永遠の白い羽根
〜幻の恋〜

第7話 霞草の願い

風馬とかごめの二人旅。

馬に乗るのも慣れてきたかごめ。

「かごめ、体は痛くないか?」

「はい!風馬さん、もっと飛ばしましょう!風になるみたいに・・・!」

かごめの元気な声に手綱をグイッと引っ張り勢い良く草原の中を走り抜ける。

草をかき分け、前へ前へ・・・!

ヒヒヒィン・・・ッ!!!!

馬の『慧』が突然、立ち止まる・・・。

「慧・・・。どうしたんだ?一体・・・」

慧の足下を見てみると・・・。

幼い少女が草の中に埋もれるように倒れている・・・。

「大変・・・!助けなきゃ!」

かごめは尽かさず直ぐさま慧から飛び降り、少女を抱き起こす。

「大丈夫!?」

「う・・・」

少女はゆっくりと目を覚ました。

「よかった。気がついた・・・」

「あれ・・・。お姉ちゃん・・・。誰・・・?」

「あたしはかごめ・・・。どこか痛いところはない?」

かごめはそう訊ねながら、少女の顔の汚れをそっとスカーフで拭いた。

「あたし・・・。お母ちゃんにこの花あげようと思って・・・。そしたら石で足をくじいちゃったの・・・」

細い白い足首から血が出ていた。

かごめはスカーフで足をキュッと血止めし抱っこする。

「あの・・・。風馬さん、この子・・・」

かごめの目が『この子を送ってあげて欲しい』と訴えている。

「・・・。分かった・・・。乗れ・・・」

「風馬さん!」

長く、逞しい腕が少女を抱くかごめをひょいと掴んで乗せる。

「風馬さん、ありがとう・・・」

「いや・・・。しっかり掴まっていろ・・・!」

「はい・・・!」

風馬に手を掴まれたとき・・・。

かごめは嬉しかった・・・。

少女を助けたいという気持ちが伝わったようで・・・。


胸の奥の弦が・・・。

小さく震えた気がした・・・。


少女の名は奈津という。

この近くの寺に住んでいると言った。

「ここがあたしの家だよ」

境内は伸び放題の草。

小さな井戸がある。

その横には今にも崩れそうな社と母屋・・・。

「奈津!奈津お前、どこにいっていたんだい!?」

「!」

血相を抱えて母屋から出てきた奈津の母親。

「ご、ごめんなさい・・・。あの・・・。お母ちゃんにこれを・・・」

「あれだけ外にでちゃいけないって言ったじゃないか!!どうして・・・」

捲し立てるように怒る奈津の母親の様子に奈津はかごめの腕の中で体を小さくさせる・・・。

「あ、あのお母さん、奈津ちゃん・・・足をくじいたんです。それで連れてきました・・・」

かごめと風馬はハッとした。

奈津の母親の顔の半分の肌が焦げ茶に焼けただれ片目がないようだ・・・。

「なんだい・・・。あたしの顔は妖怪みたいだろ?ふ。ま、別にいいけどね」

「い、いえそんな・・・」

言葉に詰まるかごめ。

「奈津がお世話になったみたいだね。でも何も礼なんて・・・。あ、あんたは・・・ 」

奈津の母親は風馬を一瞬食い入るように見た。

「あんた・・・。名は・・・」

「風馬と申す・・・」

「・・・」

風馬の名を聞く奈津の母親・・・。

かごめは首を傾げる。

(どうして・・・風馬さんのことを聞くの・・・?)

