村長の家に宿をとらせてもらうことにしたのだが、村に入る前、やけにしつこく、 「お前さん達、病にかかっておる人間はおらんな?」 と聞かれた。 弥勒が「皆、死ぬほど腹をすかせております故、健康そのものです」と言ったくらい。 犬一行は村長の家に宿をとることにしたのだが、村長からあることをきつく言われた。 「村はずれのあばら屋だけには絶対に近づかないように。近づいたものは二度と村には入れられない」 何故かと理由を聞くと・・・。 しかし、そう言われるとどうしても行きたくなるのが人間である。 畳の客間で眠っていたはずのかごめ。 しかし布団の中はもぬけのからで廊下で、見張りをしていた犬夜叉の姿もなかった。 「・・・。先を越されてしまいましたな。お二人に・・・」 「オラも行こうと思っておったのに」 「そうだね・・・。あたしもこっそり行ってみようと思ったけど、やめた。帰ってきたらかごめちゃんに聞こうっとふあ・・・」 「ならば見張り役がいないとなれば、私がせねばなりませんな」 珊瑚が部屋に戻ろうとすると何故か弥勒もついてくる。 「・・・。法師様。ここから先一歩でも入ったら、その綺麗な顔にビンタの花が咲くよ」 障子の溝を指さしていった。 「・・・。咲きたく無いなぁ。あははは・・・」 いつもの調子の弥勒と珊瑚。 「ったく・・・。お前の好奇心に付き合う身にもなってみろ」 「だあって・・・。すっごく気になるじゃない・・・。それにしても・・・
。一体ここに何があるっていうのかしら・・・」 屋根は腐り、穴だらけ。 薄暗く、かなり臭う・・・。 「うげ・・・。単なるごみ場じゃねぇのか・・・?」 「そ、そうかな・・・。う・・・」 かごめも犬夜叉も思わず鼻と口に手を当てる。 二人が出ようとしたとき。 カサカサッ・・・。 角に山積みにされた藁が微かに動いた。 「何かいる・・・」 「妖怪か!?」 犬夜叉は思わず、鉄砕牙に手を掛ける・・・。 子供の掠りきれるようなうめき声がかすかにきこえた・・・。 かごめはそうっとに近づき、藁をかきわけてみると・・・。 「いた・・いよ・・・」 更にボロボロの着物したの手や足には無数の赤い小さな水疱状の斑点がぷちぷちとできて、爪の先は緑色に変色し腐りかけている・・・。 体中の皮膚は水疱によって赤くただれ、。見た者すら全身に一瞬にして湿疹がバアッと広がる様な強烈な不快感を催す・・・。 目を覆いたくなるような少女の有様・・・。 激しい痒みで朦朧としていた少女。かごめの温もりに気がつき、半開きな瞳でかごめを見つめた・・・。 “絶対にあのあばら屋には近づくな!命がおしかったらな!” 村長の言葉を思い出す。 かごめは激しく怒りを感じた。 「ねぇ犬夜叉・・・。この子を・・・楓おばあちゃんの所に連れて行きましょう・・・!何か良い薬があるかもしれない!」 「うん・・・!」 しかし!犬夜叉達があばら屋を出ようとしたその時! 犬夜叉はかごめと少女をすばやく抱えてジャンプして屋根に乗った! 「何いってやがる!!このガキがどうしたってんだ!!」「!」 痒みに絶えるのも疲れたのか寝息をたてていた・・・。 「・・・。どうして誰も手当しなかったの!?ひどすぎるじゃない!!」 「娘さんよ・・・。その小娘はな・・・。ひでえ病にかかっとるんじゃ!!村の子供が2人やられたじゃ!!」 「!」 何言ってるの・・・。 「旅の人、あんたらには申し訳ないが、小梅に触れたんならあんたらも生かしちゃおけねぇ!!!小梅ごと、やっちまえ!!」 「雲母!!!」 珊瑚はウィンクした。 「な、なにすんだ!!」 「お前らな・・・。これ以上妙なことしてみやがれ・・・。容赦しねぇぞ!!」 「う、うるせえ!!妖怪野郎には関係ねぇ!!」 村の男が槙を犬夜叉に振り上げた。 「およしなさい。犬夜叉に殴りかかったら貴方こそ命はありませよ」 弥勒が男の手首ををグッとつかんで投げ飛ばした。 