続 うさぎのダンス
【うさぎと少年】

 あれは、パースを無視したような身長で―――ちょっとオーバーだぞ、それは―――遠目でもよく判断がつき、便利といえば便利だが、嫌味といえば嫌味だ。
 高い身長を利用して人を見下し―――少年よ、それは被害妄想だ―――今に見ていろ、俺だって、成長期なんだ、今に追い越してやる。そんでもって、そんでもって―――なにをする気だ、少年?
 拳を握り締め、自分の世界に篭っていた少年は、当の待ち人の到着に気づかずにいた、ようだ。
「珍しいですね、なにかありましたか?」
 小料理 ふじみの前で、それでも少し端に寄っているくらいの知恵はあった少年に声がかけられたが、会話を成立させる気はないらしい。
「あんたを待ってたんだ、これ」
 ずいっと、差し出すのは、色気のない実用本位の袋。
「壊れもんだから、気をつけてくれよ」
 無理矢理に近い動作で受け取らせて、それで用は済んだとばかりの少年に、渡されたほうは異議を申し立てる、だろう、当然。
「なんですか、これは?」
「だぁーかぁーらぁー、先生に渡してくれっていってるだろ」
 ・・・・・・・・・いってない、まったくもって、一言もいってない。
「・・・・・・・中身を確かめても構いませんか?」
 当然の配慮を申し出されるのは予定のうちな少年である。。
「―――――別に」
 しばしの沈黙。
「―――――いったい、これは・・・・・・」
「その、先生には色々迷惑をかけただろっ。そんだけだっ」
 それでも、なにか後ろめたいのか、いらんことまで口走る。
「先生、好きそうだろ、こういうの」
 ・・・・・・・もしもし?少年?
「それに、なんか、先生に似てないか?」
 あー、きみ?きみ?
 だからって、なにもうさぎはないんじゃないかい?
「きみが直接、悠季に渡せばいいのではないですか」
 あんたにしちゃ、まぁ、正論だな、珍しくも。
「っで、できるわけっ、ねぇっだろっ。そんなことっ」
 心情的に一歩退いたようだが、少年よ、恥ずかしがるな、ためらうな。第4の犠牲者になりたいのか?
「そう、ですか?」
「そぉーだよっ。だいたい、なんていって渡すんだよっ。いえるかよっ、そんなこと」
 悪い事は言わない、早いトコ、面と向かって謝るのが恥ずかしいといった方が身のためだぞ。
「なんで、ですか?」
「なんでって、決まってるだろっ?」
 だから、少年よ。相手をよぉーく見て話をしたほうがいいぞ。それは常識が今ひとつ、どころか、『先生』が絡むとまったく通じない生き物だ。
「とにかく、約束だからな。絶対に渡せよ」
 これ以上話し合うことを、正確にいえば話し合いになってないんだが、無駄とみた所は誉めてあげよう。だけどな、お願いしてるわりに、えらそーだな、おまえ・・・・・・
「絶対だぞ、忘れんな?――――壊すなよ」
 練習に遅れると付け加え、逃げ出すな、少年。
 そうして、思い出したように立ち止まり、最後の一言を付け加える。
「俺からだって、いうなよ、絶対だからな」
――――それで、どうしろっていうんだ、少年・・・・・・・・・・



 結論。
 一応の約束は守られた。
 ただ、ベッドの下から、所有物として発見され、愚痴聞き役として再贈呈されることまでは、望んではいなかっただろう、たぶん。
 まぁ、人生なんて、こんなものさ、少年。
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