「かごめ。娘は届けた。行くぞ」

「え、あ、はい・・・っ」

かごめと風馬は社を出ようと門を潜ったとき。

「お待ち下さい。旅の方。うちの娘がお世話になりました。是非、今宵あばら屋ですが止まって下さりませ」

さっきとは別人のように甲高い優しい声。

「あの・・・。風馬さんどうしますか・・・?」

「悪いが先を急ぐ故。心遣いだけ頂いておこう」

「そんな、ご遠慮なさいますな!私と娘二人でずっと暮らしております。久しぶりの客人で、その・・・是非色々とお話などしとうございます。娘も喜びますし。ね、奈津」

「うん!お姉ちゃん、行こう行こう!」

かごめの手をぐいぐいと引っ張る奈津・・・。

「風馬さん・・・。奈津ちゃんもこういってることだし・・・。お世話になりませんか?今晩だけ・・・」

風馬は腕組みして少し考えた。

「・・・。わかった・・・。一晩だけ厄介になるとしよう・・・」

「わあい♪お姉ちゃん、こっちこっち!」

奈津に母屋に連れて行かれるかごめ・・・。

「さあ。風馬様もどうぞへ・・・」

「ああ・・・」

丁重にかごめと風馬を招き入れる奈津の奈津の母親・・・。

しかし風馬の背中を眉を釣り上げ、もの凄い形相で睨んでいた・・・。


囲炉裏で川魚が焼かれている。

良い頃合いに焼けて、奈津が白身にかぶりつく。

「美味しい〜!久しぶりにお魚食べた。ずっと芋ばっかりだったから。かごめお姉ちゃんも食べなよ!」

「ありがとう。奈津ちゃん」

決して立派だとは言えない母屋。

それでも雨露凌げたらいいと奈津の奈津の母親は語る。

「私が城下町に働きにでもいければいいのですが、なにせこの顔ではどこも雇ってはくれなくて・・・。ああやって箕で傘や箕を作っては売って生計を立てております・・・」

囲炉裏の隣の部屋には、束ねられた藁が積まれていた。

「お金なんてなくったって大丈夫!私ね、畑つくったんだ♪お庭に。芋と野草が育つ。だから大丈夫!」

無邪気な奈津の笑顔にかごめは心和まされる・・・。

「あの・・・。風馬様は武家の出とお見受けしますが?」

「ああ・・・」

「ならば戦などにも行かれたのですよね・・・」

「まぁ・・・な・・・」

奈津の奈津の母親は奥歯をグッとかみしめた。

芋鍋をかき混ぜるしゃもじを持つ手にも力が入って。

「私のこの頬の火傷も戦で負った物でございます・・・。武士に家を焼かれ・・・」

「奈津ちゃんのお母さん・・・?」

「戦人に問いたい・・・。自分たちが奪ってきた命の事をどうおもわれますかな?」

突然の問いに・・・かごめは驚く。

奈津の母は風馬から何を聞きたいのだろうかと・・・。

温かな囲炉裏も緊張感が漂う・・・。

風馬は静かに息をつき、真っ直ぐに奈津の母を見据えて言った。

「貴方の顔の傷、心の傷・・・。全て自分の胸に刻み込む・・・。絶対に忘れない・・・。人を傷つけたこの刃で今度は・・・全力で人を守ろうと思っている・・・」

「・・・風馬さん・・・」

力強い風馬の返答にかごめは感慨深く思う。

「・・・。なんともご立派なご意見・・・。そう言っていただくと戦にて亡くした奈津の姉の事で、募らせた憎しみも少しだけ癒えた気が致します・・・」

奈津の母や深く風馬に会釈をした。

「さ、風馬さま、芋汁が煮えました。沢山食べて下さいね・・・」

グツグツと芋が煮える。椀にみそ汁をよそう・・・。

「わあ、美味しい・・・」

「でしょでしょ!お母ちゃんの芋煮は天下一品なんだから・・・!」

「ふふ・・・。奈津ったら・・・」

奈津の奈津の母親の笑顔・・・。

風馬はその笑顔が妙に引きつって見えた・・・。


ホーホー・・・。

ふくろうの鳴き声が夜の静けさを漂わせる。

かごめは奈津と一枚の布団に二人で眠るかごめ。

風馬は刀を自分の横に置き、壁によりかかって座ったまま眠る・・・。

しかし・・・。

奈津の奈津の母親がむくりと起きあがる・・・。

「・・・」

とても・・・。恐ろしい顔つきで・・・。

風馬を睨む奈津の奈津の母親・・・。

カチ・・・。

懐から短刀をスッと取り出す・・・。

不気味に刃先に奈津の母親の顔が映って・・・。

ギロッと眠る風馬にゆっくりと近づき・・・。


風馬の頭の真上に短刀を真っ逆様に振り下ろす・・・ッ!!!!