村人達の前に・・・。 少女を抱いたかごめを守るように犬夜叉一行が立ちはだかる・・・。 「けっ・・・。俺らはな、頑丈にできてんだ・・・。ちっとやそっとじゃしなねぇんだよ。なあ弥勒?」 でもその眠る顔はまるでお地蔵の様に慈悲深く優しい寝顔だ・・・。 「病気でもおかあさんって・・・。必死に生きようとしてるのにどうして助けてあげないのよッーーー!!!!!」 泣き叫ぶかごめ・・・。 「てめぇッ!!!」 「・・・。もう大丈夫よ・・・。痒いのなんてすぐ治るからね・・・あたしが必ず貴方を助けるからね・・・。」 かごめはそう何度も呟きながら少女を抱きしめる・・・。 泣き叫んだかごめの必死の訴えは・・・。 空しく・・・。
「理由などないわ!!命が惜しかったら絶対に近ずかんことじゃな!」
一方、犬夜叉とかごめは村長の話の村はずれのあばら屋に来ていた・・・。
甘酸っぱい水が腐った様ななんとも言えない強烈な悪臭が特に犬夜叉の鼻をつらぬく。
暗い中に入っていくと、中は湿っぽい藁の山。
「ほら・・・。やっぱりごみ場だぜ・・・。は、早く出ようぜ・・・う・・・」
「う・・・うぅ・・・かゆいよ・・・。痛いよ・・・」
「・・・誰?だれかいるの・・・?」
「ヒッ・・・」
かごめも犬夜叉も言葉を一瞬にしてその有様に失った・・・。
横たわる小さな女の子・・・。
顔は痩せこけ、皮膚の下の骨の形がむき出しで・・・。
更に赤い水疱の中心部分は、ふやけて黄色いドロッと汁が出て・・。
さらにその赤い斑点は顔中にも出来て、それ掻きむしった後なのかひっかいた爪の後が痛々しく残っていた・・・。
「カユイ・・・イタイ・・・」
少女は激しい痒みのに絶えられず、血だらけの小さな手で背中や足を掻きむしろうとしていた・・・。
「・・・」
かごめはあまりに酷い状態に声もでず、ただ、震える手でおかっぱの少女の髪に触れた・・・。
「!」
水気のない少女の髪はかごめがすこしすくっただけでごっそりと抜け落ちる・・・。
「・・・」
耐え難い衝撃と痛みがかごめの全身に走る・・・。
感情を一瞬、失ってしまうようなショックで少女の髪に触れる手は・・・。
震えた・・・。
パサッ。
「・・・それ・・・着せてろ・・・」
掻きむしる痛々しい体を包むように犬夜叉は自分の衣を脱ぎ少女に掛けた・・・。
かごめは衣ごとそっと少女を抱き上げる・・・。
「・・・。オ・・・かあ・・・?」
「・・・お・・・かぁあ・・・?どこ・・・?おかぁ・・・かゆいよ・・・」
赤い水疱状の斑点が顔中にできて、少女がどんな顔なのかもわからない。
ただ、母を求める小さな手をかごめはきゅっと握った・・・。
「・・・どうしてこんな・・・。村の人達はどうしてこの子をこんなになるまでほおっておいたの・・・?どうして・・・」
この瀕死の少女のせいなのか・・・?
だったらなんて非情な村人だろう・・・!
「そうだな・・・。急ぐぞかごめ!」
「かごめ、危ねぇッ!!」
ボウッ!!!
突然、火のついたたきぎが飛んできた!!
なんと、あばら屋を火がついた槙をもった村人達が方位しているではないか・・・!
「なんだ、おめえらは!!」
「おめえたち・・・!!あれほどこのあばら屋に近づくなと言ったのに!!」
犬夜叉の衣に包まれかごめに抱かれる少女・・・。
「だから、このあばら屋事燃やすしかないんじゃ・・・!!」
「なっ・・・」
可愛い寝息をたてて眠る少女・・・。
この少女をこの小屋ごと燃やす・・・?
何言ってるの、何言ってるの!!!
何言ってるの!!!!
腹の底から激しい怒りがかごめの体を駆けめぐった。
「何言ってるのよッ!!!!馬鹿なこと言わないでよッ!!!この子はまだ生きてるのよっ!!こんな可愛い子の命を奪うなんて絶対に許せないッ!!!!」
かごめの気迫に村人達は一瞬たじろぐが・・・。
ヒュン!!
