生は画像を前に、若い先生方にしきりに説明していました。そして私達にも細かく説明してくれたのです。ケリーの場合は、やはり大腿骨頭がめずらしい変形で、それにともないHDが発症しているとのことでした。「表に出てくれる?」N院長先生は自ら、ケリーを連れて病院の外に出てケリーを歩かせました。そしていろんな角度からじっくりとケリーの歩行を確認したのです。また診察室に戻り、再び説明が始まりました。「この子の場合、いますぐ手術という局面は、なんとか回避できるよ」私達は、一番恐れ心配していた手術を、とりあえずは回避できることを知りとっても安堵したのです。「とりあえず、もう少し体重を落とそう」・「次に食事管理と運動管理を徹底しよう」とおっしゃりました。その時私から・・「先生、ここでのX線撮影はしなくてもよいのですか?」するとN院長先生は、「このX線撮影画像はとても素晴らしい。きちんとした角度と体制から撮れてるから、この画像だけで充分だよ。とても上手い先生に診てもらっているんだね。良かったね。それに、これ以上この子に余分な負担はかけるのはよくないよ」そうおっしゃいました。私達はこのN院長先生とT院長先生二人に、この時本当に感謝し嬉しい思いをしたのです。「とりあえず、今日は今後の生活について指導しますから。それと疼痛があるので専用の鎮痛薬を処方しておきますよ。そうそうっ!関節の状況から診て、レーザー治療して帰ったほうがいいですよ」最後にN院長先生はおっしゃりました。この病院にくるまで、私達はどんなに不安と恐れを抱いていたでしょう!?それがN院長先生の診断と全体のお言葉で、半分以上救われた気持ちでした。N院長先生はさすがにご多忙らしく、このあとこの病院のナンバー2の先生と代わりました。そしてこの先生に治療室に案内してもらって、その治療室に足を踏み入れた時、私達はもの凄く驚きました。「すげぇ〜〜・・・・」その治療室は、部屋の外側周りにガラス張りの手術室が3部屋、そして中央の部屋は最新医療機器がギッシリ。横の部屋にはCTやMRIの部屋。そしてさらに置くに入院する動物達の部屋。・・・・・とにかく設備に圧倒されました。そして私達の診察の時にいた先生方のさらに倍ちかい人数の若い先生達が待機していました。そしてここでケリーのレザー治療が始まったのです。ナンバー2の先生が、丁寧にケリーの両後ろ肢にレーザーを照射してくれました。この先生の話では、このレザー機器は実に○千万円(億に近いらしい)するらしく、中々通常の病院では導入できないらしいです。でも即効性の鎮痛と消炎作用のあるレーザーですから、特にHDの子への治療には身体の負担が少なくとても良い機器だとおっしゃっていました。確かに途中で先生が「ケリーちゃん、寝ちゃいますよ^^」と言ったとおり、ケリーは治療中に気持ちよいのか寝てしまいました。この治療を1時間ほどしていた時です。N院長先生がにこやかに話しかけてきました。「もし時間があるなら、これからラブラドールのトータルヒップの手術があるから見ていく?」と言われたのです。正直私は興味がありましたが、このラブラドールの飼い主の気持ちや背景を考えると、とても見学する気持ちにはなれなかったので、N院長先生には丁重にお断りを入れました。なんでもそのラブラドールが手術する部屋は、12時間前から完全無菌状態に用意してあったようです。上記にも書きましたが、無菌室を作れる設備体制が、完全にある病院だということです。やはり国内第一人者と言われるほどの先生であり、その病院であると心から実感しました。ケリーのレーザー治療もほどなく終了し、特別な痛み止めの処方薬を頂きました。この処方薬が切れた時、またこの病院まで来るのに大変だろうと、このN動物センターを卒業した獣医師を、N院長先生は探し紹介してくれました。幸運にもそのうちのおひとりが、私の住む三郷市のお隣の越谷市に、病院を開業なさっていのです。ですからこれからは、その薬が必要になった時は、その病院に処方してもらいに行くことが可能になりました。この日の治療費も、普通の病院と全く変わりなく普通の治療費請求だっのは驚いたひとつでもありました。私達がホッとしながら病院から出てきた時には、院内の待合室に入りきれないほどの、犬と飼い主さんの患者数でした。さらに驚かせられたのは、空輸で送られてきた犬が、特別の宅配業者の車に乗って、このN動物センターに届けられていたことです。実際にその光景を眼にしました。九州や北海道などの遠方から、HDなどの良い診察のうわさを聞いて、飼い主は不可能でもせめて犬だけでもと、そのような方法を利用して愛犬を診察するために送ってきているのです。本当に驚きました。車の中で待っていたソフィアと、治療の終わったケリーを連れて私達は帰路につきました。
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ここで話はそれますが、ゴールデンレトリーバーの現在の状況と境遇を、私が知っている範囲で書かせていただきます。