「はッ・・・!!」

切れ長の風馬の瞳がパッと開いた。

「今・・・。確か・・・」

確かに奈津の奈津の母親の姿を感じたのだが・・・。自分の目の前には奈津の奈津の母親の姿はなかった・・・。

(・・・夢か・・・?幻覚か・・・?)

しかしすぐに異変に気づく。

布団がもぬけの殻だ・・・。

かごめと奈津の奈津の母親がいない・・・。

「かごめ・・・!」

とてつもなく嫌な予感を感じた風馬・・・。

かごめを探し部屋を出る・・・。

一方かごめは・・・。


竈(かまど)がある土間にいた。

(お水もらおう・・・)

竈の隣にある水瓶のふたをあけるかごめ。

水瓶の中には新鮮な水がたんまり入っていた・・・。

(一口だけ下さい・・・)

柄杓(ひしゃく)で水をすくい一口水を飲むかごめ・・・。

水を飲み干し、柄杓を置く・・・。

水瓶の底をぼんやり見つめるかごめ・・・。


水面に自分の顔が映って揺れて・・・。


しかし背後に光る物をかごめに振りかざす奈津の姿が・・・ッ!!!


「!!」

「死ねぇえええッ!!!」


「キャアアアーー!!」


ガシャーーンッ!!!!!!!!


かごめは寸出てかわすが、奈津の奈津の母親が振りかざした刀が水瓶を真っ二つに割ったッ!!!


「奈津ちゃんのお母さん!?な・・・なんでこんな事を・・・!?」

「なんで・・・?お前の連れの男に聞いてみな・・・ッ!!今度は外さない!!!覚悟しな!!」

奈津の奈津の母親はかごめに再び長刀を薪割りをするかのように振り上げる・・・!!!


「やめろーーーーーーーッ!!!!!」


かごめを見つけた、風馬の叫び声に、奈津の奈津の母親の手が止まる。

「やめろ・・・ッ!!!目的はこの俺だろう!!!かごめには手を出すな・・・!!!」

「・・・。ふっ。何てヤワな声出してるんだい・・・。一国を守る武士が・・・。惚れた女ために命乞いかい・・・?」

「頼む・・・。そいつだけは傷つけないでくれ・・・」

祈るような目でかごめを見つめる風馬・・・。


(風馬さん・・・)


「傷つけないでくれ・・・。私もお前にそう頼んだ・・・。戦の時・・・。子供だけは助けてくれと命乞いをしたのに・・・ッ!!!!!お前は私の娘を・・・殺した・・・ッ殺したんだッー!!!!!」

「!!」


激しい奈津の母親の形相に・・・。

風馬の脳裏に蘇る・・・。



戦の中・・・。火の海の草原で・・・

『子は死ぬためにうまれてくるのではない・・・ッ!!!!』


自分の足にしがみつき、片手に少女を抱き、必死に訴える奈津の母親・・・。


風馬は奈津の母親の迫力に躊躇し・・・。刀を閉まった・・・。


”逃げろ・・・”


そう言って母と少女を見逃し、背を向ける風馬・・・。

しかし奈津の母親は転がっていた侍の死体から刀を抜き取り、風馬に斬り掛かる・・・!!

「武士など・・・地獄へ堕ちろーーーーーッ!!!!」


ザシュ・・・ッ!!!


