第8話 金色の髪 紫の瞳 弥勒は、かごめが記憶をなくし、行方が分からなくなっていることを鋼牙に話した。「犬っころ・・・!!てめぇ、かごめをそんな危険な目にあわせやがって!!側にいて何してやがったんだ!!」 犬夜叉の着物の襟を掴む鋼牙。 「やましいッ!!てめぇにゃ関係ねぇつってんだろッ!!」 「何ィ!!やるか、犬っころ!!」 シャンッ!! 二人の間に錫杖を割り込ませて喧嘩仲裁する弥勒。 「これこれ。喧嘩してる暇などないでしょう。というわけだ。鋼牙。お前もかごめ様を捜してくれ」 「へっ。言われるまでもねぇ・・・!てめぇらにまかせておかるか!!」 「待て鋼牙。かごめ様は記憶をなくされている・・・。くれぐれも慎重にな」 「・・・。ふん・・・。犬っころじゃあるまいし・・・。とにかくかごめは俺が必ず見つける!!」 ビュンッ 威勢のいい言葉を残し、鋼牙のつむじ風はあっという間に森の向こうに消えていった・・・。 「ねえ・・・。法師様・・・。どうして『風馬』って奴の事言わなかったの?『助けられた人間と一緒』ってだけしか・・・」 「男と二人きり・・・だなんて言ったら話しがややこしくなるでしょう。ほれ、現にここに一人。ややこしい奴が・・・」 もう行ってしまった鋼牙に足で砂掛ける犬夜叉。 「けっ。かごめが俺が見つけるってんだ!」 ややこしい奴に更に七宝のややこしい一言が・・・。 「はぁ・・・。今頃かごめはどうしとるじゃろうなぁ・・・。『風馬』とかいう男と仲良くしているんじゃろうか・・・」 バキッ! 「何をするんじゃ!!」 「うっせえッ!ふんッ!!」 かごめがいないから珊瑚に泣きつく七宝・・・。 腕を組んでふてくされる犬夜叉を見て珊瑚は一言。 「・・・ホント・・・。ややこしいね・・・」 かごめを一刻も早く助けたい・・・。 他の男と今も一緒にいる・・・。 そう思うと自分でも嫌な程、苛立つ、落ち着かなくなる・・・。 かごめが他の男に笑い掛けていると思うと・・・。 「・・・ええいくそッ!!!おいッ弥勒達、行くぞッ!!!」 一分でも1秒でも・・・。 かごめの笑顔に会いたい犬夜叉だった・・・。 ※ 小さな滝。小岩に落ちてきた水が跳ね、水しぶきが風馬の背中にあたる。 上着を脱ぎ、体を拭く・・・。 戦で鍛えられた体・・・。 程良く筋肉がつき、広い背中には戦で受けた傷がまだ生々しく残って・・・。 パサ・・・ッ。 一つに束ねていた髪をおろす・・・。 水に頭をつけ、髪を水面つける・・・。おなご両手で髪を撫でるように洗う・・・。 「ふう・・・」 長い髪・・・。茶色の髪は太陽の光でオレンジに見え・・・。 「風馬さん、沢山薪取れて・・・きゃあッ!!」 ガラガラガラッ。 槇をとってきたかごめ。、風馬の裸に驚いて、拾ってきた薪を落としてしまった。 後ろ向いてしゃがみ、薪を拾う・・・。 「ご、ごめんなさいッ。まさか水浴びしてるなんて思わなくて・・・」 「別に気にすることはない・・・」 気にすることはないと言われても、かごめはやっぱり気にする。 「岩魚とった。昼にしよう」 パキ・・・。 川の 枯れ枝に刺した岩魚が焼けていい匂い・・・。 しかしかごめが気になっているのは風馬の髪の色・・・。 「そんなにこの色は珍しいか?」 「えっ。あのそんなことは・・・」 「昔、この髪の色と目の色でよく『半妖』か・・・なんて言われたな・・・ほら、焼けたぞ」 風馬は焼けた魚をかごめに渡した。 「半・・・妖・・・?」 『半妖』という言葉になんとなく反応したかごめ。 「あの・・・。髪の色は生まれつきなんですか・・・?」 「ああ・・・。子供の頃はそれが嫌で髪を黒い漆で染めていた・・・。俺の母親はそんなことやめろって言っていたけどな・・・。金の髪の色をした異国の人間の母が・・・」 「えっ・・・?」 魚を食べていたかごめの手が止まった。 「海に打ち上げられた異国の女・・・。武将だった俺の父が助けそして俺が生まれた・・・。ま・・・俺の子供の頃の話なんて面白くない・・・。やめよう」 「そんなことありません。私・・・。知りたい・・な。教えてもらえるならですけど・・・」 「・・・面白くないぞ。本当に」 「面白いです。きっと・・・」 かごめがあんまりにこっり笑うから・・・。
