虹色のkiss

航河と一緒に街を歩くと、人々が振り返る。

皆、航河に注目する。

髪の色や瞳の色のことも勿論だが、レーサーとしても名が知れてきた航河はそこら辺の芸能人より有名だった。

人の視線に昔から敏感な航河。

今更初めてのことではないが、やはり好奇な視線を背中に感じてしまう・・・。

「ひとみ・・・。お前、大丈夫か?」

「何が?うん、このパフェ美味しいわv」

さっき買ったいちごクレープを頬張るひとみ。

口元にクリームをつけて・・・。

「・・・。お前ってほんと、なんかすごいよな」

「え?どういう意味よー?」

「ふふっ。色気より食い気ってことだよ」

「なんですってぇ!も〜!」

逃げる航河をパフェを持ったまま追いかけるひとみ。

そんな二人を皆、振り返って注目するけど、恥ずかしくはない。

何も悪いことはしていないのだから。

二人が一緒だから大丈夫・・・。

横断歩道まで来たとき。

青になり歩道を歩く二人。

「おい、航 河じゃないか!」

「!?」

振り返ると、航河の顔が曇った。

「吉田・・・」

若い男女が二人。片方の男は眼鏡をかけている。

「久しぶりだなぁ!何年ぶりだ?あっと赤になっちまう。そうだ。あそこの茶店に入ろうぜ」

妙に馴れ馴れしい吉田という男。

航河の知り合いらしい。

吉田につられ、茶店に入る航河とひとみ・・・。

「あ、コーヒー四つね」

妙ににこにこしながら店員に注文する吉田。

「いやー。ホント、懐かしいなぁ。今や有名の『鷹島航河』が俺同級生だなんてなんか嬉しいよ」

「ほんとねぇ。私も鼻が高いわ〜」

化粧の濃い吉田の彼女。香水がきつく、ひとみの鼻につく。

「・・・。何の用だよ」

「相変わらず無愛想だなぁ。久しぶりに会ったんだから色々話しようぜぇ」

「俺は・・・ねぇよ」

明らかに航河は不機嫌。

航河の様子を見ていると、きっと学生時代、吉田とはあまりいい思い出はなかったのだろうなと察知するひとみだ・・・。

それから吉田はペラペラと自分の事や彼女の事を一方的に話す。

航河は嫌気が差し、むっとしている。

「なんだよ。ったく・・・」

「言いたいことはそれだけか?」

「けっ。ちょっと売れてるからってお高く止まりやがって・・・。ま、それは昔からかわらねぇけどさ・・・」

吉田はズズッとコーヒーを口に含む。

「あのさ。それで・・・。物は相談なんだけど。俺・・・。ちょっとこっちの方がピンチなんだよなぁ〜」

吉田はそう言って、指でわっかを作った。

「50万程でいいんだけど・・・。融通してくれない?」

「ねぇv」

嫌らしい顔つきで航河の顔を覗き込む二人・・・。

航河の怒りも頂点に達したその時。

バシャッ!

ひとみはコップの水を二人にぶっかけた。そしてにこっと笑い一言。

「はい、50万円也。即払いです。じゃあごめんあそばせ」

「ひ、ひとみ・・・」

航河の手をひいて茶店を出てしまった・・・。

怒った顔ですたすた歩くひとみ。

誰もいない公園まで来た二人。

ブランコにひとみは乗り、思い切り漕ぐ。

「全く・・・。何なのよ!何なのよ!ああ、もう腹が立つ!」

頬をまるでフグのように膨らませて怒るひとみ。

「・・・ふふふっ」

「!?どうして笑うの?」

「お前・・・。ホントに・・・。百面相だな・・・。自分の事じゃないのにそんなに怒って・・・」

「当たり前じゃない。大切な人が馬鹿にされて怒るの当然でしょ?子供っぽいって自分でも思うけど・・・」

「・・・」

ひとみをじっと見つめる航河・・・

ひとみのコロコロ変わる表情が愛しい・・・。

自分のことで誰かが


泣いたり、笑ったり、怒ったりするってなんて・・・。


嬉しいことなんだろうか。

心強いことなのだろうか。

「や、やだ・・・。ちょっとあんまりじっと見つめないで・・・」

照れくさくて視線を逸らすひとみだが、航河のグリーンの視線からひとみは逃れられない・・・。

航河はブランコに座るひとみの低さまでしゃがみ、ひとみの頬に手を添えた・・・。

(・・・航河・・・)

ひとみも目を閉じた・・・その時。

ポツ・・・。

空から振ってきた雨の滴がひとみの頬に冷たくながれた。

同時に空には稲光が光った。

「雨だわ!航河!ともかくあそこへ入ろう!」

二人は、象の形をした滑り台の丸い穴の中に入った。

2メートル程奥ゆきがあるがそれでも、二人で入ると狭い。特に身長が高い航河は頭を低くして、胡座をかくように足を曲げて座る。

「ご、ごめん・・・。キツかったかな?航河」

「いや・・・。別に気にするな・・・。通り雨だろう。暫くだけだ・・・」

「うん・・・」

ひとみはちょっとだけ、この通り雨が長く続いて欲しいと思ってしまった。

しとしと・・・。

激しく雨が降る。


冷たく乾いたコンクリート潤すように。


どこかで切なく流れる涙を隠すように。


「・・・覚えてる?ほら。あの時も雨ふっていたね」

「ひとみが自分の書いた原稿を見事に破いた時のことだろ。全く・・・」

「全くなによ。だってあの時・・・航河にあたしの本当の気持ちどうやったら伝わるかって考えてたら・・・」

「伝わりすぎるくらい伝わったよ。ちょっと怖いくらいにな」

「もー!!怖いってなによ。怖いって・・・」

振り上げた手をガシッと掴まれた・・・。

そして力強く航河の胸に引き寄せられて・・・。

耳元で囁かれる・・・。

「・・・自分でも怖いくらい・・・。お前が好きだ・・・」



(・・・っ!)

航河の熱い息が耳たぶにかかって体の奥まで・・・こそばゆくなる・・・。


そして・・・。


さっき途切れてしまったkissをもう一度・・・。


ひとみが目閉じた瞬間に航河はひとみの唇を強く塞いだ・・・。



時が止まっているのかと思うくらいの深い深いKISS・・・。


いつの間にか空は晴れ、雲の間に虹が・・・。


「・・・航河。虹だ・・・」

大きく円を描く。


「・・・。ねぇ。もう少しここでこうして航河と虹を見ていたいな」

「・・・。俺も・・・。ちょっと頭は痛いけどな」


くすっと笑う二人・・・。


いつの間にか虹は二つのアーチを作っていた・・・。


FIN
どこかに、大人のご褒美が・・・