奈津の母親の顔に飛び散った血・・・。


それは・・・。


我が子の血だった・・・。


小さな少女の体は倒れ・・・


白い霞草が赤く染まっていだ・・・。


「あ・・・み・・・。み美津ーーーーーー・・・ッ!!!」

奈津の母親は刀を放り投げ、我が子を抱き起こす・・・。

「お母ちゃん・・・。人を殺しちゃ・・・駄目・・・。お母ちゃんの白い手・・・汚しちゃ・・・駄目や・・・」

途切れるような声で少女は話す・・・。

「美津、美津!!」

「お母ちゃん・・・。うち・・・お母ちゃんの手・・・大好きや・・・。大好き・・・だいす・・・き・・・」

スッと・・・小さな手から力が抜けた・・・。

「美津・・・。美津・・・そんな目、開けて・・・美津美津・・・」

揺さぶっても起きない・・・。


「美津・・・。みつぅーーーーーーーー・・・ッ!!!!!」

火の草原に・・・。母の悲痛な叫びが・・・

響いた・・・。

母の叫びは・・・火が消えてもずっと木霊していた・・・。




「そんな・・・。そんな事って・・・」

風馬と奈津の母との過去を知り・・・。

かごめはじわりと瞳を滲ませる・・・。

「お前が殺したんだ・・・。お前達武士が・・・。!!!」

奈津の母親の瞳からも・・・悲痛な涙がこぼれる・・・。


「新だと思ったのに私だけが生き残ってしまった。死のうと思った・・・すぐ美津の後を追うと思った・・・。だけど・・・。できなかった・・・。その時・・・お腹に奈津がいたのに気づいて・・・。奈津が・・・」

長刀を持つ奈津の母親の手が震える・・・。

「家も、畑も、食べるもの何もない。どうして子など育てられようか・・・。生まれてきても地獄が待っているだけ・・・。だから死のうと思ったなのに・・・」

冷たい川に身を投じようとしたとき、自分の腹の奥がかすかに動いたような気がした。

川に一歩一歩深みに入れば入るほど何かが動く。

自分の体の中で・・・。

拒否した。

いやだ、いやだと宿った別の命が死ぬこと拒否した・・・。


自分の腹を優しく撫でると不思議と動きは穏やかになって・・・

”うまれたいのかい?こんな世でも生まれたいのかい・・・?”

返事をする様に腹の奥の命がうごいて・・・。

”わかった・・・。わかったよ・・・。お前を育てろと神様がいっているんだね・・・”


そして奈津が生まれた。

「・・・奈津が美津の生まれ変わりに思えた・・・。だから生んで育てた・・・。奈津の笑顔を見ていると・・・安らげた・・・。奈津と二人で・・・美津の分も生きようと思っていた・・・なのに・・・ッ!!!貴様が現れた・・・。私の目の前に現れたんだ・・・!!!!!」

鬼・・・。

奈津の奈津の母親はに目を尖らせ、牙に見えるほどに口を大きく開け・・・。

まるで般若の様だ・・・。

「『人を傷つけた刀でいまは人を守ろうと思っている』だ・・・?お前のその刀で何人、いや何千人の命が消えたと思っている!!命だけじゃない、笑顔も・・・ッ!!未来も・・・ッ。思い出も・・・切り裂き、踏みにじり、もぎ取っていったんだ!!!それがどんな辛いか、痛いか、苦しいか、お前に分かるか、分かるのかァアア・・・ッ!!!」

堪っていたものを一気に吐き出すように・・・。


泣き叫ぶ・・・。


かごめの胸に奈津の奈津の母親のことば一つ一つが、突き刺さる・・・。

今自分の喉元に刀が斬りつけられ、命の危険にさらされている事など忘れる程に突き刺さる・・・。


「すまない・・・。すまない・・・。俺は・・・。俺は・・・」

悔やんでも悔やんでも尽きない。


奈津の母の怒りが、哀しみを今、目の前で感じ・・・。

自分が奪ってきたものの重さを・・・。

知った・・・。


「どうすればいい・・・。どうすれば・・・」

「・・・この女の前で命を絶て・・・」

「!」

奈津の母は長刀を風馬に放り投げた。

「惚れた女の目の前で・・・。自分の腹を切れ・・・。武士なのだろう・・・?武士らしい最後を遂げてみろ・・・。お前の死に様を見届けてやる・・・」

風馬は長刀を手に取る・・・。

「やめて!!風馬さん。やめてぇ!!!」

「最後に一つだけ約束して欲しい・・・。その女だけは生かし・・・どこかの村に連れていって欲しい・・・。記憶がない女なのだ・・・」

「ふん・・・。そんなこと私の知ったことではない・・・。私の望みはお前の命・・・。さっさと腹を切れ!!!切れ、切れ、内蔵も血も皮も皆斬って、引きちぎれッ!!!!!」