そんな何気ないことで笑うから・・・。
風馬は自分の幼い日々を話し続けた・・・。 いつの間にか夕方になり・・・。 ずっと話を聞いていたかごめはいつしか眠ってしまった。 そっと藍色の自分の上着をかごめに着せる・・・。 (・・・!) 何か、物が動く気配を感じた風馬。 刀を腰に添え、かごめを守ろうと盾になるように身を構えた。 カサカサ・・・ッ。 暗闇から草の上を歩く音が・・・。 (妖怪か盗賊か・・・。だが相手は単体だ) 戦で培った鋭い感覚が働き、相手の人数、大きさが把握できた。 カサ・・・ッ。
火がついた薪で暗闇を照らすと・・・。 「わぁ・・・こ、殺さないで。殺さないで・・・っ」 「お前は・・・」 火の灯りの中に見えたのは、金の髪の色をした幼い少年だった・・・。 一瞬、半妖かと思ったが、よく見ると人間だった。 刀を収め、少年に駆け寄る風馬。 「こ、怖いよ・・・。殺さないで・・・」 震え、しゃがみこむ少年・・・。 よく見れば、少年の手足は棒の様に細く、顔も頬の骨の輪郭がうっすらわかるほどやせ衰えていた。 (戦で生き残ったのか・・・。親とはぐれたのか・・・。ともかく何かを食べさせなければ) 「風馬さん、その子・・・」 目が覚めたかごめ。 心配そうに少年を抱こうとし が 「ひゃッ・・・」 と、肩をすくめて怖がった・・・。 「すごく怖がってる・・・」 風馬は少年の髪をそっと撫でた・・・。 「大丈夫だ・・・。俺は敵じゃない・・・。大丈夫だ・・・」 髪をそっと撫でられ少しずつ震えがおさまる・・・。 「昔・・・母にこうしてもらったんだ・・・。そうすると不思議と落ち着いた・・・」 優しく 優しく 撫でる・・・。 でも一番優しいのは風馬の瞳だとかごめは感じた。 かごめ達が敵ではないことがわかると少年は、風馬が与えた焼き魚をむさぼってあっという間に食べた。 「よっぽどお腹が減っていたのね・・・。まだお魚ならあるよ。食べる?」 胡座(あぐら)をかいた風馬の足にちょこんと座り2匹目の魚を平らげた。 「ふふ。よっぽどそこが気に入ったのね。ねぇ・・・貴方お名前は?」 「・・・オラには名前・・・ない」 「え?」 「オラ・・・。この国の人間じゃないから。名前、ない」 「なら・・・『星』(セイ)は嫌か?あの空で光っている星の事だ」 風馬が指さした方を少年は珍しそうに見上げた。 「どの星?あれ?それともそっちの?」 「全部だ。みんな一つ一つ光っている。一生懸命に。だから俺は星が好きなんだ」 「・・・うん。オラも星・・・スキ。だからオラの名前、『星』でいい。それでいい」 少年は嬉しそうに体を揺らした。 少年、星(セイ)は、生まれたときから今までの事をかごめ達に全部話す。 自分は異国の母と武士の間にできた子供で、母は自分を生んで間もなく亡くなり、父親に捨てられたこと。 それから村々を点々とたらい回しにされてどの村にも馴染めなかったこと・・・。 哀しく重い話なのに、無邪気に話す少年。 風馬 「ふふふ・・・。そうしてると何だか風馬さんと『星』ちゃん、親子みたいだね」 風馬と星は互いに顔を見合った。 「・・・かごめ。俺はまだそんな年ではないぞ」 「ふふっ。りっぱなでも優しい『お父さん』に見えますよ」 「りっぱりっぱ」 星は風馬の膝で小さくジャンプした。 「お前までか。ふふっ。まぁ、いいか・・・」
次のから風馬とかごめ、そして星は行動を共に仕始めた。 風馬は星に色々な事を教え始める。 魚釣り、自分で獣を取るための剣術や罠のかけ方。 怪我をした時のために薬草・・・。 短い間に色々な事を教える。 星が一人で生きていけるように。 どこにも自分の居場所がないのなら、自分で見つけるしかない。 探すしかない。 探していく術を・・・。 自分が父や母から教わったように。 森の中で。 木の棒を星に持たせ、風馬はかまえる。 「怯えるな、自分の身は自分で守る、生きていくためには力が必要だ。自分に負けるな、思いっきりかかってこい!!」 「でやあぁあッ!」 星は風馬に何度も何度も向かっていった。 倒されても倒されても・・・。