ゴールデンレトリーバーは、約15〜18年前頃から爆発的なブームとなりました。当初国内ではゴールデン専門の犬舎・ブリーダーは、そんなに多くはなかった時期です。TVコマーシャルや雑誌・口コミを得て、ゴールデンのペットブームは拍車をかけて広がりました。確かにゴールデンの持つ気質と性格と本能は、そもそも小〜中型犬を飼う環境の基本としてきた日本国内において、大型犬を飼うという新しい分野の開拓に、一役買った状態になったといえます。そしてこの頃からゴールデンを専門とする犬舎や個人繁殖家が増えたのです。日本国内はご存知のとおり、ペットショップやブリーダーから、それなりにつけられた金額を払えば、用意に犬を手に入れることが出来ます。ですから「売れる時に売る。売れる時に作る」の図式が成り立ってしまったようです。簡潔に述べれば乱獲的な繁殖です。これが今日のHDなどの遺伝性疾患を持つ子を増やす要因のひとつとなりました。海外のドックショーでチャンピオンフィニッシュをした犬は、さらに繁殖の対象として高額売買の対象として、とてももてはやされたのもこの頃です。ゴールデンに限って言えばまだ当時のチャンピオン犬でも、OFAのナンバー取得やCERFの必要性も認識も甘かったと言わざるをえませんでした。その遺伝的要因が灰色のまま、大量の繁殖に使われたのです。現在の国内の一般的な考えでも、「チャンピオン犬=名犬」と考えられている風潮は非常に強いです。確かにチャンピオンになった犬は、その犬種の本来のスタンダードに基づいた部分が、とても優秀なので賞に選ばれたのです。その点は疑問も否定もいたしません。ですがその基本的部分は外見や容姿にのみでの証明でもあります。遺伝的要因など、長い年月を研究と解明に必要とする証明には、残念ながら完全とは言えないのです。例えばある一頭のゴールデンが「米国チャンピオン、この子の子供を譲ります。」としたとします。よく目にする広告です。確かに米国でチャンピオンフィニッシュをした優秀な犬なのです。ですが・・・現実には、OFAナンバーを取得していなかったりするのは、ごく普通のことなのです。日本人だからなのか!?どうも「ブランド志向」の傾向が強いためなのか、この犬本来の状態や性質は無視して、たんなる「称号・名誉」に重点を置いてしまうのです。もちろん高価です。例えばこんな例も私は耳にしたことがあります。米国で本当に犬を作り上げたブリーダーがいました。何十年もついやした結果やっとチャンピオンになれたのです。チャンピオンになれた事と同時にその犬は、そのブリーダーが心から納得して作り上げた固体なのです。さー残るはこの犬の子を作り上げることです。ところが・・・繁殖に使う寸前にHDの発症です。このブリーダーは辛くも悲しくも繁殖をあきらめました。仕方ありません。かなりの高確率で遺伝的要因を受け継ぐHDなのですから。このブリーダーの長期にわたる夢も投資も全て白紙になったわけです。ところが、ひとりの某人間がブリーダーの前に現れました。「この犬を売って下さい。いくらでもだしますよ」ブリーダーは言いました。「この犬をどうするのか?」人間は答えました。「ある国では、チャンピオンさえ取れていれば、その犬の子は高値で売れる」ブリーダーはさらに問いかけます。「この犬はHDなのだが・・・」最後にこの人間は「そんな事、関係ない。」これが現実だったのです。米国ではチャンピオンを取れたけど、いざ繁殖となるとダメであった。その子をペットとして静かに過ごさせてあげようと考えていた矢先、「仲介・バイヤー」と言う人間が現れたのです。大金を持って。
最近の米国や欧州のゴールデンのブリーダーは、日本国内の状況を知り憤り、たとえ健全であっとしても大金を積まれたとしても、自分の犬を譲ることは避けているようです。欧米ではただドックショーを主体にするとか、犬を繁殖させて商売するとかのレベルではなく、犬と言う生き物の尊厳と共栄を、きちんと確信し理解しているようです。それが本当の「シリアスブリーダー」だと言うことです。血統書をご覧なるとおわかりになると思いますが、近所・知人・友人、同じゴールデンを飼っている方の血統書の部分に、ご自分の祖先が一致することが多々あります。これは元の祖先の繁殖が、いかに大量に行われたかの証拠なのです。「ジェームス」や「ゴーゲッティンギャングバスター」・「ジャマイカバーディクト」・・・「Asterling犬舎」・「Nautilus犬舎」・・・などの名犬・名犬舎は、今日の日本国内では実に半分以上のゴールデンの末裔ともされています。それほど多いという事なのです。
現在では、雑誌や報道により、ゴールデンの股関節などの遺伝的疾患の情報が、一般的にも知れ渡ってきましたが。ですからOFAのナンバーを取得した繁殖犬も、それなりに登場してきました。この「あたりまえ」の状況が、もっともっと広がっていくことを望みます。
私の考えでは、「血統書」は単なる指針と考えています。その子の辿ってきた血筋の指針なのです。どうも日本人は血統書の証明書を優先して、一番肝心のその子を次に置いて、購入したり価値観を決めてしまいがちのように感じます。
