一之瀬に予告カードをだしたあんず。
雑誌記者だけあってアプリコットの情報はきっと俺富だろう。
何を探られるかわからない。
あんずはかなり用心しなければいけないと思いながら、一之瀬のマンションに舞い降りた。
「よいしょっと・・・。あれ・・・」
窓を覗くと中は真っ暗。
ワナかな・・・と思いつつ、あんずは窓を開けそっと部屋に入った。
コツン。
「ん?」
何かに足をひっかけたような気がした。
その瞬間、
「きゃあッ!」
あんずの体は何か網の様なもの包まれ、身動きがとれなくなった!
「あははは!ひっかかったな!アプリコット!」
一之瀬の声と共に部屋の灯りがパッとついた。
あんず、思いっきり投網にくるまれじだばたしている。
「ちょ・・・。ちょっと何なのよ!これは!」
「投網。しかも特注。高かったんだぞ」
一之瀬はしゃがみこみあんずスカートをのぞき込む体勢。
「どこみてんのよ!早くはずしてよ!」
「いや〜。もう少しながめていたいなぁ・・・」
「・・・。もうーー!お願いだからとってよ!」
「仕方ない。よいしょ」
かなり残念そうに一之瀬は網を取り除いた。
「ふー・・・。ちょっと!なんて手荒な出迎えなの!」
「賑やかでいいじゃないか」
「よくないわよ!ふん!。で・・・。予告カードは読んでいただけたのかしら?」
「ええ。何十回も読みましたよ。あ、記念に飾ってある。ほら。あそこ」
一之瀬の指さす方向に、あんずが出した予告カードが額縁に入れて飾ってある。
「・・・。何で飾ってあるの?」
「いや・・・。家宝になるかとおもってさ。親父がずっと追い続けてたアプリコットからの
予告状なんて」
「・・・」
あんずはかなり戸惑った。仮にも泥棒から予告状がきたというのに、この態度。
何か裏があるのかそれとも、単にいい加減な性格な奴だけなのか・・・。
「予告状によると、俺のハートを奪いに来たんだよね?」
「そうなの。だからこれからあなたに会いにくることになるわ」
「ふっ。それは都合がいい。アプリコットを追いかけている俺の元へ君の方から来るなんて大歓迎さ。独占取材だ」
「・・・。言っておくけど。あたしから何かききだそうったってそうはいかないわよ。あたしは貴方の心を盗みに来てるんだから。何。この手は」
一之瀬、かなりすばやくあんずの肩に手がまわす。
「こちらこそ。よろしく。ということで、早速取材を・・・」
あんずはするりと一之瀬の腕を抜け、いつの間にかベランダへ。
「独占取材の前に私が貴方の心を頂きます。それじゃ!」
「待てよ!」
呼び止める一之瀬。
「何よ」
「また・・・。来てくれるんだろう?俺・・・。ずっと待ってるから・・・」
さっきまでおちゃらけていた一之瀬の瞳が、すごく真剣に見えた。
一直線にあんずを見つめて・・・
「・・・。く・・・くるわよ・・・!だってそれがあたしの任務だもの・・・。じゃ、おやすみなさい!」
ハングライダーを悠々と満月をバックに舞うあんず。
一之瀬は月に映るその影を優しい瞳でいつまでも見つめていた。
「独占取材・・・するさ・・・。君を“独占”する取材をね・・・」
ビルの谷間をひょいひょいと飛ぶ。
「な、何なの!一之瀬さんて・・・。投網なんか仕掛けたり、すぐ大胆な事言うし・・・。全く・・・」
でも・・・。さっき帰り際の一之瀬の瞳が・・・
“ずっと待ってるから・・・”
あの時の一之瀬の瞳は・・・。
(すごく、真剣だった・・・)
ぼうっとするあんず。
すると目の前に電柱が!
「きゃあーー!」
すんでの所で電柱激突を交わした!
「あ、危なかった・・・。もう・・・。あたしが死んだら一之瀬さんのせいよ!」
あんずがそんな事を言ったせいか、一之瀬は・・・。
「ふ・・・ファアクション!」
と、思い切りくしゃみ。
「風邪かな・・・。いや・・・。きっとアプリコットが俺の噂をしてるんだな・・・。ふぁっくしょん!」
(・・・。やっぱり風邪かな・・・)
そう思いながら窓を閉める一之瀬。
こうして。ふたりの“独占取材”合戦がはじまったのだった。