「姐さん!一緒に来てください!!鋼牙の兄貴が怪我して・・・!」
「わかった・・・!待ってて。今すぐ準備するから!」
かごめは急いで救急箱とリュックを持って小屋を出ようとした。
が・・・。
「ホントに鋼牙の野郎、怪我なんかしたのかよ?」
と、腕組みをし入り口に仁王立ちしてかごめ達を阻む男、一人。
かごめ出発阻止する犬夜叉。
「ほ、ホントだよ!鋼牙の兄貴、もう5日間も意識なくて・・・」
「けっ・・・。狼の癖に弱ちぃ野郎だぜ。怪我ぐれぇで・・・」
「犬夜叉、おすわり」
「ぐえッ」
かごめ、犬夜叉トラップを見事突破し、雲母に乗って鋼牙の所に向かっていった・・・。
「ああ、お茶が上手いですなー・・・」
「かごめちゃんの国お菓子ってホントおいしいね」
「オラ、『ぽてとちっぷ』が好きじゃ!」
入り口で一人つぶれている犬夜叉をよそに、土間でくつろぐ弥勒達。
「おい・・・。てめーら・・・」
「おお。嫉妬犬が何か言ってますよ」
「ばっ。誰が嫉妬犬だーーー!!!」
「嫉妬深い犬ほどよく吠えるっていうね。七宝」
「そうじゃな」
ポリポリ・・・。
犬夜叉の頭の上でポテチをほおばる七宝。
「どうした?犬夜叉。かごめをおいかけんのか?」
「誰がおいかけてるってんだ!!」
「犬夜叉に決まっとろうが」
バコン!
「うわ〜ん・・・」
七宝、ポテチをぶんどられ一発くらう。
「俺はそんな嫉妬深い男じゃねぇッ!!ふんッ!」
すっかりご立腹の犬夜叉はわめき散らして楓の小屋を跡にした・・・。
「あいつ以上に嫉妬深い奴はいませんよねぇ。珊瑚」
「法師様以上にスケベな奴もいないけどね」
弥勒、茶をズズッとすする。
「・・・。は〜・・・。茶がうまいなぁ・・・」
弥勒達はいつもの事だ・・・と特に気にもかけなかったが、この後、意外な表情で犬夜叉を見ることになるのだった・・・。
ゴー・・・。
激しく流れる滝。
その岩場にあざだらけの鋼牙が倒れ、その側でかごめが包帯を巻いて介抱していた。
「かごめ・・・。お前・・・どうして・・・」
「鋼牙君がひどい怪我してるってきいて・・・」
「ふんっ・・・。彼奴ら余計なことしやがって・・・」
「でもどうしたの?この怪我・・・」
「・・・。七人隊との怪我がひびいちまって・・・。でも大丈夫だ、こんなもん・・・」
鋼牙は無理に起きあがろうとした。
足に激痛が走る。
「うあっ・・・」
「だめよ!まだねてなくちゃ・・・」
「犬っころじゃあるまいし・・・。いつまでも寝てられねぇ。う・・・」
鋼牙の体が熱いのに気付くかごめ。
「熱あるじゃない・・・!」
「平気だ。こんなもん・・・」
かごめは制服のスカーフを急いで水でしぼり鋼牙のおでこにのせた。
「安静にしなくちゃ!熱ってね、今、体が傷と闘ってるって証拠なの。だからじっとしてなくちゃ・・・」
そしてスカーフで汗をぬぐう。
「・・・。やっぱりかごめ、お前って不思議だな・・・」
「え?」
「お前に休んでろって言われたらなんかしたがっちまう・・・」
「鋼牙くん・・・」
何だかちょっと良いムード・・・。
その様子を滝の上から、今にも頭から蒸気をあげて怒っている男・・・。在り。
(畜生・・・!!鋼牙の野郎・・・!弱チィとこばっか見せてかごめの気を引こうとしてやがるな・・・!!)
自分で嫉妬深くないと言っておきながら、やっぱりかごめと鋼牙が二人きりだと思うと、じっとしていられなかった犬夜叉。
岩場に身を潜めて、二人の様子をうかがう。
「へっ・・・。きっと今頃、犬っころ、かごめがいなくてイライラしてやがるだろうぜ」
「いつもの事よ」
(誰がいつもの事だーーーー!!)