体の中の憎悪を激しい言葉に代えて風馬にぶつける・・・。

風馬にはどんな刀より痛い『刀』だ・・・。


「風馬さん、お願いやめてぇ!!こんなことしてって誰も喜ばない!!何もならない、誰も救われないわッ!!お願いやめてぇええ!!」

「うるさい黙れッ!!」

かごめは叫ぶがガッと奈津の奈津の母親に口を塞がれてしまう。

「かごめ・・・」


かごめの声も気に掛けるが・・・。


風馬は上着を方半分脱ぎ・・・。


刃先を腹に突きつける・・・!!!


(風馬さんーーー・・・ッ!!!!)


「フーマお兄ちゃん。何してるの?」

奈津が・・・。


小さな両手が、刀の刃先を掴んで止めた・・・。

「奈津・・・!お前・・・」

「フーマのお兄ちゃん、イタイイタイ、事しちゃ駄目だよ・・・」

「奈津!その男から離れるんだ!!離れろッ!!」

「・・・」

奈津は母に振り向き、ゆっくりと近づく・・・。

「お母ちゃん。かごめお姉ちゃん・・・」

奈津は怖い顔の母をじっと見上げる・・・。

「はい・・・」

着物の中から奈津がとりだしたのは・・・。


一本の霞草だった・・・。

「お母ちゃん、今日ね、あたしが摘んできたの。お母ちゃんが好きな花だよ・・・。だから怖い顔・・・やめよう・・・。お願い・・・。お母ちゃん・・・」


「奈津・・・」


「あたし・・・お母ちゃんの笑った顔が大好きだよ・・・」

”あたし・・・。お母ちゃんの笑った顔がすき・・・。だから泣かないで・・・”


