第10話 淡雪の波 「くそう!かごめの匂いが消えてやがる!」 微かにするかごめの匂いをたどって山を越えてきた犬夜叉達。 しかし、犬夜叉達一行のまえには二本の別れ道が・・・。 「どうしていきなり消えてるんだ!」 苛立つ犬夜叉に弥勒は落ち着くよう促す。 「多分匂いを消したのだろうな。妖怪よけの一つで、武士は草や木を使って自分たちの匂いを消す薬を作るという。戦で学んだ知恵だろう」 その証拠に地面に草木を焼いた後の様な焦げが残っていた。 「なんでだ!なんでそんな事する必要があるんだよ!・・・ん?このムカツク匂いは・・・」 気がつけば鋼牙が犬夜叉達の後ろに・・・。 「なんでい。てめぇか!」 「その焦げ・・・多分、俺のせいだ。俺を巻くために・・・。風馬とかいう野郎が・・・」 「!?鋼牙てめぇ、かごめにあったのか!!」 鋼牙に詰め寄る犬夜叉。 鋼牙が自分より先にかごめを見つけたことに腹がたった・・・。 「なんでかごめを連れてこなかった!?どこかにかくしやがったな!?」 「んなことするか!!かごめが自分で風馬とかいう男についていくって言ったんだ!」 「なっ・・・。そ、そんなかごめが・・・」 「俺だってな、風馬とかいう男なんてぶん殴ってかごめ連れてこようとした。だけど、かごめが・・・。この俺様の顔を見ようともしねぇ・・・。まるで他人を見る目だった・・・」 あんなかごめの瞳はみたことがない・・・。 記憶がないのは分かっているけど・・・。 「・・・ムカツクが俺じゃあかごめの記憶は戻せねぇ・・・。ま、犬っころだって無理だろうがな」 「うるせぇッ!」 「・・・。かごめはきっと海の方にいるぜ。俺の狼共がかごめが潮の香りがする方へ行ったってな・・・。俺は俺で探す・・・」 鋼牙は静かにそう犬夜叉に告げるとつむじ風の中、消えていった・・・。 「鋼牙の奴・・・。犬夜叉にわざわざかごめちゃんの手がかりを言いにきたのかな・・・。法師様・・・」 「ああ・・・。多分・・・」 「鋼牙・・・あやつはもしからしたらオラ達が思っている以上に良い奴なのかもしれんのう。犬夜叉」 七宝がひょこっと犬夜叉の肩から顔を出して言った。 「・・・けっ。痩せ狼野郎がいい奴な訳ねーだろ。とにかく先を目指すぞ!潮の香りのする右の道だ!」 鋼牙がかごめを自分に託した・・・。 そんな都合のいい捉え方は素直に思えない犬夜叉。 だけど・・・。 わざわざかごめの手がかりを言い残した時の鋼牙は・・・。 (・・・けっ。鋼牙の野郎め・・・かっこつけやがって・・・!それより今はかごめだ・・・!かごめ・・・!) ※
打つ波に佐助の髪を流す・・・。 小夜とかごめは髪が消えるまでずっと見つめていた。 「これで・・・。佐助さんは故郷に帰ったんですね・・・」 「ふっ。かごめ。あんたも粋なことを言うねぇ。ふふ・・・。そうさ。あたしのまってた男は海に帰って気持ちよく泳いでるのさ。たこ踊りでもしてるだろうよ」 海に来ればいつでも会える。 もう待たなくていいから・・・。 「あの・・・。小夜さん、風馬さん、何かあったのかな。なんか昨日からフッと考え込んでいる事が多くて・・・。何か聞いていませんか?」 「・・・。知らないねぇ・・・。元々寡黙なわかりにくい男だからねぇ・・・。ふふっ」 じっとかごめを覗き込む小夜。 「な、何ですか?」 「惚れちまったのかい?」 「なっ・・・。そ、そんなこと・・・っ」 少し頬を赤らめて後ろを向くかごめ。 「初ねぇッ。はは・・・。でもま、風馬なら男としても人間としてもあたしは保証するよ」 「だから違うって言ってるじゃないですか!もうっ・・・。それに・・・この旅はもう終わりです・・・。佐助さんを故郷に帰したから・・・」 そうだ。自分は佐助を見送るために風馬と共にここまで来た・・・。 それが終わったら・・・? まだ自分には記憶が戻っていない。 どこへ行けばいいのだろう。これから・・・。 考えなくてはいけない。 でも・・・その不安よりこの寂しさは何だろうか・・・。 「深刻な顔しなさんな!かごめ、あんたうちの宿で働いてみないかい?」 「え?」 「 ね!」 ポン!と強く背中を叩かれるかごめ。 「風馬がね、かごめの笑顔なら客もきっと増えるだろうって。俺が保証するってさ!ふっ。女冥利につきるねぇ。かごめちゃん」 小夜は肘でかごめを小突く。 ”かごめの笑顔なら・・・” そのフレーズがとても嬉しい・・・。 心に何かが灯るのを感じるかごめ・・・。 何だろうか・・・。この気持ちは・・・。 風馬が喜ぶことしたいそう強く思うキモチ。 「おお♪似合う似合う★」 黄色い小花が描かれた桃色の着物を着たかごめ。 小夜の着物を借りた。 「ちょっと見てみなさいよ♪風馬、ほれ」 かごめをクルッと一回転させて着物姿を風馬にアピールする小夜。 「・・・。あの・・・。風馬さん、どう・・・ですか?」 「え・・・?あ、ああぁに、似合ってる・・・と思う・・・」 照れくさそうに言葉にしどろもどろになる風馬。 「もっと洒落た言葉知らないのかい?