近年は、小型のダックスフンドやチワワ・プードル系が、とても爆発的にブームになっていますが、彼らの犬種にも注意しないとならない遺伝的疾患や持病があるはずです。この点でも「ブーム」だけを先取りしないで、徹底的に見直して欲しいと思います。
OFAなどについても書かせていただきます。仮にOFAナンバーを取得した犬だからといって、100%繁殖に安全かというとそうでもないようです。ナンバーを取得した犬ですから、HDなどの要因は極めて低いとは言えますが、なんせ複雑な遺伝の要因ですから、まれにその子供がHDであることもあります。それほど遺伝性疾患は置くが深いものですから、シリアスブリーダーと言われる、研究熱心で高尚なブリーダーですら、慎重にならざるをえないのです。そのシリアスブリーダーが、ご自分の人生とお金と時間全てを賭け、よりスタンダードで健全な犬を作ろうとしている時、OFAなどはその安全性の証明として手伝いをしているのです。ですが一般人の素人は、全てを壊してしまいます。いわゆる自家繁殖です。確かに愛犬の子供を見たいという欲求は理解できますが、なんの根拠も安全性もない状態で子犬を産ませてしまったら、その子犬達の生涯のリスクは、極めて高いと思います。ゴールデンは時にはかなりの多頭数子犬が産まれます。その子犬が疾患を持っていたとして、またその子犬が成長して繁殖する。枝分かれで遺伝性疾患はあふれるでしょう。でから素人の方でも、どうしても繁殖をお考えなのであれば、OFAやPennHip、CERFなどの勉強が必要になります。そして一番大切なこと!愛犬に子犬を産ませたあなたは、その子犬達が新しい家族の元へ旅立ったあとも、その「責任」のリスクは背負うのです。この覚悟も必要です。「犬」は「物」ではありません!数千年前から人間と共存してきた、この地球上の同じ生き物です。そのことだけは忘れないでください。
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ケリーの話に戻ります。
その後ケリーは、N院長先生から頂いた薬を、しばらくは服用していました。疼痛をなくすためです。しかし、根本的な治療にはなっているわけではないので、早速徹底した管理を行うことになりました。まずは食事管理です。ケリーは幼い頃からフードには慣れていて、フードさえ与えていればなんの不満もない子でしたので、このフードの見直しです。栄養価が高くそれでいてカロリーの低いフード探しに没頭しました。数社試した結果、とある会社のフードにたどり着きそれを与え続けることにしたのです。我が家では1日に朝・夕と2回の食事です。その2回のフードの量を厳密に、計りで量って与える事にしました。目分量では管理には適していません。フードの特性は、「穀物」を主体としてあるのでとてもヘルシーなのです。次に運動制限と管理です。まずノーリードにする時は、その場所の状態を考慮しました。土や芝生ではやや安全ですが、砂利やアスファルトは厳禁です。土手などの斜面がある場所も注意が必要でした。走らせると言うより、「気分が良い程度」が重要です。「トロット」のことです。この歩行が一番自然で負担なく、腰周りの筋肉量の増加につながります。そして「水泳」もそのひとつです。人間と同じくして、浮力により体重の負担をうけることなく運動が出来ます。もちろん筋肉量も増えるのです。ケリーはこの食事と運動の2点において、徹底的な管理をしてきたのです。次に食事以外にも、「サプリメント」を併用しています。関節の緩和と保護を目的とする、グルコサミンやコンドロイチン等が含まれているサプリメントを与え続けています。そしてそれは今でも続いています。
今年の2月で、ケリーは満5歳を迎えました。相変わらず後肢の不安定さはあります。走ってもうさぎ跳びのような格好ですし、寝転んでから起き上がる時には、普通の犬よりも動作が遅く重そうに感じます。全体の重心が後ろにかけられないので、自然と前に重心が移ります。ですから前肢の筋肉は大きくなり、手のひらもやや開いた状態です。ですが何よりも嬉しいのは・・・「とっても元気です!」
HDを完全に克服することはできませんが、HDと共に上手く共存し生活していくことが出来ています。ただ心配なのは、骨量も筋量も衰える老犬期です。たぶんまたなにかしらの不都合と障害がでるかもしれません。ですが私達は出来る限り、ケリーの手伝いをしてあげたいと考えています。中〜重度の股関節形成不全を持つて産まれてきたケリー。そしてそれが発症したケリー。たしかに多大のリスクを背負っていますが、ケリー自身はなんの変わりもない責任もない、無邪気な1頭のゴールデンにすぎないのです。このケリーの生涯を私達はずつと見守り続けます。
ケリーよりも重度の障害をもった犬はたくさんいます。その子達も軽度の子達も、全ては人間の「利益・欲望」の代償です。これからの日本、このような不幸な子達が増えないことを心から祈ります。そして犬の関係者には心からお願いしたいものです。
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