重なる・・・。


あどけなく笑う我が子・・・。自分が奪ってしまった命・・・。


宝だった。自分の分身・・・。


笑っていた、いつも・・・。


「み・・・つ・・・」

「お母ちゃん・・・?あたし奈津だよ・・・」


「美津・・・。美津、美津・・・すまない・・・ごめんよ・・・痛かっただろう・・・。ごめんよ・・・ごめんよ・・・」


奈津を抱きしめ・・・。


声を枯らせて泣いて・・・謝って・・・。


幾ら泣いて謝っても美津は帰らない・・・。


でも・・・。


腕の中に在る我が子の・。


笑顔は本物だ・・・。

「お母ちゃん、私奈津だよ・・・。まぁいいか。奈津でも美津でも。あたし、お母ちゃんだあいすき・・・」


美津というのが誰の名なのか、どうして母は泣いているのか・・・。

何も知らない奈津・・・。

だけど大好きな母に抱かれ、とてもとても・・・。

幸せそうに笑った・・・。


「奈津ちゃん・・・。お母さん・・・」

抱きしめ会う母娘をの姿に・・・。


かごめは・・・。


二人がとても・・・。


小さく・・・そして愛しい・・・。


その二人を両手で包み・・・。抱きしめる・・・。


「あ、カゴメお姉ちゃんも抱っこ?嬉しいなッ」


「・・・うん・・・。嬉しいね・・・。だから・・・。いっぱい笑おうね・・・」


そう・・・


ただ一緒に泣いて・・・。


泣いて・・・。


笑おう・・・。


それが霞草の願いだから・・・。



朝日が昇る・・・。

かごめと風馬を乗せた彗が湖の畔を歩く・・・。

砂浜に蹄の後がついて・・・。

かごめ達は奈津達に何も言わず寺を去った。

かごめの手には霞草が・・・。


「・・・」


「・・・」

寺を出てから何も喋らないかごめと風馬。

「かごめ・・・。すまない・ 。俺の過去にまた巻き込むようなことになって・・・」

「・・・」

「・・・怒っているのか・・・。やはりお前を連れていくのは危険かもしれん・・・。あの母娘も俺のせいで・・・」

キッと風馬を睨むかごめ・・・。

「風馬さん、私、怒ってるんですよ!」

「すまない・・・。お前を巻き込んで・・・」

「そうじゃないです。風馬さんが死のうとしたこと・・・」

かごめと風馬は彗から降り、砂浜に座った・・・。

「私、ホントに怖かったんだから・・・っ。私の目の前でお腹に刀突きつけるなんて・・・!!どれだけ怖かったか・・・」

「・・・怖い・・・?な、何故だ・・・」

「とにかくもう絶対、絶対にあんなことしないでくださいね・・・!分かりました??」

風馬に顔を近づけて詰め寄るかごめ・・・。

「・・・しょ、承知した・・・」

「絶対ですよ・・・。佐助さんのためにも・・・。奈津ちゃん達親子のためにも・・・。たった一つしかない命を・・・。自分勝手に断ち切っちゃ駄目・・・」

「・・・。かごめ・・・」


霞草を見つめながら話すかごめ・・・。

真っ白な霞草に込められた願い・・・。


それはかごめが風馬に願うことと同じだ・・・。


「でもかごめ・・・。俺は・・・。この手で、刀で幾つもの尊いものを奪ってきた事実に変わりはない・・・。命だけじゃない・・・あの奈津の母親が言っていたとおり『未来も思い出』も全て握りつぶしたんだ・・・。幾多の人の『生』を・・・踏み台にして俺は今ここに居るんだ・・・。俺は・・・俺は・・・っ」


自分への怒りを砂に打ち込み、金色の砂が舞い上がる・・・。

何度も何度も打ち付けて・・・。

砂だらけの風馬の手の砂をそっと払い、霞草を握らせる・・・。


「私も・・・奈津ちゃんと同じ願いです・・・」


”泣かないで・・・。あたし、お母ちゃんの笑った顔、だあいすき”


「かごめ・・・」


どうしてだろうか・・・。

かごめの微笑みが胸の奥を捕らえて離さない・・・。


氷をゆっくり溶かす春の陽の様に・・・。


朝日が輝く浜辺で・・・。



地面に這い蹲ってくんくんと鼻を効かせる犬夜叉。

「犬夜叉!どうだ?かごめ様の匂いは・・・」

「駄目だ・・・。途中まではしてたのにここで切れちまってる・・・」

目の前は川・・・。

かごめの匂いは途切れてしまった・・・。

「只でさえかごめ様達は移動している上に、かごめ様達の行き先も分からないんじゃ・・・。犬夜叉の鼻だけが頼りなんだけど・・・」

「けっ。俺の鼻を信用しろッ。珊瑚。かごめを見つけだす・・・!ん・・・?」

何だか生意気なムカツク匂い。

狼の・・・。

「あ、あのつむじ風は・・・」

突風の中から登場の鋼牙。

「おう・・・。犬っころ。相変わらずムカツク匂いさせやがって・・・」

「うるせえッ。てめぇこそなんでいッ!!かごめにちょっかいだしにきたんなら覚悟しやがれ!

早くも爪を立て、狼を威嚇。

「そのかごめはどこいった!?かごめの匂いがしねぇから心配になってきてみちゃいねぇじゃねえか!!」

「・・・う、うるせえッ。お前には関係ねぇだろ!」

睨み合う犬と狼。喧嘩、一瞬触発・・・。

「ともかく鋼牙も犬夜叉も落ち着きなさい。詳細は私が話そう。鋼牙。お前にも協力を願いたいからな・・・」

シャンッ!

錫杖を鳴らし、犬夜叉と鋼牙を落ち着かせる弥勒だった・・・。



・・・そろそろ犬一行がかごちゃん達に追いついてもいいんじゃないか思われるかもしれませんが(滝汗)もう少しかごちゃんと風馬の交流を書いてみたいので・・・