ったくこれだから戦しか知らない男は!ほら、真っ直ぐにかごめを見て!」 小夜は無理矢理風馬とかごめと風馬を向かい合わせた。 「・・・。似合っている・・・。とても・・・」 「あ、ありがとうございます・・・」 まるで、若い男女の見合いのよう。妙な初々しさが漂う・・・。 もじもじする二人。 「ま・・・奥手そうなこの二人の最初はこれぐらいかねぇ。祝言まで面倒みてやるから安心しな!」 「んも〜!!小夜さんてばッ!」 「わははは!初ねぇッ!かごめ!」 すっかり姉と妹の様に笑い合うかごめと小夜・・・。 風馬は安心した。 例えかごめが記憶が戻らなくても、ここならばきっとかごめの居場所になる・・・そう思った。 早速宿で働き始めたかごめ。 初日から部屋の掃除や布団干し、何でもする。 その手際の良さや、愛想の良さはすぐにかごめを旅の客達の人気者に。 「おお♪女将(小夜のこと)なんともめんこいおなごがいるじゃねぇか」 「そうだろう?でも手、つけるんじゃないよ。かごめは風馬の嫁さんになるんだからね!」 「小夜さんったら・・・」 笑顔を絶やさないかごめ。 風馬の言葉を大切にする。 大切にしたいと思った・・・。 かごめの様子を離れの格子から見守る風馬・・・。 (・・・。よかったな・・・。かごめ・・・) ズキ・・・ッ。 「ウ・・・ッ」 胸を押さえる風馬・・・。 (じきに治る・・・。直に・・・) 嫌な冷たい汗が風馬の額を流れる・・・。 痛みに耐えながらかごめの優しい笑顔を見つめ続ける風馬・・・。 (直に治るさ・・・) 痛みさえきっと和ませてくれる・・・。 痛みさえ・・・。 障子をそっと閉め・・・。体をくの字にして痛みが収まると少し眠った風馬だった・・・。 ザザン・・・。穏やかな波だ。 長い髪をおろした風馬が一人立って、地平線をじっと見ていた。 遠く遠くに見える地平線。どこまで続いているのか。 「風馬さん」 「かごめか・・・」 囀りの様な優しい声に心弾む。 振り向くと白い寝間着のかごめ。 穏やかな波の同じぐらいにその笑顔はホットさせてくれる。 「風馬さん、ありがとうございました」 「何がだ」 「私のことを小夜さんに頼んでくれて・・・。本当に有り難かったです・・・」 「人の出入りが多いあそこなら色々な情報が入る。それより、小夜にまかせておけば心強いからな・・・」 「・・・あの。風馬さん、風馬さんはこれからどうするんですか・・・?」 かごめは一番それが気になった。 ずっと聞こうと思っていた・・・。 「俺は・・・。ふっ。そうだな。どうするか・・・。自分でも分からない・・・」 「・・・私も分かりません。自分がどこに居るべきなのか・・・。風馬さんや小夜さんの好意に甘えてばかりいていいのか・・・」 かごめは草履を脱いで、海の水に足をつけた。 「お前はあそこにいればいいんだ・・・。きっと記憶は戻る・・・。もっと協力できればいいんだが・・・俺には・・・」 その先が言えない。 俺は・・・の先は・・・。 「風馬さん・・・?」 「かごめ・・・。俺・・・は・・・」 見つめ合う・・・。
(風馬さん・・・) ふわッと風馬の目の前を綿のような白い物体が舞い上がった。 「わぁ・・・っ」 砂浜にうつ波の白い泡が。 粉雪の様にふわりふわりとシャボン玉の様に上昇していく・・・。 泡の固まりが幾つも幾つも・・・。 雪のように
波の泡を手でつかむ。 潮のいいかおりが・・・。 「まさに海の雪・・・だな」 「そうですね・・・。本当に綺麗・・・。でも羽根にもみえます」 「羽根・・・?」 「そう・・・。天国の羽根。空に帰って行くんですよきっと・・・」 「天国の羽根・・・か・・・」 何故かその言葉が心に染み渡る。 何故か・・・。
「天国の羽根か・・・。でも俺はもっと綺麗な羽根を知ってる」 「もっと綺麗な羽根?どんな羽根ですか?」 「・・・どんなって・・・」 突然、空から舞い降りた・・・白い羽根・・・。 「さぁ・・・忘れた」 「あ、ずるいですよ。知ってるっていって忘れたなんて」 「忘れたものは忘れたんだ」 「教えてほしいです。教えて・・・ってきゃあッ。蛇!!」 バランスを崩し、風馬に寄りかかるかごめ。 「ご・・・ごめんなさい。海草が足にからまって・・・」 かごめの鼓動が早くなる。。 バシャンッ
今度は風馬が倒れ込み、その重みでかごめは下敷きに。 「ふ、風馬さん。あの・・・。あの・・・っ」 突然の事に頭がパニックになるかごめ。 更に心臓の音は増し・・・。 「あ、あの風馬さんあの・・・。ってえ・・・」 白い波の泡が赤く 染まっているのに気がつくかごめ・・・。 「何・・・。これ・・・。何・・・」 かごめは風馬を抱き起こすと、口から大量の血が吐いていた・・・。 「風馬さん・・・!しっかりして!!風馬さんーーーーッ!」 自分の膝の上の風馬・・・。 ぐったりして・・・。 動かない。 「風馬さん、風馬さん・・・!!!」
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