風馬と星は風呂に入った。 そして風呂上がりの二人が廊下を歩くとをチラッと女中が二人の髪をじっと横目で見た。 まるで珍しい物を見るような目で・・・。 風馬も星ももう慣れている・・・。好奇な視線にも。 障子戸をあけ、かごめがひょこっと出てきた。 「おーい。風馬さん。星ちゃん、夕食だよ」 部屋にはお膳に白米と煮物などが並べられていた。 「うわぁ・・・。すっげぇ!」 星はお椀ごとほおばる程に、 あっという間に平らげた。 「ぷはーっ・・・。うまかったぁ・・・」 「そうか。それはよかった。こんな美味しい飯、また食べたいか?」 「うん。食べたいよ!」 風馬は神妙な面もちで箸を置き、星の目を見据えた。 「・・・。なら、この家に子供に・・・なれ」 「えっ・・・」 星もかごめも風馬の突然の発言に驚く・・・。 「・・・この宿の主人は俺の古くからの知り合いだ。もう話はつけてある。」 「ど、どうしてそんな事言うの!?オラ・・・。ずっとみんなと一緒っておもってたのに・・・!」 「・・・それがお前のためだからだ」 「オラ・・・オラ・・・ほんの少しだけど強くなったよ!敵が来ても怖くない、オラの事を馬鹿にする奴がいてもやっつける!どうせ、どんな村にいたってオラは除け者なんだ!だからオラも連れていって・・・!」 風馬の着物をギュッと握って必死に訴える・・・。 風馬は小さな星の手を優しくつつんだ・・・。 「・・・。星・・・。いいかよく聞くんだ・・・。自分の事を誰かに分かって欲しいときは・・・。まず相手の事を信じる事だ・・・。そうすれば自然と相手もお前を分かろうと、信じてしてくれる・・・」 「そんな筈ないさッ!どうせオラなんか・・・!物珍しいってだけで何の役にもたたないって・・・。みんなそう思ってるんだ!」 星の脳裏に今までの辛い経験が蘇る・・・。 人に売れら、売られた先でまた売られ・・・。 小さな瞳にみるみる涙がにじんだ。 「男が泣くな・・・。髪の色がなんだ。瞳の色が・・・!いいか・・・。星・・・。これだけは忘れるな・・・。人を信じる事を忘れるな・・・。どんなに辛くても寂しくても・・・」 風馬は自分の想いを込めて幼い星を抱きしめた・・・。
早朝・・・。 「フウマおとう!!どこ!?どこ!?」 長い廊下をバタバタ走って宿の中じゅうかごめと風馬を探し回る。 「どうして・・・。どうして・・・!」 裸足で外へ飛び出し・・・。 田園のあぜ道をひた走る・・・。 「わッ」 小石に躓き足を擦りむく・・・。 「痛い・・・痛いよ・・・」 痛さと置いて行かれた寂しさからじわりと涙がこぼれそうになる。 ”何度転んでも起きあがれ!自分の負けるな・・・!” 風馬の言葉が・・・震える心に浮かぶ。
”信じる事を忘れるな・・・”
土で汚れた手で涙を拭う・・・。 頬に土がついている・・・。
だけど星はの瞳は・・・。 とても力強い瞳だった・・・。
切り開かれた細い山道をゆっくり歩いていた・・・。 「風馬さん・・・。どうして星ちゃんに黙って・・・」 「・・・。星は・・・。辛い思いをした分、人と人との交わりの中で生きていくことが・・・必要だ・・・。自分だけしか信じられない様な大人になる前に・・・」 「風馬さん・・・」 風馬が自分の幼い頃と星を重ねている事をかごめはずっと感じていた。 どのように風馬が育てられ、そしてどんな子供時代だったのかも・・・。 「風馬さん。また・・・会い・・・ううん。迎えに行きましょう!星ちゃんに!」 かごめは満面に微笑んでいった。
風馬は一瞬、切ない微笑みを浮かべた。 (風馬さん・・・?) 「・・・っ・・・」 突然、風馬が少し顔を痛そうに歪ませた。 「風馬さん?どうかしましたか?」 「いや・・・。何でもない。気にするな。それより何だ向こうから来るつむじ風は?」
木々をなぎ倒し、かごめ達の目の前に現れた鋼牙・・・。 「・・・やっと見つけたぞ・・・。かごめ・・・!」 しかしかごめには自分の名を呼ぶ男は見たこともない・・・。 |