GO GIRLS 1 |
時は、定期演奏会が終わり、それがもたらした興奮も冷め始めた頃。 本来ならば、パート練習という名の個人レッスンタイム。 しかし、取り急ぎ練習しなければならない時期ではないので、パート会議を執り行う。 各自いろいろ都合が、特に現首席には悠長に、練習後に改まって会議を、などとはできない事情でもあるので仕方がない。 「いっやぁ〜。やめてっ」 会議の為に椅子を動かそうとするだけで、上がる悲鳴。 「やる、やるから、動かないで、おとなしくしてて」 「大丈夫よぉ?」 本人は椅子を引きずるのをとめて、きょとんとしている。なにがそう悲鳴を上げさせるのか、分かっていてとぼけている節がある。 「分かってる、分かってるけど、理性とは違うところで、恐怖を感じるの。 お願い、家ではなにしててもいいから、ここでは、やぁめぇてぇ〜」 ステレオでの心からの哀願に苦笑しながら、準備された椅子によっこいしょと着席。 心持ち離れて座るのに、もう一度、苦笑い。 「もうそろそろ、次の首席を決め・・・・・」 みなまでいわせずに。 視線、眼差し、指先、すべてのベクトルは、ひとりに集中。 声なき多数決の結果、次期首席の選出は終わった。 「パートリーダーっていっても、たいしたことはしてないんだけど。引き継ぎはしておかないとって」 そのひとりに話しかけることに、意義の申し立てはでない。これで、承認。 多数決とは、弱い者の権利を抹消して成立する。 しかしながら、フジミは「民主的」をモットーにしてもいる。故に、無駄な足掻きに付き合う度量の持ち合わせもある。 「恵子さん、産休ですよね?」 「でも、三人目だもの。戻ってこれるのは、いつになるかしら?」 「育休とってもいいです。 でも、休団、ですよね?」 「扱いとしては、そうしてもらった、けど」 しつこいほどの念押しに、先行き不安をにじませる。 「じゃ、ビオラの首席は恵子さんのままで」 「でも、それって」 異議申し立ては、思ってもみないところから。 「産休明けは、元の職場に戻さなきゃいけないんです。それが決まりなんですぅ。訴えられちゃいますぅ」 「るみちゃん、それ、違う」 軽く頭を振りながらのツッコミは無視された。 「戻ってくるまでの代わりはいいですけど、首席はやです。 だいたい、一番へたなのが―――って、立場ないでしょ」 首席が産休にはいれば、ビオラは4名。うち、プロと呼ばれる立場が3人。残りの1名は、音楽の専門教育さえうけたことがない。 誰が見ても、彼女の言い分は正当である。 だが、次期首席はすでに決められていること。 ほら、と、明るく、慰めるように。 「五十嵐くんだって、首席チェロだから」 「音大生と、同じに語らないでっ」 今度は、さりげなく慰めようと。 「・・・・・・・ニコちゃんだって・・・・・・・立場、一緒?」 「生まれる前から、弾いてる人と一緒にしないでってばぁ」 「いくらなんでも、それはオーバーだから。 谷本さんたちも、そこまで若くないってば」 「似たようなもん」 じっとりと、恨めしげに視線をやってもみても、 「んー、どっちかっていえば、フジミをつくっちゃったニコちゃんに一目置いてるほう?」 にこっ。と、愛想笑いつきで返ってくる。 「全然、違うじゃあ、ないですかっ」 慰められてるのか、遊ばれているのか。どちらなのか、判断はつけにくい。 |
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