いつもの事である。
「鋼牙君、少し眠ったら?あたしもう少しいるから」
「へっ・・・。眠りたくても眠れねぇよ。妖怪ってのはいつ何時襲ってくるかわからねぇからな・・・。気は抜けねぇんだよ・・・」
熱のせいで鋼牙の息が荒い・・・。
かごめは暖まったスカーフを冷やし、再び鋼牙の額に乗せた。
「妖怪っていうのも大変なんだね・・・。常に自分より強い妖怪にやれないかって命はらなくちゃいけないなんて・・・。辛いんだね・・・」
「やっぱりかごめ、お前、不思議な奴だ・・・。妖怪を気遣う人間なんて・・・。お前が初めてだ・・・」
見つめ合う二人。
頭上の男は岩にかじり付いて、声を殺して暴れている。
(何、見つめあってんだーーー!!離れろーーーッ!!)
だったら、下に降りて二人の間に割って入ればいいものを、犬夜叉は隠れた所ですったもんだしている。
そんな犬夜叉がいることに全く気がつかないかごめと鋼牙は何だかさらに良いムード。
「俺はずっと妖狼族の頭だった・・・。仲間は沢山いたが、俺をしかったり、反対に気遣ったり・・・。対等に扱ってくれたのはかごめ、お前が初めてだ」
「鋼牙君は一人じゃないよ」
「え?」
「怪我した鋼牙君のためにあたしを呼びに来てくれた二人・・・。いっつも鋼牙君が先に行ってしまっても後についてきてくれる仲間がいるじゃない」
四魂のかけらを埋め込んだ足でいつもものすごいスピードで走っていた鋼牙。
その後をずっと奈落目指してついてきていた。
どれだけ先に進んでも・・・。
「アイツらか・・・。へん・・・。俺がいねーとすぐやられちまう。しょーのねぇ奴らだ・・・」
「でも鋼牙君にとっても『しょーのない』大切な仲間・・・でしょ?」
「ふっ・・・。まあな」
「仲間って・・・いいね・・・。ふふ・・・」
かごめは優しく鋼牙に笑いかけた・・・。
ズキンッ・・・。
犬夜叉の胸に、今まで感じたことのない痛みが走った・・・。
なんだ・・・?この・・・。
キリキリした・・・。
何かが破裂したような痛みは・・・。
そして同時に感じる・・・。
ズキンッ。
かごめが鋼牙に笑いかける度、痛む。
痛んでそして・・・。
言いようのない不安な気持ちが波のように襲ってくる・・・。
自分だけに向けられていた筈あの笑顔。
自分だけのものだといつの間にか当たり前に思っていた・・・。
傷ついた者を包む毛布のように柔らかくて暖かい笑顔。
それを今、他の男に向けられて・・・。
“鋼牙が死ぬほど妬ましい・・・!”
(!)
心の奥から聞こえてきた。その言葉。
自分でも嫌なくらいにはっきり感じた・・・。
(いつから俺は・・・。こんな・・・)
子供の様なやきもちじゃない。
もっと黒くて重くて、ドロドロした感情・・・。
かごめが他の男に笑いかけるだけで、体中の血が逆流する。
いつから自分はこんな奴になったんだ・・・。
やりきれない気持ちになる・・・。これ以上、あの二人を見ているのが辛くなった犬夜叉。
逃げるように、滝を後にした・・・。
「・・・。犬っころ、いっちまいやがったか・・・」
「え?犬夜叉が何?」
「いや、何でもない。それよりかごめ。お前はもう帰れ」
「えっ・・・。でも・・・」
「俺はこのザマだ・・・。もし今、奈落の妖怪共でも来たら、お前を守り切れるかわからねぇ・・・」
「鋼牙君・・・。でもそれじゃ鋼牙君が・・・」
「俺には“しょーもない”仲間がいるからな・・・。気にすんな」
草原で、二人に気を使って隠れていた鋼牙の弟分達がひょこっと顔を出す。
「姐さん、後は俺たちに任せてくれ」
「・・・わかった。そしたらね、血がまだとまらなかったらこれ、巻いてあげてね」
かごめは鋼牙の弟分に包帯を手渡す。
「じゃあ、鋼牙君、安静にしていてね」
「すまねぇな。かごめ。助かったぜ」
「じゃ・・・」
かごめは雲母にまたがった。
「かごめ」
「何?」
「犬夜叉に言っときな・・・。俺は抜け駆けなんてまねはしねぇから安心しろ。隠れるなら場所考えろってな」
「?」
かごめは意味がわからず首を傾げる。
「とにかく、そう伝えな」
「うん。わかった。じゃあね。鋼牙君」
足の傷がまだ痛む鋼牙・・・。
かごめの帰っていく後ろ姿を見つめながら・・・。
いつの間にか眠っていったのだった・・・。