『 紅の羽根 』
≪ 十五、危険な賭け ≫
響いた声、徐々に黒く染まってゆく長い髪。
勝敗は、一瞬で片が付いた。
「な、何だ・・・こいつに何をした!?」
『何って、見たとおりだろうが。』
とっておきの新薬を使い、強力な催眠をかけて。
そうして山口だけの声を聞く、最高の駒を作り上げた筈だったのに。
今、その駒に―――縁に、山口の声は微塵も届かない。
「・・・、」
『言いたいことは後で聞く、緋村。今はまず、この子を休ませてあげなきゃ。』
返る声は、聞き慣れた緋村の愛する者・・・巴の声で。
呆然と立ち尽くす縁は、を見据えたまま微動だにしない。
そんな縁との視線が、交わった瞬間―――
「縁!何をしている!! さっさとその2人を始末しろ!!」
山口の怒声が響く。
ビクン!と大きく反応を返した縁だったが、
「ア・・・アアアアアアアアッッ!!」
ガシャン!
剣を取り落とし、両手で耳を塞いで喚く。
激しく首を横に振り、何かを追い払うかのように。
「縁・・・? 、これは・・・!」
『錯乱状態・・・ね。でも、この声が届いた証拠よ。』
大丈夫、と笑って、静かに縁に近付いて。
ふわり。
「・・・・・・・・・・・・・ッ!」
『大丈夫、大丈夫よ縁。全て忘れて・・・今は、眠りなさい。』
「・・・姉、さ・・・・・・」
抱きしめて、囁く。
の腕の中で、縁の表情がまるで幼子のように歪む。
泣き出しそうなそれは、安堵と痛みを等分に秘めて。
あやすように背を撫でられて、縁の瞳が閉じられようとした、その時。
「縁!! 『命令』だ、殺せ!!!」
「!!!」
一際大きく発せられた山口の怒鳴り声に、カッと瞳を見開いた。
ガタガタと震え、焦点の合わない目で必死に首を振る。
「・・・!」
大丈夫なのか、と緋村が問う。
あまりそういったことに詳しくない緋村が見ても、縁が今どれだけ危険な状態なのかは判る。
事実、縁は危険な状態にいた。
確かに響く、姉の声。
殺したく無い、殺せる筈が無い。
誰よりも守りたかった、巴の声と。
「殺せ」と命ずる、山口の声。
絶対的な強制力をもって、この身体を支配しようとするそれ。
誰よりも大切な存在を、この手で殺せと。
『殺セ』 『オ前ヲ惑ワス者ヲ』 『殺セ!!』
―――いやだ、殺したくない、この手にかけるなんて絶対に―――!!
「ッアアアア!! イヤだ、イヤダ殺したくない・・・・!!!」
『縁・・・大丈夫よ。今は休みなさい、ね?』
激しく揺れる瞳に、完全とは言いがたくも確かな光が戻ったことを確認すると、は縁を抱きしめたまま・・・首筋に、手刀を落とした。
に・・・いや、『巴』に全くの無防備でいた縁は意識を奪われ、がくりと崩れ落ちた。
『緋村。』
「・・・何だ?」
崩れ落ちた縁を抱きとめ、顔を伏せたままの。
呼ばれた緋村は何が何だか混乱しながらも。
『この子を連れて行って。・・・できれば、警察じゃなくて巴の元へ。』
「ああ・・・必ず。」
そう言って、顔を上げたは苛烈な瞳で山口を睨んだ。
『私はまだ、奴に聞かなければならない事がある。』
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2007.2.26