炎のついた槙がかごめと犬夜叉目がけて飛んできた!!
「しゃらくせえッ!!!」
犬夜叉は鉄砕牙を一降りして飛んでくる槙を真っ二つにした!!
しかし、一本の槙があばら屋に火を付け、小屋が燃え始めた!!
「きゃああああーー!!!」
屋根が崩れ、かごめは火の中へ・・・。
「かごめッーー!!」
すんでの所で、雲母がかごめをナイスキャッチ!
「珊瑚ちゃん・・・」
「全く・・・。危なっかしいんだから・・・かごめちゃん、無茶はだめだよ」
「ありがと・・・」
しかし、村人達はあきらめず槙に火を付けさらに投げようとした。
「散魂鉄爪!」
ザシュッ!
犬夜叉の爪がすべての槙を切り裂き、地面におちた。
「ぐっ・・・」
「よ・・・余計な事すんじゃねぇッ!!お、お前らも病にかかっちまうぞ・・・!いいのか!!」
「ですな・・・。病気が恐くて妖怪退治なんてできませんからね。珊瑚」
「臆病者で卑怯なあんたらなんかと違ってね!心も体もヤワじゃないよ!!」
飛来骨をぐっと構える珊瑚。
犬夜叉達の迫力にさすがの村人達も怖じ気づく・・・。
そして雲母からかごめが降り、ゆっくり村人達の方へ歩いてきた・・・。
少女を抱いたかごめが近づくと村人達は避けるように後ずさりする・・・。
「・・・。あなた達・・・。この子のこの痛々しい姿をを見て何も感じないの・・・?助けようとはおもはなかったの・・・?どうしてもっと早く手当しなかったの・・・?」
少女を包む犬夜叉の赤い衣にかごめの涙がポタッと染みこむ・・・。
「もっと早く手当していれば・・・治ったかもしれないじゃない!!どうしてほおっておいたのよ!!どうしてあんな汚れた場所に置きっぱなしにしておくのッ!!この子はゴミじゃないのよッ!!!人の命を何だと思ってるのよおッ!!!!!!」
かごめは少女の寝顔を見つめる・・・。
赤くただれた顔・・・。
少女の斑点の一つ一つが痛くて、痛くて
かごめの心に突き刺さる・・・。
いやそれ以上に・・・。
こんな小さな命を誰も助けようとしなかった村人達が許せない・・・。
何も知らず自分の腕の中で眠る少女の痛々しさが村人達に伝わらないことが・・・。
そして、こうして叫ぶしかできない自分が歯痒くて・・・。
歯痒くて・・・。
かごめの涙は止まらなかった。
そしてかごめの叫びは犬夜叉も珊瑚も、弥勒も、七宝も・・・。
皆同じ気持ち・・・。
サク・・・。
かごめはゆっくり村人達の中に入っていく・・・。
「うわぁ・・・ッ。近づくなッ!!そんなモンどっかにさっさと捨ててこいよ!!うつっちまっう・・・ッ」
村の男がまるで汚い物を避けるように手を激しく振って後ずさりした。
犬夜叉は怒りのあまり、男の胸ぐらを掴む。
「犬夜叉・・・。やめて・・・」
「だけど・・・ッ」
「・・・。殴ったってその人にこの子の痛みは・・・。伝わらないから・・・。いいの・・・」
かごめの言葉に犬夜叉は離した・・・。
そしてかごめは更にゆっくりと村人達の間を少女を抱いて歩く・・・。
村人達はまるで水が二つに裂ける様に、かごめから離れる・・・。
かごめはキッと村人達を睨み付け歩く・・・。
「おぁかぁ・・・。かゆいよ・・・いた・・いよ・・・」
眠っていても、無意識に顔の斑点を掻こうとする少女・・・。
生まれたての赤子を抱くように・・・。
包み込む・・・。
たった一つの宝物を抱くように・・・。
しかし・・・。村を出ていこうとした犬夜叉達の背中に向かって村人達は・・・。
「もう二度と、村にはくんな!!」
とかごめの背中に小石を投げた・・・。
村人達誰一人に伝わらなかったのだろうか・・・。
少女が放置されてあったあばら屋は崩れ、跡形もなく消えたのだった・・・。